↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第二章 王立学院編
PR
33/116

第32話 草むらの向こう

 四人は採取場所から少し離れ、先ほど渡った小さな橋の近くまで戻った。


 街道脇には一本の大きな木があり、その下だけ草が短い。旧街道を歩く者が休憩に使う場所らしく、腰を下ろせる平たい石もいくつか並んでいた。


「ここなら籠も置きやすそうだね」


 リリアとエステルが、二つの採取籠を木陰へ下ろす。


 ユウも鞄を置き、籠の中を覗き込んだ。


「十五束、ちゃんとあるよ!」


「葉も潰れていませんね」


 エステルが束の向きを整える。


「これなら、帰る途中も崩れにくそうです」


「じゃあ、ひとまず成功だな」


「十五束はちゃんと集まったもんね」


 カイルが平たい石へ腰を下ろした。


 記録用紙を開き、採取を終えた時刻を書き加える。


 草が倒れていた場所についても、地図へ印をつけてある。近づいて調べてはいないため、記録したのは見えた範囲だけだ。


「これで、今できる記録は終わりかな」


「はい。見たことは全部書けています」


「じゃあ、お昼にしよう!」


「待ってました」


「カイルはそればっかりだね」


     ◇


 四人はそれぞれ昼食を取り出した。


 カイルの包みには、厚く切った肉を挟んだパンが二つ入っている。


「二つも持ってきたの?」


「歩くんだから腹減るだろ」


「まだそんなに歩いてないよ」


「帰りもある」


 エステルは小さなパンと果物。


 リリアは薄く焼いたパンに野菜を挟んだものを用意していた。


 ユウが自分の包みを開くと、丸いパンの隣から小さな包みが一つ出てくる。


「それ何?」


「焼き菓子!」


 包みを持ち上げる。


「寮で分けてもらったんだ。四つあったから、あとでみんなで食べようと思って」


「本当に?」


「うん。昨日見つけて、外でみんなと食べたらおいしそうだなって」


「じゃあ、食後ね」


「うん!」


 木の葉の隙間から差す光の下で、四人は昼食を食べ始めた。


 風が吹くたび、近くの水路から涼しい空気が届く。


 学院の食堂では聞こえない鳥の声や、葉の擦れる音がすぐそばにあった。


「こういうのも悪くないな」


 カイルが肉の挟まったパンを頬張る。


「薬草採取?」


「それもだけど、外で飯食うの」


「掲示板を見た時は、討伐依頼がないって残念そうだったのに」


「今も、いつかはやってみたいぞ。でも今日は今日で結構楽しい」


「私も」


 リリアが頷いた。


「依頼で四人そろって町の外まで来たの、初めてだもんね」


「うん」


 木々の向こうへ視線を向ける。


「これから依頼が増えたら、こういう日も増えるのかな」


「たぶんね」


「それなら楽しみだなあ」


 自然と声が弾んだ。


「次は別の道かもしれないし、もっと遠い場所へ行くこともあるかもしれない。これからも四人で、いろんな景色を見られたらいいね」


「その前に、今日の依頼を無事に終えないとね」


 リリアが笑う。


「うん。まずは今日だね」


 残っていたパンを食べ終え、今度は焼き菓子の包みを開いた。


 一人に一つずつ配る。


「うまい」


 カイルが一口で半分近く食べた。


「早っ」


「もう少し味わえばいいのに」


「味わってるって」


「絶対味わってないよ」


 そんなことを話していた時だった。


 草むらの奥で、何かが動いた。


 がさり。


 四人の会話が止まる。


「今の、聞こえた?」


 リリアが声を落とした。


「うん」


 カイルが腰の剣へ手を添える。


 だが、抜きはしない。


 もう一度。


 少し離れた草の中で、枝が擦れた。


「採取場所の方角ではありませんか?」


 エステルが草むらの奥を見る。


「たぶん、そっちだね」


 四人は木陰から動かず、音のした方向へ目を凝らした。


 草の先が揺れる。


 やがて、その間から大きな鼻先が現れた。


「野猪……」


 カイルが呟く。


 土の付いた硬そうな毛に覆われた、大きな成体だった。


 短い牙が口元から覗いている。


 さらに、その後ろから二頭の小さな野猪が姿を見せた。


「子どももいる」


 リリアの声がさらに小さくなる。


 親の野猪は鼻を動かしながら周囲を確かめている。


 まだこちらには気づいていないらしい。


「さっき見つけた跡も、あの野猪たちのものだったのかもしれませんね」


「そうかもしれない」


 断定はできない。


 けれど、もしあの時、跡の正体を確かめようと採取区域の外へ進んでいたら。


 もっと近い距離で鉢合わせしていた可能性はある。


「どうする?」


 カイルが小声で尋ねた。


「こっちに来ないなら、そのまま待とうよ」


 野猪から目を離さず答える。


「子どもがいるなら、近づかれたと思ったら向こうも怖がるだろうし」


「襲ってくる可能性もありますね」


「うん。戦わずに済むなら、その方がいいよ」


 四人は音を立てず、その場で待った。


 しばらくすると、親の野猪がゆっくり旧街道へ出てくる。


 左右を確かめるように立ち止まったあと、道を横切った。


 二頭の子どもも、その後ろを追っていく。


 反対側の草むらへ入ると、三頭の姿はすぐ見えなくなった。


 葉を揺らす音が遠ざかるまで、誰も動かなかった。


「……行ったな」


 カイルが剣から手を離した。


「よかった」


 リリアも小さく息を吐く。


「これも記録しておこう」


 記録用紙を取り出した。


「野猪一頭と、子ども二頭。採取区域の方向から現れて、旧街道を北側へ横切った……」


「時刻もお願いします」


「うん」


 見たことだけを書き加えていく。


「さっき、見に行かなくて正解だったな」


 カイルが草むらを見ながら言った。


「俺一人だったら、もう少し近くまで見に行ってたかも」


「今日は僕が止めたけど、次は僕が気づかないことを三人が教えてくれるかもしれないでしょ?」


「まあ、四人で来てるんだしな」


「うん!」


 記録用紙をしまい、二つの採取籠を見る。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか。薬草が傷まないうちに持って帰りたいし」


「おう。十五束、絶対潰すなよ」


「籠を持つのは私たちなんだけど」


 リリアが言う。


「だから頼んだ」


「自分で持たないのに?」


「採取道具はちゃんと俺が持ってるだろ」


 四人は荷物を背負い直した。


 リリアとエステルが籠を持ち、ユウは地図を開く。


「来た道をそのまま戻ろう。目印も確認してきたしね」


「じゃあ、今度こそ学院までだな」


 四人は木陰を離れ、来た時と同じ旧街道を歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。