第64話 二回戦
学院では、その日の昼――。
一回戦のすべての試合が終わった。
短い休憩を挟み、実技場の掲示板では、一回戦を勝ち抜いた班が二回戦の枠へ書き加えられていた。
「次はここだな」
カイルが指差した先に、ユウたち四人の名前があった。
その隣には、二回戦の相手となる四人。
テオ・グランツ。
ネル・サティア。
ロウ・ベイル。
ミア・レスタ。
「一回戦、見られなかったね」
リリアが言う。
「私たちの試合と近い時間でしたから」
エステルも名前を確認する。
分かっていることは少ない。
それでも、一回戦を経験したことで四人とも最初ほど緊張してはいなかった。
「今度も最初から場外を狙う?」
カイルが尋ねる。
「それだけに決めない方がいいと思う」
ユウは首を横に振った。
「相手も一回戦を勝ってきてるし、僕たちの試合を見てたかもしれないから」
「同じことをしたら読まれるってことか」
「うん。まず相手がどう動くか見よう」
やがて教師から名前を呼ばれ、四人は再び試合区域へ向かった。
◇
向かい側の四人も、すでに準備を整えていた。
テオとロウは武器を持っている。
後方ではネルとミアが杖を構えていた。
先頭にいたテオが、ユウたちを見て軽く笑う。
「一回戦、見たよ」
「俺たちの?」
カイルが聞き返した。
「ああ。あの光の障壁、結構厄介そうだった」
視線がユウへ向く。
ユウは目を丸くした。
「じゃあ、もう対策されてるかもね」
「するに決まってるだろ。二回戦なんだから」
ロウが肩を回しながら前へ出る。
「こっちも一回勝ってきてる。簡単にはいかないと思ってくれよ」
「望むところだ!」
カイルがすぐに返した。
「ちょっとカイル、始まる前から熱くならないでよ」
リリアが呆れたように言う。
向こうのミアが小さく笑った。
「仲いいんだね」
「まあな!」
「カイルが言うんだ」
「なんでだよ!」
短いやり取りのあと、両班はそれぞれ位置につく。
敵意というより、これから競い合う相手同士の空気だった。
「双方、準備はいいですね」
教師が左右を見る。
「――始め!」
カイルが前へ出る。
だが、今度は相手の二人が同時に動いた。
テオがカイルへ。
ロウはその横を抜け、リリアたちの方へ駆けてくる。
「二人来る!」
「分かってる!」
カイルがテオの剣を受ける。
その間にロウが一気に距離を詰めた。
「大地よ、その歩みを支えよ――《岩駆》!」
後方からネルの声が飛ぶ。
初級魔法《岩駆》。
ロウの足元へ小さな岩の足場が次々と現れ、踏み込むたびに身体を前へ押し出していく。
「速い!」
リリアが杖を構えた。
「水よ、弾けて押し返せ――《水弾》!」
初級魔法《水弾》。
水の塊がロウへ飛ぶ。
だがロウは身体を捻ってかわした。
「風よ、分かれて降り注げ――《風矢雨》!」
今度はミア。
中級魔法《風矢雨》。
十を超える細い風の矢が広がり、ユウたち後衛三人へ一斉に降り注ぐ。
「集いし光よ、我が意に従い、ここに巡りて隔てとなれ――《光障壁》!」
ユウが正面へ光の壁を展開する。
数本の風矢が光へぶつかった。
だが、残りは左右から回り込むように迫っている。
「リリア、下がって!」
「うん!」
エステルもすぐに同じ《光障壁》の詠唱を重ねる。
もう一枚の光の壁が横へ展開され、迫っていた風矢を受け止めた。
最後の風矢が弾けると、二枚の障壁も薄れて消えていく。
しかし、その隙にロウがさらに近づいてくる。
その背後では、ネルがもう一度杖を上げた。
「土よ、散りて礫となれ――《岩礫》!」
初級魔法《岩礫》。
複数の小石が宙へ浮かび、先ほどとは別の方向から一斉に飛んできた。
正面。
右。
上。
ユウは迫る魔法を目で追う。
見えている。
だが、一枚ずつ障壁を作っていては間に合わない。
――それなら。
ユウは両手を胸の前へ寄せた。
いつもの《光障壁》より多く魔力を集める。
「集いし光よ、我らを包み、守りの環となれ――」
リリアが振り返った。
「ユウ?」
「《光護陣》!」
淡い光が足元から広がった。
中級魔法《光護陣》。
ユウたち三人を囲むように半透明の光が立ち上がり、丸い膜となって覆う。
岩礫が次々と光へ突き刺さる。
細かな衝撃が何度も表面を揺らしたが、光は消えなかった。
「え……」
リリアが目を見開く。
「今の、中級……?」
「ユウさん、中級魔法を使えたんですか?」
エステルまで驚いていた。
「うん。少し前から、光魔法なら中級でも使えるものが少しだけあるよ!」
「お前、中級使えたのか!?」
テオと打ち合いながら、カイルまで声を上げる。
「今それ話してる場合じゃないよ!」
「それもそうだ!」
《光護陣》のすぐ外では、ロウが足を止めていた。
不用意に光の膜へ踏み込めず、攻めあぐねている。
やがて《光護陣》が消えた。
防いでいた時間は長くない。
それでも十分だった。
ユウはすぐに前を見る。
「リリア、今!」
「任せて!」
「流れる水よ、その足をさらえ――《流水》!」
初級魔法《流水》。
地面を這う水がロウの足元へ走った。
ロウが避けようと跳ぶ。
その着地点へ冷気が伸びる。
「氷よ、足場を閉ざせ――《氷床》!」
初級魔法《氷床》。
地面が薄く凍りつく。
「っ!」
着地したロウの足が滑った。
「巡る風よ、我が意に従い、ここに集いて前へ押し流せ――《風押》!」
初級魔法《風押》。
強い風がロウの身体を押す。
踏み止まることができず、そのまま身体全体が試合区域の外へ出た。
「ロウ・ベイル、場外!」
「よし!」
一人減った。
そこから流れは次第にユウたちへ傾いていった。
ネルとミアは距離を保ちながら魔法を撃ち続けたが、カイルがテオを押し込み、リリアとエステルが魔法で相手の進路を狭めていく。
やがてテオが場外。
ネルはカイルに距離を詰められて降参し、最後に残ったミアも杖を下ろした。
「……降参します」
「試合終了!」
教師が手を上げる。
「勝者――ユウ・リシェル班!」
「二回戦も突破だ!」
カイルが嬉しそうに振り返る。
だが、リリアとエステルは勝利を喜ぶより先にユウへ近づいた。
「ユウ、さっきの《光護陣》、魔力は大丈夫?」
「うん。でも、いつもの《光障壁》より多く使った感じはあるよ」
「なら、何度も続けて使うのは避けた方がよさそうですね」
エステルが言う。
「うん。必要な時に使うよ」
「勝った直後から反省会かよ」
戻ってきたカイルが笑う。
「次の試合もあるんだから大事でしょ」
リリアが返した。
「それもそうだな」
四人の声が重なり、先ほどまで張りつめていた空気がようやく緩んだ。




