第27話 持っていくもの
放課後の教室には、まだいくつもの班が残っていた。
机に依頼書を広げる者。地図を囲んで相談する者。昨日までとは少し違う空気に、教室全体がどこか浮き立っている。
ユウたちも四つの机を寄せ、その中央へ承認された依頼書を置いた。
「まずは持ち物だな」
カイルが腕を組む。
「剣」
「最初がそれなんだ」
リリアがすぐに返した。
「大事だろ?」
「大事だけど、ほかにもあるでしょ」
「じゃあ、思いついたものから全部出していこうよ。僕が書くね!」
紙と筆記具を取り出し、一番上に『持ち物』と記す。
「よし。剣」
「そこは絶対なんだね」
「もちろん」
「分かったよ。じゃあ……カイルの剣、と」
次にエステルが依頼書を指した。
「採取袋も必要です。十五束ありますから、一つへ無理に詰めない方がよいでしょう」
「薬草が潰れたら困るもんね」
「うん。採って終わりじゃなくて、ちゃんと持ち帰るところまで依頼だよね」
採取袋を複数。
採取用の道具。
水。
昼食。
項目が少しずつ増えていく。
「採る道具は学院で借りられるかな?」
「採取用のものがあったはずです」
「じゃあ明日、見に行ってみようよ!」
エステルの言葉に、すぐ書き足す。
『採取道具――学院で確認』
「地図もいるな」
カイルが簡易地図を中央へ引き寄せた。
学院から東門を抜け、街道を進む。その途中で分かれる旧街道の先に、指定された採取区域がある。
「この道、通ったことある人いる?」
リリアが尋ねる。
「東門まではあるけど、その先はないな」
「私もありません」
「僕も初めて!」
地図へ顔を近づける。
「旧街道って、今の道とどれくらい違うんだろう。道幅とか、目印とかも見てみたいな」
「依頼だぞ」
「分かってるよ。でも、初めて通る道ならちゃんと覚えておきたいでしょ? 帰りに迷わないように」
「それなら確かに必要だな」
「四人とも知らないなら、みんなで覚えていけるしね!」
初めての道を四人で歩く。
そう考えるだけで、少し声が弾んだ。
そこへ、ほかの班を見て回っていたクラリスが足を止める。
「順調ですか?」
「先生、学院から採取場所まではどれくらいかかりますか?」
カイルが尋ねた。
「学院から東門まで、およそ三十分。東門から指定区域までは、普通に歩けば一時間ほどです。ただし町の混雑や道の状態でも変わります」
「片道一時間半くらいですね」
エステルが地図を見る。
「往復で三時間か」
「採取する時間も、お昼も必要だね」
リリアの言葉を聞き、地図の横へ時間を書き始めた。
「明後日は七時四十五分に学院の門で待ち合わせて、八時に出るのはどうかな?」
「早くないか?」
「初めての場所だし、余裕があった方がいいよ。それに道の様子もちゃんと見ておきたいし!」
「私は賛成」
「私も問題ありません」
「二対一か」
「僕も入れたら三対一だよ?」
「分かってるよ。八時でいいって」
クラリスが小さく頷く。
「時間を決める時は、到着する時刻だけでなく、帰る時刻も考えてください」
「はい!」
教師が別の班へ移ると、四人は持ち物の確認へ戻った。
「登録証は各自で持つとして、応急手当の道具もあった方がいいと思います」
エステルの提案にカイルが首を傾げる。
「薬草採取で怪我するか?」
「採取道具で手を切るかもしれないし、枝で擦ることもあるよ」
「使わずに帰れたら、それが一番だよね」
「まあ、それもそうか」
『応急手当用品』
さらに薬草や書類を雨から守る布も加える。
「思ってたよりいっぱいあるね」
書き上がっていく一覧を見ていると、なんだか楽しくなってくる。
「こうやって準備してると、本当に依頼に行くんだって感じがしてきた!」
「まだ準備だけどな」
「準備も依頼のうちなんでしょ?」
「先生に言われたばっかりだもんね」
リリアが続ける。
「あと、昼食は各自で用意しようか」
「あ、それ大事!」
「だろ?」
カイルが得意げに胸を張った。
「そこだけは一番早いですね」
「食べないと動けないだろ」
分担も決めていく。
水、昼食、登録証は各自。
採取袋はリリアとエステル。
採取道具はカイル。
地図、依頼書、記録用紙はユウ。
応急手当用品はエステル。
雨避けの布はリリアが持つことになった。
「一人だけ重くならないように、分けられてよかったね」
一覧を確認し、最後に少し間を空けて一行加える。
『余裕を持って帰る』
「それ、持ち物じゃないぞ」
「うん。でも大事だから」
依頼書には日没前までに帰還とある。
「十五束採れたら、できれば四時くらいには学院へ戻ろうよ。日没ぎりぎりまで外にいる必要はないでしょ?」
「かなり余裕がありますね」
「余った時間は困らないからね」
「じゃあ、それも決まり」
リリアが頷いたところで、下校時刻が近いことを知らせる鐘が鳴った。
「今日はここまでにしようか」
依頼書と地図、まとめた紙の端をきれいにそろえる。
「明日は実際に借りる道具を見て、詳しい地図も確認しようよ」
「昼飯の準備も忘れるなよ」
「カイルは絶対忘れなさそう」
「大事だからな」
机を元へ戻し、四人で教室を出た。
◇
三人と別れ、学生寮の部屋へ戻る。
机の上へ今日まとめた紙を置き、もう一度眺めた。
地図。水。採取袋。道具。昼食。応急手当用品。
薬草を十五束採るだけだと思えば簡単に見えるのに、その前に考えることがこんなにある。
「明日、道具見るのも楽しみだな」
そして、その次はいよいよ四人で学院の外へ出る。
紙の端をそろえ、依頼書と一緒に大切にしまった。




