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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第二章 王立学院編
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第28話 途切れた夢

 その夜。


 リリアは、夢を見た。


 知らない場所。


 薄暗く、景色の輪郭さえ曖昧だった。


 周囲にも誰かがいるような気がする。


 けれど、その姿は霞の中へ溶けていて。


 目の前にいる一人だけが、不思議なくらい強く意識に残っていた。


 それでも。


 姿は見えない。


 人の形をした、一つの影。


 顔も。


 髪も。


 身につけているものも。


 何一つ分からなかった。


 影が、背を向ける。


「……待って」


 なぜ呼び止めたのか。


 自分でも分からなかった。


 足が止まる。


「――――」


「……その……」


 何かを言おうとする。


 けれど。


 言葉がうまく出てこない。


 影が、こちらを振り返った。


「…………」


 やがて。


 その視線が、わずかに下がる。


「……?」


 自分ではない。


 胸元を見ている。


 リリアも視線を落とした。


「……これ?」


 指先に触れたのは。


 細い鎖。


 そこから下がる、小さな飾り。


「これ……あなたから――」


 声が途切れる。


「――で……私宛ての――を渡されて」


「…………」


「その中に……――」


 影は。


 しばらく、それだけを見つめていた。


 やがて。


「……まだ――――」


「……え?」


「――していたところでした」


 リリアの指が止まる。


「……これを?」


「ええ」


 静かな声。


「その――――……」


 僅かな間。


「――していただけますか」


「…………」


 胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


 リリアは、反射的に飾りを握る。


「……どうして?」


「――――」


「え?」


「――――が、その中に――――」


「…………」


「それって……」


「――――」


 また。


 肝心なところだけが聞こえない。


 リリアは手の中の飾りを見つめた。


「でも……これ……」


「――――」


 影は何も答えない。


「だったら……」


 その瞬間。


 景色が大きく揺れた。


「……え?」


 影の輪郭が遠ざかっていく。


「待って……」


「――――」


「聞こえない……」


 何かを言っている。


 それなのに。


 もう声はほとんど届かない。


「待って……!」


 一歩、前へ出る。


 距離は縮まらない。


「まだ……」


 聞きたいことがあった。


 言いたいこともあった。


 けれど。


 何一つ、形にならない。


「――――」


「何……?」


 影がさらに遠ざかる。


 手を伸ばす。


 届かない。


「……行かないで」


 ほんの一瞬。


 影の動きが止まった。


「――さん」


「……え?」


     ◇


 リリアは目を開けた。


 朝だった。


「…………」


 見慣れた天井を見つめる。


「……夢?」


 誰かと話していた。


 何かを首から下げていた。


 けれど。


 もうほとんど思い出せない。


 細い鎖。


 小さな飾り。


 静かで、どこか冷たく響く声。


 そして。


 そこにいたはずなのに。


 姿さえ思い出せない誰か。


「……変な夢」


 起き上がる頃には。


 それさえも、少しずつ曖昧になっていった。


 ただ。


 胸の奥にだけ。


 大切な何かを引き止められなかったような。


 理由の分からない寂しさが。


 しばらく残っていた。

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