↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第二章 王立学院編
PR
25/116

第24話 それぞれの役割

 申請書の最後にある欄。


『希望する役割』


 その文字を前にして、教室のあちこちで筆が止まっていた。


 魔法の属性や、これまで使った術式なら答えられる。


 けれど、学院の外で自分が何を担うのかと聞かれると、すぐには答えが浮かばない。


「俺は前衛かな」


 最初に声を上げたのはカイルだった。


 ほとんど迷わず、申請書へ書き込んでいる。


「早いね」


 リリアが横から紙を見ようとする。


「だって、俺が後ろでじっとしてるの想像できる?」


「できない」


「即答かよ」


「私も難しいと思います」


 エステルまで続けた。


「エステルまで?」


 火属性の魔法を得意とし、これまでの実技でも前へ出ることが多かった。


 本人にも、その自覚があるのだろう。


「リリアは?」


「私は……補助かな」


 筆先を紙の上に浮かせたまま、考える。


「水の魔法なら防御にも使えるだろ?」


「できるけど、壁を作ってずっと守るより、動かしたり形を変えたりする方が得意なんだよね」


「じゃあ補助でいいんじゃないか?」


「うん。今はそうしてみる」


 リリアが『補助』と書き込んだ。


 隣では、エステルも静かに筆を動かしている。


「私は後衛と補助にします」


「二つ書いてもいいの?」


「禁止とは書かれていませんから」


「あ、本当だ」


 エステルは氷を細かく制御するのが得意だ。


 必要な場所だけを凍らせたり、相手の動きを妨げたりできる。光魔法も安定して扱える。


「ユウは?」


 三人の視線が集まった。


「まだ考えてる」


 申請書へ目を戻し、これまでの実技を思い返す。


 魔力球を的へ当てた時。


 飛んできた球を《光障壁》で逸らした時。


 青い水晶を四人で運んだ時。


 自分一人で力押しするより、誰かが動きやすくなるように魔法を使うことの方が多かった。


 前へ出て何かを倒す姿は、あまり想像できない。


 だからといって、後ろから何もしないで見ていたいわけでもなかった。


 誰かが危ない時には、間に入りたい。


 困っている人がいるなら、その人が落ち着いて動けるようにしたい。


 学院へ来る前から考えていたことと、それほど変わっていない。


 筆を取り、ゆっくりと書き込む。


『防御・補助』


「やっぱり防御なんだ」


「うん」


「光障壁も使ってたもんな」


 カイルの言葉に頷く。


「まだ練習中だけど、防ぐ魔法はもっと上手になりたいんだ」


「あの球を横へ逸らしたの、すごくきれいだったよ」


 リリアが言う。


「私も、防ぐなら正面で受け止めるものだと思っていました」


「止めなくても、当たらなければいいからね」


「そういう考え方がユウらしいよね」


「そうかな?」


「うん」


 自分らしさと言われても、本人にはよく分からない。


 ただ、力の大きさに頼るのではなく、必要な結果へたどり着く方法を考えたい。


 それだけだった。


     ◇


「先生」


 少し離れた席から手が上がった。


 ノア・ベルンだった。


「この役割って、一度書いたら変えられないんですか?」


 クラリスは首を横へ振る。


「いいえ。むしろ、変わると思っていてください」


 まだ筆が止まっていた生徒たちが顔を上げる。


「これは皆さんの将来を決めるための申請書ではありません。今の自分が何を得意だと思っているのか、それを確認するためのものです」


 黒板へ向かい、


『今できること』


 と書く。


 その下へ、


『これから見つけること』


 と続けた。


「学院の中では気づかなかった長所が、外へ出て初めて分かることもあります」


 周囲をよく見られること。


 道を覚えるのが得意なこと。


 初対面の相手から話を聞くのが上手なこと。


 荷物をきちんと管理できること。


 小さな異変へ早く気づけること。


「外で活動する時に必要なのは、戦う力だけではありません」


 クラリスは教室を見渡した。


「逆に、今は得意だと思っていることより、別の役割の方が自分に合っていると気づくこともあるでしょう」


「じゃあ、未定でもいいんですね」


 ノアが尋ねる。


「もちろんです。これから経験して考えてください」


 黒板の二つの言葉を見る。


 今できること。


 これから見つけること。


 自分が書いた『防御・補助』も、今の時点で選んだものにすぎない。


「書けた?」


 リリアが振り返った。


「うん」


「俺も終わった」


「私もです」


 四人の申請書には、それぞれ違う言葉が並んでいる。


 カイルは前衛。


 リリアは補助。


 エステルは後衛・補助。


 そして、防御・補助。


「なんか、ちゃんと分かれたな」


 カイルが四人の紙を見比べる。


「この前の実技でも、似た動きしてたよね」


 リリアに言われ、青い水晶を運んだ時のことを思い出した。


 カイルが右を守り。


 リリアが左を支え。


 エステルが水晶を運びながら、近くへ来た球を防ぎ。


 自分は後ろから全体を見て、必要な場所を伝えた。


「最初は役割を決めてたのに、同じ球に二人で反応したりして、担当が崩れちゃったけどね」


「一回失敗したあと、自分の担当から離れないようにしたんだもんな」


「その中で、それぞれが得意な動き方も少し見えてきたということでしょう」


 エステルの言葉に、三人も頷いた。


「じゃあ、この四人で冒険者の依頼もやるのかな」


 カイルが身を乗り出す。


「それはまだ先生から何も聞いてないよ」


「そうだけどさ」


 ちょうどその時、クラリスがこちらを見た。


「先のことを決めるのは、登録が終わってからにしてください」


「聞こえてた……」


 教室の空気が和らぐ。


「申請書を書き終えた人は、教卓の箱へ入れてください。明日の放課後、冒険者ギルドの職員が学院へ来ます」


 クラリスは机の横に置かれた箱を示した。


「そこで正式な登録手続きを行います」


 もう一度、自分の申請書へ目を落とす。


『防御・補助』


 学院の外で、本当にこの役割が自分に合うのかはまだ分からない。


 けれど、分からないなら確かめればいい。


 席を立ち、申請書を教卓の箱へ入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。