↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第三章 学院遠征編
PR
47/116

第45話 出発

「第三合同班、十二人揃ってるな?」


 学院の正門前で、ガレスが一人ずつ顔を確かめた。


 朝の広場には、一年生たちが合同班ごとに集まっている。


 その間を教師や護衛の冒険者が行き来し、何台もの荷車には大型天幕、食料、飲料水、調理器具などが積み込まれていた。


「全員います」


 マルクが名簿へ印をつける。


「出発前に携行品だけ見ておきましょう。行動中に必要なものは、自分たちで持っていますね?」


 十二人がそれぞれ鞄や背負い袋へ目を向けた。


「地図、記録用紙、筆記具……ある」


 ユウは一つずつ確かめていく。


「救急用品もあります」


 エステルが鞄を示した。


「縄も灯具も、向こうの班で持ってるみたい」


 リリアが隣の二班を見る。


 それぞれが自分たちの荷物を点検していた。


 五日分すべてを背負うわけではない。


 大きな荷物は荷車が運んでくれる。


 それでも、実際に背負ってみると普段学院へ通う時よりはずっと重かった。


「これで五日間か」


 カイルが肩紐を直した。


「大きい荷物は荷車だから、これでもかなり少ないんだよね」


「五日分全部だったら、歩く前に疲れるな」


「それはありそう」


 準備を重ねてきた四泊五日の遠征が、ようやく始まろうとしていた。


     ◇


「出発します!」


 先頭から声が届いた。


 荷車がゆっくりと動き始め、合同班ごとに学院の門を抜けていく。


 第三合同班も列へ加わった。


 門を出たところで、ユウは一度だけ後ろを振り返る。


「どうしたの?」


 リリアが尋ねた。


「五日も学院に戻らないの、初めてだなって思って」


「帰ってきたら、またいつも通りだよ」


「うん」


 学院の建物は、歩くほど少しずつ遠くなっていった。


 街の中は見慣れた景色だった。


 店を開ける商人。


 荷物を運ぶ人々。


 通りを行き交う馬車。


 違うのは、制服姿の一年生が長い列を作っていることくらいだ。


「本当に全員で行くんだな」


 カイルが前を見る。


 先頭はかなり遠い。


 後ろにも、まだいくつもの合同班が続いている。


 普段は四人で行動することが多い。


 初めて冒険者の依頼へ出た時も、森を歩いたのは四人だけだった。


 今回は違う。


 第三合同班だけでも十二人。


 その外側にも教師と冒険者がいて、さらに一年生全体が同じ目的地を目指している。


 同じ遠出でも、まるで別のものに感じた。


     ◇


 街の門を抜けると、石畳の道は徐々に細くなった。


 左右に畑が広がり、その先には草原と森が続いている。


「世界樹まで、ずっと歩きですか?」


 少し前で、ルークがマルクに尋ねていた。


「基本的には歩きます。荷車は物資用ですからね」


「分かりました」


 そこでルークはガレスの方を見る。


「ガレスさん、本当に歩けなくなったら背負ってくれるんですか?」


「昨日も言っただろ。運べるが、運びたくはない」


「じゃあ、自分で歩きます」


「最初からそうしてくれ」


 後ろから聞こえた会話に、カイルが小さく肩を揺らした。


 列はそのまま街道を進んでいく。


 道沿いには、学院の周囲ではあまり見かけない植物も増えてきた。


 リリアが足元を見ながら言う。


「これ、授業で見た草に似てない?」


「葉の先がちょっと違うね」


 ユウも見た。


「次の休憩で先生に聞いてみようか」


「そうしよ」


 見たことのないものを見つけるたび、足を止めたくなる。


 けれど今日は観察の日ではない。


 まず目的地へ着かなければならない。


「ユウ」


 後ろからアレンが並んだ。


「昨日の地図、覚えてる?」


「うん。このまま南東に進んで、森の手前で一度休憩するんだよね」


「僕もそう覚えてる。実際の道と見比べてみたくて」


「休憩した時、一緒に見ようよ」


「そうしよう」


 歩きながら地図を広げる必要はない。


 今は道を見る。


 確認するのは、止まってからでいい。


     ◇


 最初の休憩では、アレンと地図を広げた。


 歩いてきた街道。


 途中で分かれていた脇道。


 現在地。


 紙の上で見ていた線が、少しずつ実際の景色へ変わっていく。


 地図を片づけ、再び歩き始めてからしばらく経った頃だった。


 前方から声が上がった。


「見えた!」


「あっちだ!」


 列のあちこちで、生徒たちが同じ方向を見る。


 ユウも顔を上げた。


 森と丘の、そのさらに向こう。


 空へ伸びる巨大な影があった。


 一瞬、山かと思った。


 違う。


 一本の幹だった。


 大地から伸びた太い幹。


 遥か高い場所から幾重にも広がる枝。


 その上を覆う樹冠は、遠くからでも一つの森のように見える。


「……」


 足が止まった。


「ユウ?」


 リリアの声がする。


 すぐには答えられなかった。


 本で何度も読んだ。


 絵も見た。


 高さも、幹の太さも知っている。


 けれど。


 数字を覚えていることと、その大きさを知っていることは、どうやら同じではなかったらしい。


「……世界樹」


 ようやく声が出た。


「本当に……あんなに大きいんだ」


「まだかなり遠いぞ」


 カイルも見上げている。


「うん」


 それでもユウの瞳は、巨木からなかなか離れない。


「本で見てた時は、分かってるつもりだったんだけどな……」


 隣に来たアレンも、遠くの世界樹を見上げた。


「実物を見ると、全然違うね」


「うん。全然違う」


 前方からガレスの声が飛んできた。


「見るのは構わないが、足は止めるなよ」


「あ、はい!」


 慌てて列へ戻る。


 歩き出しても、何度も世界樹へ目が向いた。


 こちらが近づくたび、巨大な幹はさらに大きくなる。


 まだ遠い。


 それなのに、空の一部が世界樹で埋まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。