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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第三章 学院遠征編
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第43話 五日間の支度

 第三合同班が集められた教室には、普段の授業では使わない道具がいくつも並んでいた。


 折り畳まれた地図。


 灯具。


 縄。


 救急用品。


 雨具。


 その横には、五日間の日程を記した紙も置かれている。


「改めて見ると、結構あるな」


 カイルが机の上を見渡した。


「今回は一日じゃないからね」


 リリアも日程表へ目を落とす。


 十二人が席につくと、クラリスが前へ出た。


「今日は遠征中の行程と、皆さんが携行するものを決めます。まず日程に目を通してください」


『一日目 学院出発・第一野営地設営』


『二日目 森林・植物観察・低位魔獣対処実習・《星降りの樹冠》夜間観察・第一野営地泊』


『三日目 根域へ移動・《大地の鼓動》観察・第二野営地設営』


『四日目 《命の泉》周辺観察・第二野営地泊』


『五日目 撤収・学院へ帰還』


「星降りの樹冠、二日目なんだ……」


 ユウの声が小さく弾んだ。


「やっぱり、そこから見るんだね」


「夜にしか見られないから。どんなふうに降ってくるのかなって」


「寝る時間まで見てそうだな」


「時間になったら戻るよ」


「当然です」


 エステルに言われ、素直に頷く。


「それより、これ」


 カイルが一つ上の行を指した。


「低位魔獣対処実習って、魔獣と戦うのか?」


 何人かの視線がクラリスへ集まる。


「実習区域では、事前に確認された低位魔獣への対処も行います。教師が実習可能と判断した場合には、討伐まで経験してもらうことがあります」


「本当に?」


 ルークが身を乗り出した。


「対象となるのは、学院と冒険者ギルドが生息を把握している魔獣です。基本的にはEランク。一年生でも四人班で対処できると判断されたものに限ります」


「Eランク……」


 カイルが呟く。


 自分たちが遭遇した灰牙狼はDランクだった。


 それより一段階下になる。


「ただし」


 クラリスの声に、カイルが顔を上げた。


「ランクが低いことと、安全であることは同じではありません。攻撃を受ければ怪我をしますし、対応を誤れば危険な状況にもなります」


「じゃあ、倒す練習なんですか?」


 リリアが尋ねた。


「それだけではありません」


 答えはすぐに返ってきた。


「敵対する必要がなければ離れる。戦闘を避けられないなら四人で役割を分ける。自分たちでは危険だと判断した場合は、教師や護衛へ引き継ぐ。それらすべてを含めて対処です」


 エステルが日程表へ視線を戻す。


「討伐できたかどうかだけで評価するわけではないのですね」


「ええ。無理をしない判断も学んでもらいます」


 クラリスは十二人を見渡した。


「ユウさんたち四人はすでに灰牙狼との戦闘を経験していますが、あれは本来、一年生に経験させる状況ではありません」


「はい」


 ユウは頷いた。


「今回も同じように戦えばよいとは考えないでください」


「分かりました」


 勝てたから、すべてが正しかったわけではない。


 それはもう、あの依頼のあとに教わっている。


 三日目には《大地の鼓動》。


 四日目には《命の泉》。


 魔獣への対処も含めて、五日間で経験することは思っていた以上に多そうだった。


     ◇


「次は荷物です」


 クラリスが黒板を二つに分けた。


『学院側で運搬』


『生徒が携行』


 一方には大型天幕、五日分の食料や飲料水の大半、大型調理器具、予備物資。


「これらは荷車で運びます。五日分すべてを皆さんが背負うわけではありません」


「よかった……」


 ルークが小さく息を吐く。


「ただし、荷車は観察路のすべてへ入れるわけではありません」


 もう一方へ文字が増える。


『地図・記録用品』


『救急用品』


『縄』


『灯具』


『雨具』


『当日分の水・食料』


『設営用具』


「行動中に必要なものは、自分たちで持ってください。重さが一人へ偏らないよう、三班で調整します」


 クラリスは机の上から三枚の用紙を取り上げた。


「その前に、前回まとめた内容を確認してください」


 三つの班へ、一枚ずつ用紙が返される。


 合同班の顔合わせで、自分たちが書き込んだものだった。


『できること』


『苦手なこと』


『他の班に任せられること』


 ユウたちの紙にも、四人で話し合った内容が残っている。


「今日はこれをもとに、実際の携行品を割り振ります」


 十二人は改めて用紙へ目を通した。


     ◇


「救急用品は私たちで持ちましょう」


 エステルが箱へ手を伸ばす。


「地図と記録用紙もこっちでいいね」


「灯具は俺たちが持つ」


 レオンが手に取る。


「縄も一本こっち」


 ミナが続けた。


 アレンたちの班では、セリアが荷物を持ち上げながら重さを比べている。


「こちらはまだ余裕があります。設営用具を一つ回してください」


「なら、灯具を一つこっちへ移そう」


 一度決めても、実際に持てば重さが違う。


 十二人で何度か入れ替え、偏りを減らしていった。


 救急用品の箱も開く。


 包帯。


 消毒用の薬。


 固定具。


「これは絶対必要だね」


「今回は俺も反対しないぞ」


「前は『薬草採取で怪我するか?』って言ってたのに」


「実際したんだから仕方ないだろ」


「経験って大事だね」


「できれば違う経験で学びたかったけどな」


 箱の蓋を閉じ、今度は地図へ目を移した。


 経路の途中には、予定変更時の集合地点がいくつか記されている。


「天候や体調によって、行程を変更する場合があります。予定から外れた時ほど、自分たちがどこにいるのか、次にどこへ集まるのかを見失わないこと」


 ユウは地図上の印を順番に追った。


 覚えているから持たなくていい、とは考えない。


 それも、最初の依頼で覚えたことだった。


     ◇


 ひと通りの点検を終えると、クラリスが用紙をまとめた。


「今日決めた内容は学院側でも見直します。必要があれば出発前に調整します」


 そして、もう一枚の紙を手に取る。


「第三合同班に同行する教師と、護衛を担当する冒険者も決まりました」


 カイルとルークがほとんど同時に前を向いた。


「そのAランクの人も、明日の顔合わせに来るんですか?」


「はい」


「どんな人なんだろうな」


「Aランクなら、一回くらい戦ってるところ見てみたいな」


「顔合わせする前から戦わせないでよ」


 セリアが返した。


「質問があるなら、明日本人に聞いてください」


 クラリスはそう言って、机の上の用紙を重ねた。


 十二人も、使った道具をそれぞれ元の位置へ戻し始めた。

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