第62話 首席の班
一回戦を終えたユウたちは、試合区域の外へ戻っていた。
「勝ったな!」
カイルはまだ興奮が収まらないらしく、木剣を返却したあとも何度も試合場を振り返っている。
「さっきからそればっかりだよ」
リリアが笑った。
ユウも小さく息を吐く。
「ユウ、大丈夫?」
「うん。少し魔力は使ったけど、まだ平気だよ」
何度も《光障壁》を使った分の疲れはある。
けれど、以前ならもう少し身体が重くなっていた気がする。
魔法を使える時間も、少しずつ伸びているのかもしれない。
「最初にロイドさんを場外にできたのが大きかったですね」
エステルが言った。
「四対三になったら、一気に動きやすくなったもんな」
「でも最初は大変だったね。四人が別々に動くから、どこを見ればいいのか迷ったよ」
ユウは先ほどの試合を思い返す。
一体の魔物へ四人で向かうのとは、まったく違った。
その時、試合場から教師の声が聞こえた。
「次の試合を行います。アレン・クロイス、セリア・ノルヴァ、ルーク・ハイネ、ディン・カルス」
「あっ」
ユウが顔を上げる。
「アレンたちだ」
「ちょうどいい。見ていこうぜ」
カイルもすぐに試合場へ目を向けた。
◇
アレンたち四人が試合区域へ入っていく。
向かい側にも四人の生徒が並んだ。
二人が武器を持ち、その後ろに杖を構えた二人。
アレンは木剣を握り、セリア、ルーク、ディンが少し距離を取って並ぶ。
「双方、準備はいいですね」
教師が確認する。
「――始め!」
相手の前衛二人が同時に走った。
一人はアレンへ。
もう一人はルークの方へ向かう。
その瞬間、セリアが杖を地面へ向けた。
「大地よ、道を分かて――《岩路》!」
中級魔法《岩路》。
低い岩の隆起が斜めに連なり、走っていた生徒の進路を狭める。
「くっ!」
相手が空いている方へ方向を変えた。
そこへディンが杖を振る。
「流れる水よ、その足を捕らえよ――《水帯》!」
中級魔法《水帯》。
細長い水の流れが地面を走り、相手の足元へ絡みつく。
踏み込みが鈍った。
「雷よ、弾けろ――《雷弾》!」
初級魔法《雷弾》。
ルークの杖先から小さな雷球が放たれる。
相手は《水帯》から足を抜きながら、反対側へ大きく避けた。
だが、そこにはセリアの岩がある。
「うわっ!」
体勢を崩し、区域の端までよろめく。
ディンがもう一度杖を動かした。
足元に残っていた《水帯》が横へ流れ、踏ん張ろうとした足をさらう。
生徒はさらに二歩よろめき、そのまま身体全体が試合区域の外へ出た。
「一名、場外!」
「早い……」
リリアが目を丸くした。
ユウも試合から目を離さない。
セリアが進める場所を限定した。
ディンが足を鈍らせた。
ルークが避ける方向を作った。
ほとんど声を掛け合っていないのに、三人の動きがつながっている。
「みんな、次に何をするのか分かってるみたい」
「遠征の時より速いな」
カイルも真剣な顔で見ていた。
その間にも、アレンは相手の前衛と剣を交えている。
相手が横から木剣を振る。
アレンは半歩だけ下がった。
空を切った剣が戻るより早く、一歩踏み込む。
相手もすぐに突きを放った。
アレンは身体を僅かに外へずらす。
ユウには、一つ一つの動きがはっきり見えていた。
相手の剣へ木剣を添え、外側へ流す。
崩れた手元。
空いた正面。
次の瞬間には、アレンの木剣の先が相手の胸元で止まっていた。
「……降参する」
「一名、降参!」
「すごい……」
ユウが思わず呟く。
速い。
けれど、それだけではない。
相手が動いたあとに対応しているようで、その次にどこが空くのかまで分かっているように見える。
残りは二人。
後方にいた魔法使いが杖を構えた。
「炎よ、連なれ――《火連弾》!」
初級魔法《火連弾》。
三つの小さな炎が、アレンたちへ向かって飛ぶ。
「散って!」
セリアの声と同時に四人が動いた。
一発をアレンがかわし、もう一発をディンが水流で逸らす。
最後の一発をセリアが横へかわす。
その時には、もうルークが駆け出していた。
「雷よ、その身を駆けよ――《雷歩》!」
中級魔法《雷歩》。
足元に小さな雷光が走り、ルークの身体が一気に加速する。
「速っ!」
カイルが声を上げた。
相手が杖を向け直す前に、ルークが横を抜ける。
背後へ回られた生徒は慌てて距離を取ったが、その先には試合区域の線があった。
「止ま――」
ぎりぎりで踏み止まる。
だが、その足元へディンの《水帯》が走った。
踏ん張りを崩され、そのまま身体全体が試合区域の外へ出る。
「場外!」
最後の一人が周囲を見回した。
正面にはアレン。
左右にはセリアとルーク。
後ろではディンが杖を構えている。
しばらく迷ったあと、静かに杖を下ろした。
「……降参します」
「試合終了!」
教師が手を上げる。
「勝者――アレン・クロイス班!」
実技場から拍手が上がった。
◇
戻ってきたアレンへ、ユウがすぐに近づいた。
「アレン、すごかった!」
「ありがとう」
アレンが少しだけ表情を緩める。
「でも、相手の剣を外へ流したあと、もう少し早く入れたと思う」
「またそれかよ」
後ろからルークが呆れた声を出した。
「勝ったんだから、今くらい喜べばいいだろ」
「本当です」
セリアも小さく息を吐く。
ディンは苦笑しながら掲示板へ目を向けた。
そこには、アレンたちの勝利を示す印が新しく書き加えられている。
ユウたちの名前の先にも、同じ印があった。
二つの班が、それぞれ次の試合へ進んでいた。




