↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第四章 学年別対抗戦編
PR
65/116

第63話 忍び寄る影

 リーヴェル王国から遠く離れた場所。


 高い城壁に囲まれた都市は、すでに夜を迎えていた。


 大通りにはまだ人の姿があり、建物の窓から漏れる灯りが石畳を淡く照らしている。


 少なくとも、街の様子だけを見ればいつもと変わらない夜だった。


 その中心にそびえる巨大な城。


 人通りの少ない一角にある部屋で、三人の男が机を囲んでいた。


 机の上には、何枚もの地図が広げられている。


 山脈。


 街道。


 いくつもの都市。


 そして、リーヴェル王国との国境線。


「国境付近の部隊は?」


 低い声が落ちた。


 机の前に立つ男は、黒い軍服の上から長い外套を羽織っていた。


 胸元には、いくつもの徽章が並んでいる。


「予定通りです」


 向かい側に立つ将校が答えた。


「第一、第二部隊ともに指定された地域への移動を開始しています。ですが、王国側から見れば通常の配置換えと判断できる範囲でしょう」


「それでいい」


 男は地図へ視線を落とした。


「今は目立つ必要がない」


「はい」


 指先が国境線をゆっくりとなぞる。


 だが、その指が線を越えることはなかった。


「物資は?」


「七割ほど。残りも数日中には指定場所へ届く予定です」


「遅らせるな」


 将校が頷いた。


 部屋の端には、もう一人の男が立っている。


 軍服ではない。


 灰色の上着に身を包み、それまで黙って二人のやり取りを聞いていた。


 黒い軍服の男がそちらを見る。


「王国内部は」


「問題ありません」


 灰衣の男が答える。


「いくつかの場所で準備を進めています。今のところ、予定からの遅れはありません」


「例の学院は?」


「そちらも順調です」


 男は懐から小さな紙片を取り出し、机の上へ置いた。


 書かれているのは、ほんの数行だけ。


 黒い軍服の男が目を通す。


「学年別対抗戦……」


「現在、一年生の対抗戦が行われています」


「警戒は?」


「教師の多くが実技場周辺に集まっています。ただし、学院全体の警備が弱くなっているわけではありません」


「当然だ」


 紙片が机へ戻される。


「余計なことはさせるな。疑われれば、それまでだ」


「承知しています」


「現地には?」


「必要なことしか伝えていません」


 灰衣の男は淡々と答えた。


「指定されたものを、指定された場所へ。それだけです」


「全体の目的は」


「知らせていません」


「その方がいい」


 黒い軍服の男が短く答える。


 将校が二人の顔を見た。


「……学院にまで手を入れる必要があるのですか?」


「何が言いたい」


「軍事施設ではありません。いるのは学生がほとんどです」


 少しだけ沈黙が落ちた。


「だからこそ、警戒の仕方が違う」


 男の指が、机の端に置かれていた別の地図へ移る。


 そこには学院と、その周囲の建物が細かく記されていた。


「王国はあそこを教育の場として扱っている。だが、魔法や術式に関する資料が集まり、将来王国を支える者たちも育つ」


「……」


「正面から扉を壊すより、内側に小さな綻びを作る方が容易なこともある」


 将校はそれ以上何も言わなかった。


「もっとも、まだ動く時ではない」


 黒い軍服の男が椅子へ腰を下ろす。


「準備が整う前に何か起こせば、こちらの存在を知らせるだけだ」


「設置には、もう少し時間が必要です」


「どれほどだ」


「対抗戦の終盤までには、すべて揃えられるかと」


「なら問題ない」


 部屋に静けさが戻った。


 将校は再び国境の地図を見る。


 以前より僅かに増えた駒。


 指定地点へ運ばれている物資。


 そして、王国内部で同時に進められている何か。


「王国側が気づけば、動くでしょう」


「ああ」


 黒い軍服の男は否定しなかった。


「いずれはな」


「その時は?」


 男はしばらく答えなかった。


 代わりに、一つの駒へ指を伸ばす。


 国境から少し離れた位置にあったそれを、僅かに前へ動かした。


「だからこそ、気づかれる前に整える」


 一つ。


 続けて、もう一つ。


 駒が少しずつ国境へ近づいていく。


「急ぐ必要はない」


 指が離れた。


「急げば、それだけ痕跡が残る」


 灰衣の男が一礼した。


「では、学院についても予定通りに」


「ああ」


 黒い軍服の男は学院の地図へ視線を移した。


「まだ大きく動かすな」


「承知しました」


「今は――」


 地図の中央。


 実技場と思われる場所に、指先が触れる。


「何も知らず、対抗戦を続けていればいい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。