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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第一章 人里へ続く道
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第3話 森の家へ

挿絵(By みてみん) 

 

 学院案内から、細長い紙が何枚も飛び出していた。


「……ちょっと多かったかな」


 森から町へ向かう道を歩きながら、ユウは冊子を抱え直す。


 昨夜、分からないところへ印を挟んでいたら、いつの間にか増えていた。


 入学するには何が必要なのか。


 魔法が得意でなくても学べるのか。


 授業や図書館はどんなところなのか。


 考えるほど、聞きたいことは増えていった。


 古書店へ着くと、リリアの姿はまだない。


 店主へ挨拶を済ませ、待つ間に昨日もらった魔法書を開いた。


「そうだ。これも見てもらいたかったんです」


 挟んでいた術式図を差し出す。


 そこには、結界の形と魔力の流れが細かく描かれていた。


「昨日の式についてなんですが、外へ力を逃がすだけじゃなくて、内側にも細い道を作ったら、揺れにくくなるんじゃないかと思って」


 店主は図を眺めた。


「これを一晩で考えたのか?」


「はい。まだ図にしただけです」


「それならいい」


「え?」


「考えるのは構わん。ただし、術式を変えれば結果も変わる。紙の上で正しく見えても、実際に魔力を流した時まで同じとは限らん」


「分かりました。ちゃんと確かめてから試します」


 店主が術式図を返したところで、通りから声が飛んできた。


「ユウ!」


「リリア!」


 店先へ出ると、リリアが学院案内から突き出した紙を見て目を丸くした。


「……それ、全部?」


「うん」


「何個あるの?」


「数えてないよ。たくさんある」


「それは見れば分かるよ」


 二人は店先の長椅子へ並んで座った。


「じゃあ、どこから聞く?」


「まずこれ!」


 ユウが最初の印を開く。


「属性って七つあるんだよね?」


「火、水、氷、土、風、雷、光。学院では最初に水晶で適性を見るよ」


「リリアは?」


「水と風。まだ基礎だけだよ」


「二つも使えるんだ! 今度見せてもらってもいい?」


「水ならいいよ」


「本当? 見たい!」


 授業、実技、食堂、寮。


 質問は途切れなかった。


 中でもユウが一番身を乗り出したのは、図書館の話だった。


「本棚が何列もあって、高いところは梯子を使うんだよ」


「そんなにあるの?」


「魔法だけじゃないよ。歴史、薬草、魔物、地理も」


「一日中いられそう……」


「授業まで忘れないでよ」


「それは困るね」


 真剣に答えるユウに、リリアの口元が緩む。


 その時、金色の飾りを付けた馬車が通りを進んできた。


 人々が道端へ寄る。


「あれは?」


「貴族の馬車だよ」


「貴族?」


「中には、平民を見下す人もいるんだ」


「同じ人なのに?」


「みんなが同じように考えるわけじゃないよ」


「リリアも、何か言われたことがあるの?」


「どうして分かったの?」


「今、嫌そうな顔をしたから」


 リリアは一拍置いて答えた。


「学院で、平民は後ろの席に座れって言われたことがある」


「そんな決まりがあるの?」


「ないよ。先生が注意してくれた」


「そっか。よかった」


 ユウはそれから、少しだけ考える。


「僕も、ちゃんと周りを見るようにするね」


「貴族に失礼なことを言わないように?」


「ううん。誰かが嫌なことを言われてたら、気づけるように」


 リリアは静かに頷いた。


「……うん。ユウらしいね」


 話しているうちに、ユウはこの街の名がリーヴェルだと初めて知った。


「リーヴェル……きれいな名前だね」


「今まで何て呼んでたの?」


「街」


「そのままだね」


     ◇


 昼を過ぎた頃、リリアが尋ねた。


「そういえば、ユウの家ってどんなところ?」


「小さいよ。まだ壁も曲がってるし」


「昨日、自分で直してるって言ってたよね」


「うん。今日も帰ったら続きをするよ」


「……見に行ってもいい?」


「僕の家に?」


「一人で森に住んでるって聞いたら、気になるよ」


 ユウの顔がぱっと明るくなる。


「もちろん! じゃあ今度は僕が案内するね」


 二人は城門を出て、森の奥へ向かった。


「町にはまだ慣れてないけど、今日は昨日より歩きやすかったよ」


「どうして?」


「リリアがいろいろ教えてくれたから」


「私、そんなに教えた?」


「いっぱい教えてくれたよ」


 やがて、不揃いな板で作られた家が見えてくる。


 屋根には補修の跡が残る一方、薪と畑はきちんと整えられていた。


「これ、本当にユウが直したの?」


「うん。最初は壁に大きな穴もあったんだ」


「すごいね」


「まだ直したいところはいっぱいあるんだ」


 家の中には机と椅子、かまど、本棚。


 机の端には一枚の紙が置かれていた。


『守る魔法について』


 その下には、いくつかの言葉が並んでいる。


 守る。


 驚かせない。


 安心できるようにする。


 攻撃をそらす。


「ユウって、やっぱり守る魔法が使いたいんだね」


「うん」


 ユウは紙へ手を添えた。


「誰かに勝つより、困ってる人の前に立てるようになりたいんだ」


「前に立つ?」


「その人が僕を見て、『もう大丈夫かも』って思ってくれたら、すごく嬉しいから」


「ユウ自身が困ってる時は?」


「その時にちゃんとできるかは、まだ分からないよ」


 一度言葉を切り、それからはっきりと言った。


「でも、できるようになりたい!」


 リリアは紙を机へ戻した。


「だったら、やっぱり学院で勉強しないとね」


「うん。僕、もっと知りたい」


 学院案内を大切そうに抱えた。


「学院で学んでみたいな」


     ◇


 そのあと、ユウはお茶を出そうとした。


 ところが火打ち石を何度鳴らしても、火はすぐに消えてしまう。


「乾いた草を先に置いて、その上に細い枝を重ねてみて」


「こう?」


「うん。いきなり太い薪へ火をつけなくていいよ」


 教わった通りにすると、今度は火が残った。


「ついた!」


 湯を沸かし、乾かした葉を入れる。


 二人で一口飲んだ。


「…………」


「……苦いね」


「うん。すごく苦い」


「葉っぱ、入れすぎたんじゃない?」


「次は減らしてみる」


「はちみつを入れると飲みやすいかも」


「はちみつ?」


「甘いよ」


「じゃあ、今度試してみたい!」


 日が傾き始め、リリアは帰る支度をした。


「また家に来てもいい?」


「もちろん! また来て!」


「次は、もう少し飲みやすいお茶にしようね」


「うん。葉っぱを減らして、はちみつだよね?」


「ちゃんと覚えてるね」


「こういうことは忘れないよ」


 二人は森の別れ道まで一緒に歩いた。


「またね、ユウ」


「うん。またね、リリア!」


 リリアが街へ続く道を歩き出す。


 ユウはその姿が見えなくなるまで手を振り、それから自分の家へ戻っていった。

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