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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第三章 学院遠征編
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第48話 初めての対処実習

「今回は、討伐まで行います」


 マルクの言葉に、倒木の向こうにいる樹甲蜥蜴へ意識を戻した。


 まだこちらには気づいていない。


「倒す必要があるんですか?」


 気になって、先に尋ねる。


「あります」


 マルクは頷いた。


「この場所は、ほかの合同班も通る観察路のすぐ近くです。樹甲蜥蜴は縄張りへ入った相手に攻撃することがあります。このまま残せば、後続の班と接触する可能性があります」


「そうなんですね」


 それなら、ただ戦うための実習ではない。


「まず特徴を説明する」


 ガレスが樹甲蜥蜴の方を示した。


「見ての通り、背中の甲殻が硬い。剣でも初級魔法でも、正面から何度も攻撃するのは効率が悪い」


「じゃあ、弱いところがあるんですか?」


 カイルが尋ねる。


「腹側だ。首の下も比較的柔らかい。ただし、そこを狙おうとして横へ回り込むと尾が来る」


 樹甲蜥蜴の太い尾が、草の上をゆっくりと動いていた。


「動きそのものは速くない。主な攻撃は突進と尾だ。だからといって、真正面で受けようとはするなよ」


 硬い背中。


 柔らかい腹。


 突進。


 尾。


 教えられた特徴を頭の中で一つずつ並べる。


「条件を満たす個体が見つかれば、三班それぞれに対処してもらいます」


 マルクが続けた。


「この個体は、まずユウさんたちの班が担当してください」


「はい」


 四人が前へ出る。


 ガレスは離れた場所で足を止めた。


「危ないと判断したら俺が入る。その時点で実習は終了だ」


 灰牙狼の時とは違う。


 近くにはガレスがいる。本当に危険になれば止めてもらえる。


 だからといって、油断していいわけではない。


 相手がEランクでも、攻撃を受ければ怪我をする。


「どうする?」


 カイルが声を落とした。


 背中の甲殻を斬っても効きにくい。


 横へ回れば尾がある。


 なら――。


「まず、動きを止めよう」


「そのあと?」


「横倒しにできたら、腹側を狙えると思う」


 リリアが樹甲蜥蜴へ顔を向ける。


「じゃあ、まず脚を止める?」


「うん。硬いところを無理に攻撃しなくていいでしょ?」


 エステルが頷いた。


「では、動きを崩してから脚を封じるのがよさそうですね」


「僕が最初に進む向きをずらすよ。そのあと、リリアとエステルで脚を止められる?」


「やってみる」


「可能だと思います」


「じゃあ俺が最後か」


 カイルが剣を抜いた。


「横倒しになったところで、腹を狙えばいいんだな」


「うん」


 やることは単純だった。


 硬い背中を無理に攻めない。


 動きを崩す。


 脚を封じて横倒しにする。


 最後に、柔らかい腹側をカイルが狙う。


     ◇


 四人で距離を詰める。


 樹甲蜥蜴が顔を上げた。


 気づかれた。


 低い唸り声とともに、身体の向きが変わる。


「来るよ」


 短い脚が地面を蹴った。


 思っていたより速い。


 大型犬ほどの身体が、一直線に向かってくる。


 正面から止める必要はない。


 右手を上げ、詠唱する。


「集いし光よ、我が意に従い、ここに巡りて隔てとなれ――《光障壁》!」


 進路に対して斜めに、淡い光の障壁が現れた。


 樹甲蜥蜴の頭がぶつかる。


 鈍い音とともに、障壁が大きく揺れた。


 けれど、受け止めない。


 突進の力を横へ逃がす。


 樹甲蜥蜴の身体が右へ逸れた。


「今!」


 リリアが杖を向ける。


「流れし水よ、我が意に従い、ここに集いて形を成せ――《水球》!」


 生まれた水球が地面へ弾け、樹甲蜥蜴の足元を濡らした。


 エステルもすぐに続く。


「氷よ、足場を閉ざせ――《氷床》!」


 冷気が地面を走った。


 濡れた土が一気に凍りつき、前脚が滑る。


 身体が大きく傾いた。


 ――いける。


 その瞬間、太い尾が横へ動く。


「カイル、待って!」


 踏み込もうとしていたカイルが足を止めた。


 直後、尾が目の前を薙いでいく。


「危なっ……」


 まだだ。


 傾いただけでは、腹側を十分に狙えない。


 樹甲蜥蜴は氷の上で脚を動かし、体勢を戻そうとしている。


 ここで立て直されたら、また最初からになる。


「リリア、反対側!」


「分かった!」


 リリアが再び詠唱へ入る。


「流れし水よ、我が意に従い、ここに集いて形を成せ――《水球》!」


 今度は、踏ん張ろうとしている後脚の下へ水球が弾けた。


 エステルも同じ場所へ杖を向ける。


「氷よ、足場を閉ざせ――《氷床》!」


 冷気が重なり、後脚の周囲が地面ごと凍りつく。


 樹甲蜥蜴が身体を起こそうとした。


 片方の脚が動かない。


 重心が崩れる。


 そのまま身体が横倒しになった。


 太い尾も下側へ入り込み、すぐには振れない。


「カイル!」


「任せろ!」


 今度こそ、邪魔するものはなかった。


 カイルが一気に距離を詰める。


 狙うのは硬い背中ではない。


 露出した腹側へ、剣を振り下ろした。


 一撃。


 樹甲蜥蜴の身体が大きく震える。


 もう一度動こうとして――止まった。


     ◇


「そのまま近づくな」


 ガレスの声が飛ぶ。


 カイルがすぐに数歩下がった。


 代わりにガレスが近づき、樹甲蜥蜴の状態を確かめる。


 やがて、こちらへ振り返った。


「討伐完了だ」


 四人の身体から同時に力が抜けた。


「……灰牙狼の時より、ずっと短かったね」


 リリアが言った。


「相手が一段下なのもあります」


 エステルが続けた。


「それに今回は、最初から相手の特徴を教えていただきました」


 その通りだった。


 灰牙狼の時は、何ができるのかも分からないところから始まった。


 今回は違う。


 硬い場所。


 弱い場所。


 攻撃の仕方。


 知っている情報をもとに、自分たちのやり方を考えることができた。


「一つ聞く」


 ガレスが四人へ向き直る。


「どうして正面から倒そうとしなかった?」


「背中が硬いって聞いたからです」


「そこを何度も攻撃するより、柔らかいところを狙える状態にした方が早いと思って」


「そうだな」


 ガレスは頷いた。


「相手の苦手なところを知っているなら、得意なところで力比べをする必要はない」


 カイルが剣を鞘へ戻す。


「炎も使わなかったな」


「ここで使ったら森まで燃えるだろ」


「分かってるならいい」


「そこは最初から分かってるって」


 ガレスはそれ以上何も言わず、凍った地面へ顔を向けた。


「それと、途中で止まれたのも悪くない」


「尾の時ですか?」


「ああ。最初に決めた通りに動くことより、目の前の危険を優先しろ。予定は途中で変えていい」


 最初に立てた作戦通りには進まなかった。


 尾を避け、脚を封じる場所を変えた。


 それでも四人とも、怪我をせずに終えることができた。


 マルクが後ろで待っていた生徒たちへ向き直る。


「では、観察を続けましょう。次に実習可能な個体が見つかった場合は、次の班に担当してもらいます」


 四人はほかの生徒たちのところへ戻った。


 次に樹甲蜥蜴が見つかったら、ほかの班はどう戦うのだろう。


 今度は、それを観察する番だった。

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