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白き天使と金色の竜眼Ⅰ  作者: 蒼空れっど
第二章 王立学院編
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第18話 同じ机で

 実技授業を終えた生徒たちは、中央棟へ続く渡り廊下を歩いていた。


 開け放たれた窓から風が入り、実技場で火照った頬を冷ましていく。


「二回目は、本当に動きやすかったな」


 カイルが右側へ杖を向ける動きをしてみせた。


「最初は前も後ろも、右も左も見ようとしてたから、結局どれを狙えばいいのか分からなくなってた」


「私も、水晶の近くへ来た球は全部止めなくちゃって思ってた」


 リリアも先ほどの失敗を思い返す。


「ユウに左だけ見てって言われてから、急に分かりやすくなったよ」


「僕も、一回目に失敗したから気づけたんだと思う」


 最初から正しい動き方が分かっていたわけではない。


 四人とも自分の役割は決めていたのに、水晶を守ろうとするあまり担当から意識が外れ、同じ球へ二人が動いてしまった。その結果、反対に誰も対応していない場所が生まれてしまった。


「それでも、すぐ動き方を整理したのはユウさんです」


 エステルが言う。


「私は水晶を運びながら、周囲まで見ようとしていました。どちらも中途半端になっていたと思います」


「僕も最初は、水晶の近くにいれば守れると思ってたよ」


 考えをまとめてから続ける。


「決めた役割があっても、みんなが同じ球を追いかけたら、かえって見えなくなる場所ができるんだね」


「次も、自分の担当から離れないようにした方がよさそうだな」


「うん。それぞれが得意なことも、少しずつ知っていきたいね」


     ◇


 教室へ戻ると、昼休みまではまだ時間があった。


 鞄を机の横へ掛けたところで、近くの席から一人の男子生徒が歩いてくる。


 淡い灰色の髪を短く整えた、同じ教室の生徒だった。


「ユウ、少しいいか?」


「はい。どうしましたか?」


「さっきの実技、見てたんだ」


 少年は言いづらそうに頬をかいた。


「俺たちの班も最初は失敗した。全員で水晶の近くに集まったら、後ろから続けて当てられてさ」


「僕たちと同じですね」


「それで、二回目に君たちが右と左へ分かれてただろ? 俺たちも似たように分けたら、どうにか成功したんだ」


「そうだったんですか。よかったです!」


「一つ聞きたいんだけど、どうして球が出る場所を先に言えたんだ?」


 壁に並んでいた発射口を思い浮かべる。


「球が出る直前に、筒の先が一瞬だけ光っていたんです。一回目の時にそう見えたので、ほかの班の挑戦を見ながら確かめました」


「そこまで見てたのか」


「球が飛んでからだと、近い場所では間に合わなかったので」


 少年は感心したように頷いたあと、ふと思い出したように言った。


「ああ、まだちゃんと名乗ってなかったな。俺はノア・ベルン」


「ユウ・リシェルです。よろしくお願いします、ノアさん」


「同じクラスなんだし、そんなにかしこまらなくていいよ。ノアでいい」


「いいの?」


「ああ」


 声が明るくなる。


「じゃあ、よろしくね、ノア」


「よろしく。次の実技でも何か気づいたら、また教えてくれ」


「うん。僕にも分からないことがあったら教えてね」


 ノアは片手を上げ、自分の席へ戻っていった。


 椅子へ座ると、前の席からリリアが振り返る。


「よかったね」


「うん。ちゃんと話せた」


 これまで向けられる視線の多くは、特例で途中入学した生徒を見るものだった。


 けれど今は、同じ課題に取り組んだ一人として声をかけてもらえた。


 ほどなく昼休みの鐘が鳴った。


「食堂へ行こう」


「うん!」


     ◇


 中央棟一階の食堂には、温かな料理の香りが広がっていた。


 長い木製の机が並び、受取口には昼食を選ぶ生徒たちの列ができている。


「入口で盆を取って、好きなものを選ぶの。最後に学生証を見せればいいよ」


「分かった。ありがとう」


 前に並ぶ生徒の流れを一度確認してから、盆を手に取った。


 カイルは鶏肉の香草煮。リリアは卵と葉野菜を挟んだパン。エステルは焼いた川魚と温野菜。


 選んだのは、野菜と豆のスープ、それに丸いパンだった。


「それだけで足りるのか?」


「うん。温かいスープとパンがあれば十分だよ」


「ほかにも選べるぞ」


「分かってるよ。でも、こういう食事が落ち着くんだ。森でもよく作ってたから」


 四人で窓際の机を囲む。


「いただきます」


 スープを一口飲むと、柔らかい豆と野菜に香草の風味が重なった。


「おいしい?」


「うん! 少し甘い野菜が入ってる。香草も僕が使ってたものと違うみたい」


「食べただけでそこまで考えるのか?」


「全部は分からないよ。でも、おいしいものが何でできてるのかって気にならない?」


「俺は食べられれば満足だな」


「カイルらしいね」


 食事が進むと、話題は自然と実技へ戻った。


「ユウが声をかけてから、次に何をすればいいか迷わなくなったよな」


「私も。自分の側に集中できたよ」


 リリアが頷く。


「僕は光った場所を言っただけだよ」


「その一言が必要だったのです」


 エステルが食器を置いた。


「全体が見えていても、仲間へ伝わらなければ対応できません。長く説明していても間に合いません」


「必要なことだけを、すぐ伝える……」


 実技で口にした短い言葉を思い返す。


「誰かが全体を見ていれば、ほかの人は自分の役割に集中しやすいんだね」


「でも、さっきはユウが一番うまく見てたぞ」


 カイルが言う。


「声も分かりやすかったよ」


 リリアも続けた。


「次に何をすればいいか分かったから、すごく安心したの」


 その言葉が胸に残った。


 魔法で攻撃を防ぐことだけが、人を安心させる方法ではないのかもしれない。


「じゃあ次も、僕が周りを見る役をやってみてもいい?」


「もちろんです。ただし、ユウさんだけに任せるのではなく、私たちも気づいたことを伝えます」


「うん。その方が見落としも減るね!」


     ◇


 昼食を終えても、次の授業まではまだ時間が残っていた。


「図書館へ行かない?」


「今から行けるの?」


「昼休みも開いてるよ。学院生なら本も借りられるから」


「行きたい!」


「返事が早いな」


 カイルに言われながら、四人で図書館へ向かった。


 受付で学生証を示すと、司書が貸出の決まりを説明してくれる。


 一度に五冊まで。期限は十日。希少な資料は館内閲覧のみ。


「五冊までなんだ……」


「何冊借りるつもりだったの?」


「それを知りたかったんだよ」


 リリアが首を傾げたが、もう基礎実技の棚へ目が向いていた。


 目次を確かめながら三冊を選ぶ。


『一年生のための基礎魔法実技』

『複数人で行う魔法訓練』

『防御魔法の基本構造』


「やっぱり今日のことを調べるんだね」


「うん。成功はしたけど、もっと早く知らせる方法があるかもしれないから」


 リリアは水属性魔法、カイルは戦闘訓練、エステルは障壁魔法の本を選び、四人で窓際の机へ座った。


 店主にもらった帳面を開く。


 今日のことを思い返しながら静かに筆を進め、時折手を止めては、また続きを書いた。


「今日のことを書いてるの?」


 隣からリリアが小声で尋ねる。


「うん。忘れたくないことが、たくさんあったから」


 リリアは帳面を覗き込まず、自分の本へ戻った。


 しばらくすると、向かいのカイルが顔を上げる。


「これ、四人で使えそうじゃないか?」


「どの部分ですか?」


 エステルが椅子を寄せる。


 インクが乾いたのを確かめて帳面を閉じ、二人が開いている頁を覗き込んだ。


「これなら、発射口みたいに場所が多くても使えるかな」


「条件次第ですね。この部分を先に読んでみましょう」


「こっちにも似た例があるよ」


 リリアも別の本を開く。


 一人で本を読んでいた頃とは違う。


 今は、同じ机を四人で囲んでいた。


 午後の授業を知らせる鐘が鳴る。


「続きはあとで読もうか」


「うん!」


 四人はそれぞれの本を閉じ、同じ机から立ち上がった。

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