第30話 冒険者ギルドへ
学院の正門前へ着くと、すでにカイルとエステルが待っていた。
「今日は本当に早いね、カイル」
「こういう日は早いって言っただろ」
得意げに答える腰には剣があり、背中の鞄には採取道具が入っている。
「おはようございます、ユウさん」
「おはよう、エステル!」
ほどなくして、リリアも小走りでやって来た。
「おはよう。私が最後?」
「まだ七時四十五分前だよ。全然遅れてないよ」
四人がそろったところで、昨日まとめた確認用の紙を開く。
「じゃあ、最後に一回だけ確認しようか!」
水筒。
昼食。
地図。
依頼書。
採取図。
二つの籠と採取刃。
記録用紙。
応急手当用品。
雨避けの布。
そして学院冒険者の登録証。
担当した物を一つずつ確認していく。
「全部あるな」
「うん。これで揃ったね」
ちょうどそこへクラリスが歩いてきた。
「全員、時間を守れていますね」
荷物を簡単に確認したあと、一枚の書類が差し出される。
「東門へ向かう前に、冒険者ギルドへ寄ってください。学院で受けた依頼でも、活動を開始した記録はギルド側へ残します」
「帰ってきた時もギルドへ行くんですか?」
エステルが尋ねた。
「結果の報告は学院で構いません。ギルドにも記録が共有されます。今日は受付で四人の登録証と、この確認書を提示してください」
「分かりました」
書類を折らないよう、依頼書と一緒にしまう。
クラリスは四人を順番に見た。
「最後にもう一度。十五束を集めることより、四人で無事に戻ることを優先してください」
「はい!」
「では、行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
四人は学院を出て、朝のリーヴェルを歩き始めた。
◇
冒険者ギルドは、学院から東門へ向かう大通りの途中にあった。
石造りの建物の入口には、剣と盾を組み合わせた紋章が掲げられている。登録の日に講堂で見たものと同じだ。
「ここが本物の冒険者ギルドか……」
カイルが扉を見上げる。
「学院に来てくれた人たちも、普段はここにいるんだよね」
「入ってみようよ!」
扉を開けると、低い話し声と椅子を引く音が重なって聞こえた。
学院にあったものよりずっと大きな掲示板には、何十枚もの依頼書が並んでいる。
武器を携えた者。
地図を囲んで相談する者。
受付で依頼の結果を報告している者。
制服姿の四人は、その中ではよく目立った。
「本当に冒険者ばっかりだな」
「カイル、前見て」
「分かってるって」
受付へ向かうと、短い茶髪の女性が顔を上げた。
「学院冒険者の依頼開始記録をお願いします」
確認書を差し出す。
「はい。四名で、東門外の旧街道周辺における薬草採取ですね」
女性は内容を確認し、四人の登録証も順番に確かめていった。
「今日が最初の依頼ですか?」
「はい!」
「指定区域は人通りが少なくなります。道から大きく離れず、何かあった場合は無理をせず戻ってくださいね」
「ありがとうございます」
その時、少し後ろの机から声がした。
「学院冒険者って、本当に学生だけで行くんだな」
振り返ると、軽い革鎧を着た若い冒険者が二人、こちらを見ていた。
「初仕事が薬草十五束か。四人もいれば昼前には終わりそうだな」
からかうというより、珍しそうに見ているだけらしい。
それでもカイルの眉がわずかに動いた。
「……ちょっと軽く見られてるよな」
「カイル」
リリアが小さく名前を呼ぶ。
ユウは二人へ向き直った。
「初めてなので、僕たちにはちょうどいい依頼だと思っています」
「薬草を採るだけだぞ?」
「似た草もあるそうですし、採る場所や帰る時間も決められています。道を覚えることも、採り方を間違えないことも、僕たちには初めてなので」
少し明るく続ける。
「まずは一つ、きちんと終わらせてきます」
若い冒険者が少し意外そうに目を瞬かせた。
すると、近くで大きな鞄を整理していた年配の男が口を開いた。
「初仕事なら、それでいい」
灰色の混じった髪に、使い込まれた外套。
「薬草を見分けられず、似た草だけ持ち帰る新人だっている。依頼は戻って報告して終わりだ。派手さは要らん」
「別に馬鹿にしたわけじゃないさ」
若い冒険者は肩をすくめ、仲間との話へ戻った。
受付の女性から登録証が返される。
「開始記録は終わりました。お気をつけて」
「はい。行ってきます!」
◇
ギルドを出て大通りへ戻る。
「……薬草だからって、適当にやるつもりはないぞ」
カイルがまだ少しだけ不満そうに言った。
「うん。だからちゃんと十五束集めて、四人で帰って報告しようよ。それで十分だと思う」
「そうだな」
「似た草だけ十五束はやめてよね」
リリアが言う。
「もう見分け方は覚えたって」
「葉の縁は?」
「切れ込みがない方」
「茎は?」
「下の方だけ薄く赤い」
「ちゃんと覚えてるね」
「昨日あれだけ見たからな」
エステルが前方を指した。
「東門が見えてきました」
町を囲む石壁と、その一角に開かれた大きな門。
荷車や旅人が順番を待ち、門兵が一人ずつ確認している。
四人の番になると、依頼書を差し出した。
「学院冒険者の依頼です。旧街道周辺へ薬草採取に向かいます」
「登録証も確認する」
四枚を順番に見た門兵が返してくる。
「旧街道は今の街道より人が少ない。学院から指定された範囲を出ないようにな」
「ありがとうございます」
門を抜けた瞬間、視界が一気に広がった。
「わあ……!」
街道の両側には草地が続き、その向こうには畑や林が見える。
町の外にも荷車や旅人はいる。それでも、高い建物に囲まれていた街の中とは空の広さがまるで違った。
「地図だと、しばらくこのまま真っ直ぐだよ」
「石標が見えたら右ですね」
「見落とさないようにしないとな」
四人は周囲の景色も確かめながら街道を進んだ。
やがて道端に、草で半ば隠れた古い石標が現れる。
その脇から、今の街道より細い道が分かれていた。
地図と見比べる。
「ここで合ってるよ!」
「じゃあ、いよいよ旧街道だな」
「最初の一株は、四人で採取図と比べようね」
「分かってるって」
「昨日の『葉っぱは全部同じに見える』があるから念のため」
「もう忘れてくれよ」
そんなことを話しながら、四人は石標の脇から続く旧街道へ入っていった。




