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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第二章 王立学院編
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第26話 最初の依頼

 放課後。


 学院冒険者用の掲示板には、昨日までなかった依頼書が何枚も並んでいた。


「討伐依頼はありません」


 集まった一年生へ、クラリスが最初にそう告げる。


 何人かが声を漏らし、カイルがわずかに肩を落とした。


「まだ何も言ってないですよ」


「聞こうとはしていましたか?」


「……少しだけ」


「やっぱり」


 リリアに言われ、カイルは掲示板へ視線を戻した。


 貼られている依頼は五つ。


『東門外・旧街道周辺の薬草採取』


『学院から東区治療院への小型荷物運搬』


『西街道の標識確認』


『南部農地周辺の小動物調査』


『北側林道の簡易確認』


「班で相談して、一つ選んでください」


 クラリスが説明する。


「希望が重なった場合は学院側で調整します。題名だけで決めず、条件と注意事項まで必ず読んでください」


 それぞれの班が掲示板へ近づいていく。


 四人も依頼書を一枚ずつ確認した。


「治療院への荷物運搬は、町の中だけみたい」


 リリアが読む。


「薬品を濡らさないこと。受取人へ直接渡すこと……ですね」


 エステルが注意事項を追う。


 カイルは隣の依頼へ目を移した。


「北側林道は?」


「上級生同行って書いてあるよ」


「あ、本当だ」


 少し残念そうに紙を見る。


「受けられないわけじゃないみたいだけどね」


「最初から知らない上級生と組むのもなあ」


 ユウは掲示板全体を眺めた。


 どの依頼も、一見すると難しそうには見えない。


 けれど標識確認なら、見つけるだけではなく破損箇所を図と文章で記録する必要がある。


 小動物調査には、種類だけでなく見つけた場所と数の記録も必要だ。


 題名だけでは分からないことが、紙の下半分にいくつも書かれている。


「そっちはまだ決まってないのか?」


 後ろから声がした。


 振り向くと、レオン、トーマ、シオンが立っていた。


「そっちはもう決めたの?」


 リリアが尋ねる。


「ああ。これだ」


 レオンが示したのは、


『西街道の標識確認』


 だった。


 カイルが意外そうに依頼書を見る。


「思ったより普通の依頼選ぶんだな」


「何だと思ってたんだ」


「もっと難しそうなのを選ぶのかと」


「最初の依頼だ。無理に難しいものを選ぶ必要はないだろ」


「……へえ」


「何だ、その顔は」


 横で依頼書を読んでいたシオンが口を開く。


「難しい依頼を選ぶことと、上手くこなせることは別です」


「お前は相変わらず正しいことしか言わないな」


 トーマが言う。


「間違ったことを言う必要がありますか?」


「そういうところだよ」


 レオンは依頼書を掲示板から外した。


 その途中、中央にある薬草採取へ目を向ける。


「そっちは、それでもいいんじゃないか」


「薬草?」


「最初なら十分だろ。俺たちの標識確認も似たようなものだ」


 以前なら、もう少し何か言われていた気がする。


 けれど今日は、それだけだった。


 三人は依頼書を持ち、教師のいる受付へ向かっていく。


「……少し変わった?」


 リリアがその背中を見送る。


「前より、こちらへ余計なことを言わなくなりましたね」


「実技で何回か見てるからかな」


 カイルが言う。


 理由までは分からない。


 今は、それでよかった。


「僕たちも決めよう」


 掲示板へ向き直る。


 もう一度、中央の依頼書を読む。


『東門外・旧街道周辺の薬草採取』


 指定された薬草を十五束。


 採取範囲は、東門から旧街道沿いの指定区域。


 根を残して採取すること。


 必要量以上は採らないこと。


 周辺に異常を発見した場合は記録すること。


 日没前までに帰還。


「僕は、これがいいと思う」


「薬草採取?」


「うん」


 依頼書の条件を指で追う。


「初めて学院の外で活動するなら、いろいろ練習できそうだから」


「薬草を採る以外に?」


「目的地まで自分たちで行って、指定された範囲を確認して、必要な数を集める。それに、帰る時間も考えないといけないでしょ?」


 道を覚える。


 四人で離れず行動する。


 薬草を見分ける。


 数を確認する。


 周囲を見る。


 時間を見ながら戻る。


「何も起きなかったとしても、それならそれで外で動く練習になると思うんだ」


「私は賛成」


 リリアがすぐに頷いた。


「私もです。薬草の見分け方を覚えておくことも、今後役に立つでしょう」


 三人の視線がカイルへ集まる。


「なんで最後に俺を見るんだよ」


「地味って言いそうだから」


「……ちょっとだけ思った」


「思ったんだ」


「でも反対はしないって。最初なんだし、これでいい」


「じゃあ決まりだね!」


 四人で依頼書を外し、クラリスのもとへ持っていった。


「東門外、旧街道周辺の薬草採取ですね」


「はい」


 内容と四人の名前を確認し、承認印が押される。


「許可します。出発は二日後です」


「二日後?」


 カイルが聞き返した。


「明日じゃないんですか?」


「準備がありますから」


「薬草を採りに行くだけですよ?」


 クラリスがカイルを見る。


「では、水はどうしますか?」


「え?」


「薬草を入れる物は? 旧街道までの道順は確認しましたか? 予定より採取に時間がかかった場合、何時に切り上げますか?」


「……」


 カイルが黙った。


「ほら、いっぱいある」


「今考えてたんだよ」


「今?」


「今から!」


 承認済みの依頼書が差し出される。


 ユウは両手で受け取った。


「明日は四人で準備をしてください。何を持っていくか、何時に出るか、どこで切り上げるか」


 クラリスは四人を順番に見る。


「考えるところから、依頼は始まっています。」


「はい!」


 依頼書を見ながら、必要になりそうなものを考える。


「まず、地図かな」


「水も必要だね」


「薬草を入れる物も用意しましょう」


 エステルが続ける。


 カイルも少し考えた。


「……昼飯は?」


 三人が一斉に彼を見る。


「必要だろ!?」


「うん。それも忘れないようにしよう」


 準備することは、思っていたより多そうだった。

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