第17話 四人でひとつ
次の実技授業で実技場へ入ると、床の中央に一本の白い道が作られていた。
道の始まりと終わりには小さな台があり、手前の台には両手で抱えられるほどの青い水晶が載っている。
さらに左右の壁には、筒状の発射口がいくつも並んでいた。
「あれ、何だろう」
覗き込むと、カイルが筒の奥を指した。
「球が入ってるぞ」
布を巻いて作られた、柔らかな訓練球だった。
やがてクラリスが生徒たちの前へ立つ。
「本日から、四人一組で課題を行います」
実技場が一気にざわめいた。
名簿が開かれ、班が順番に読み上げられていく。
「次の班。ユウ・リシェル、リリア・フェルナ、カイル・フェルド、エステル・ヴァレイン」
四人が顔を見合わせた。
「一緒だね!」
「本当によかった!」
「これなら話は早そうだな」
「まず課題を聞きましょう」
エステルに言われ、三人も前を向く。
「課題は、この水晶を白い道の終点まで運ぶことです」
補助教師が水晶を持ち上げた。
同時に、壁の発射口が淡く光る。
ぽん、と音を立てて訓練球が飛び出した。
補助教師はすでに詠唱を終えており、展開した《光障壁》で球を受け止める。
弾かれた球が床へ転がった。
「移動中は左右の発射口から訓練球が飛んできます。水晶に三回当たれば失敗です」
水晶を運ぶ者は交代してもいい。
障壁で防いでも、《魔力球》で打ち落としても構わない。
「誰が何をするかも、班で決めてください」
◇
「まず、誰が水晶を持つ?」
「私が持ちます」
エステルが答えた。
「小さな《光障壁》であれば、水晶を持ったままでも使えます」
「じゃあ俺は右から来る球を落とす。リリアは左でどうだ?」
「うん。私は《水膜》で防いでみる」
三人の意識がこちらへ向いた。
「僕は水晶の近くにいるよ。近くまで来た球を防ぐ役が二人いた方が安全だと思う」
役割を決め、開始位置へ並ぶ。
エステルが水晶を抱え、右にカイル、左にリリア。そのすぐ後ろへユウがついた。
「始めます」
鐘が鳴った。
右側の発射口が光る。
「右だ!」
カイルがすぐに杖を向ける。
「集いし魔力よ、ここに形を成せ――《魔力球》!」
白い球が飛び、訓練球を空中で打ち落とした。
続いて左。
リリアが詠唱する。
「水よ、薄き壁となれ――《水膜》!」
初級魔法《水膜》。
薄い水の幕が広がり、飛んできた球を弾く。
だが、続けて同じ側の発射口が光った。
「僕がやる!」
「集いし光よ、我が意に従い、ここに巡りて隔てとなれ――《光障壁》!」
淡い光の壁が現れ、リリアの水膜の内側を補う。
球が弾かれた。
その直後、反対側から別の球が飛び出す。
「あっ!」
カイルの詠唱が間に合わない。
水晶へ一回。
エステルが歩く速度を上げた。
今度は前方の左右が同時に光る。
カイルとリリアが再び詠唱へ入り、それぞれ対応する。
続けて左前から飛び出した球には、二人が同時に杖を向け、詠唱を始めた。
カイルの《魔力球》が球を打ち落とした直後、その手前にリリアの《水膜》が広がる。
ユウも水晶の近くで重なった二人の動きに気を取られ、後方の確認が遅れた。
ぽん。ぽん。
立て続けに水晶へ当たる。
三回目。
青い光が消えた。
「そこまでです。開始位置へ戻ってください」
四人は白い道を外れた。
「途中で速度を変えたことで、全体の位置がずれましたね」
エステルが水晶を台へ戻す。
「俺も前ばっかり気にしてた」
「私も。同じ球にカイルと反応した時があった」
「僕も、水晶の近くばかり気にしてたよ」
全員が守ろうとしていた。
それなのに、決めていた担当から意識が外れ、同じ球へ二人が動く場面ができていた。その結果、反対に誰も対応していない場所が生まれてしまった。
白い道の脇へ移動し、壁に並ぶ発射口へ意識を向ける。
「もう少し、発射口を確かめてもいいかな」
別の班が挑戦していた。
右から球が出る。
その直前、筒の先が一瞬だけ光った。
次は左。
やはり球より先に光る。
「……球が出てからじゃなくて、その前に分かるんだ」
発射順に規則があるのかまでは分からない。
けれど、光った場所なら知らせられる。
「もう一回やろうぜ。今度は俺も後ろを気にする」
「待って」
三人が振り返った。
「今度は、最初に決めた担当から動かないようにしてみない?」
「担当から?」
「うん。カイルは右側、リリアは左側だけに集中してほしいんだ」
左右の壁を指す。
「エステルは、途中で速さを変えずに水晶を運ぶことに集中して。近くまで来た球だけ防いでもらえる?」
「分かりました」
「僕は後ろから全体を確認するよ。発射口が光った場所を先に伝えるから、二人は自分の側から離れないでほしいんだ」
「なるほど。右と左に集中すれば、同じ球を狙うこともなくなるな」
「間に合わなさそうな時は、僕も防ぐよ」
「それならやってみよう」
リリアが頷いた。
「うまくいくかは分からないけど……さっきよりは動きやすくなると思う」
「試せば分かる」
カイルの言葉に頷いた。
◇
二回目。
エステルが一定の速さで歩き始める。
右前が光った。
「カイル、右前!」
「任せろ!」
先ほどと同じ詠唱を結び、《魔力球》を放つ。
訓練球が空中で弾かれた。
「リリア、左後ろ!」
「うん!」
リリアも《水膜》の詠唱を重ねる。
薄い水の幕が球を受け、横へ弾いた。
「右後ろ!」
「見えてる!」
カイルが再び詠唱し、次の球を落とす。
一回目とは違い、二人の動きは重ならない。
エステルも周囲へ何度も注意を散らす必要がなくなり、水晶を抱えたまま一定の歩調を保っている。
白い道の半分を越えた。
「左前、二つ!」
リリアが同じ詠唱を結ぶ。
《水膜》が一つ目を弾いた。
二つ目は低い位置から水の幕の下を抜けてくる。
「エステル、左!」
片腕で水晶を支え、空いた手を向ける。
「集いし光よ、我が意に従い、ここに巡りて隔てとなれ――《光障壁》!」
水晶の横に小さな光の壁が現れた。
球が触れ、床へ落ちる。
「一回目より運ぶことに集中できます」
「そのままでお願い!」
終点が近づく。
右と左が同時に光った。
「カイル、右! リリア、左!」
二人はそれぞれ詠唱へ入り、《魔力球》と《水膜》で球を防いだ。
直後、すぐ後ろの発射口が光った。
――ここは僕が。
振り向き、杖を構える。
「集いし光よ、我が意に従い、ここに巡りて隔てとなれ――《光障壁》!」
小さな光の壁へ球が触れ、横へ軌道を変える。
障壁はすぐに薄くなったが、球は水晶へ届かない。
「エステル、今!」
「はい!」
最後の一歩。
青い水晶が終点の台へ置かれた。
台の術式が輝き、水晶に鮮やかな青色が戻る。
「課題成功です」
「できた!」
リリアの声が響いた。
「よし!」
カイルが拳を握る。
エステルも水晶から手を離し、ほっと息をついた。
「二回目は、四人の動きがずっと整理されていましたね」
記録を持ったクラリスが近づいてくる。
「一回目に決めた担当から離れないようにしたんです」
リリアが答える。
「それと、ユウが発射口を見て、次に来る場所を教えてくれました」
「僕は、光った場所を伝えただけです」
クラリスは首を横へ振った。
「一人ですべてを行う必要はありません」
四人を順に見渡す。
「周囲の状況を把握し、仲間が動きやすいよう必要な情報を伝える。それも班にとって大切な役割です」
「……それも、役割なんですね」
「ええ」
リリアが隣から続ける。
「ユウが場所を言ってくれたから、私は左側だけ気にしていられたよ」
「俺も右だけ見ればよかった」
「私も、一定の速さで水晶を運ぶことに集中できました」
三人の言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。
「僕も、三人がすぐ動いてくれたから全体を確認できたんだよ」
カイルが青い水晶へ顔を向ける。
「じゃあ、四人とも必要だったってことだな」
「うん!」
台の上では、四人で運び終えた水晶が明るく輝いていた。




