第15話 実技授業
実技場は、中央棟の裏手にある円形の建物だった。
高い天井の下には木製の的が並び、床には安全術式が刻まれている。壁際には練習用の杖が種類ごとに整然と収められていた。
見学の日には柵の外から眺めていた場所に、今日は学院の制服を着て立っている。
「いよいよ実技だね」
思わず声が弾む。
「最初は基礎の確認だと思うよ」
「それでも楽しみだよ。先生に直接教えてもらえるんだもん」
リリアが頷いたところで、近くから足音がした。
今日の授業は、一年生三教室による合同授業だ。
こちらへ歩いてきたのは三人の男子生徒だった。
中央にいる赤茶色の髪の少年には見覚えがある。特例入学について、以前廊下で言葉を交わした相手だった。
「本当に入学したんだな」
向けられた視線に、きちんと姿勢を正す。
「はい。今日から通うことになりました」
少年は一拍置いた。
「……俺はレオン・グレイヴ」
隣の小柄な少年が続く。
「トーマ・ベルク。こっちはシオン・ラディア」
「ユウ・リシェルです。よろしくお願いします」
素直に頭を下げると、トーマが目を瞬かせた。
「この前あれだけ言われたのに、普通に挨拶するんだな」
「挨拶はした方がいいと思うので」
「そういう意味じゃないんだけどな……」
レオンが軽く息を吐く。
「別に、今日は言い争いに来たわけじゃない。実技でも学院に認められるのか、気になっただけだ」
「そうなんですね」
並ぶ的へ目を向ける。
「僕も実技はまだ知らないことが多いので、今日の授業を楽しみにしていました。ちゃんと覚えたいです」
「……そうか」
「ずいぶん素直だな」
トーマが言う。
黒髪のシオンは静かに口を開いた。
「正式に入学を認められた以上、特例だったことを今ここで議論しても意味はありません。実技を見れば分かることもあるでしょう」
「シオン、お前は相変わらず言い方が固いな」
「事実を述べただけです」
カイルが三人へ顔を向ける。
「話が終わったなら、そろそろ並んだ方がいいんじゃないか?」
ちょうど実技場の中央からクラリスの声が響いた。
「全員、指定された位置へ移動してください」
レオンたちは自分たちの列へ戻っていく。
その背中を見送り、ユウも指定された列へ向かった。
◇
「本日は、魔力制御の基礎を確認します」
クラリスの隣には、ほかの教室を担当する教師たちも立っていた。
正面には円形の木製標的が並び、中央と、その周囲に小さな円が描かれている。
「目的は的を壊すことではありません。指定された位置へ、指定された出力で魔力を届けることです」
練習用の杖を一本持ち上げる。
「最初に中央。次に右上、左下。属性は問いません。ただし、威力は必要最低限に抑えてください」
「壊したら減点かな」
カイルが声を潜める。
「おそらく」
エステルが即答した。
「だよな」
生徒たちは発動のたびに詠唱を行い、火の小球、水の塊、風の弾を順に的へ放っていく。
中心から大きく外す者もいれば、三回とも円へ収める者もいた。
レオンの番になる。
杖を構え、詠唱する。
「燃え立つ炎よ、我が意に従い、ここに集いて球を成せ――《火球》」
小さくまとめられた火球が飛び、中央へ当たる。
二度目、三度目も同じ詠唱を重ね、右上、左下にも正確に命中させた。
「三回とも命中。出力も適正です」
周囲から感心した声が上がる。
トーマは二回成功し、最後だけわずかに外した。
シオンは三回とも、指定された円のほぼ中央へ当てる。
「やっぱりシオン、こういうの得意だな」
「動かない的ですから」
「そういう言い方するよな、お前」
やがて、リリア、カイル、エステルも順番を終えた。
「次、ユウ・リシェルさん」
「はい!」
杖を握り直し、指定線の前へ立つ。
的までは十歩ほど。
大きな魔法は必要ない。
必要なのは、狙った場所へ光を正確に届けること。
「集いし光よ、我が掌に小さき灯を結べ――《光灯》」
杖の先に淡い光が生まれる。
そこへ流す魔力を細く絞り、光の先を標的へ伸ばしていく。
淡い輝きが、中央の円へ触れた。
「命中」
いったん光を消す。
次は右上。
同じ出力、同じ速さを意識しながら、もう一度同じ詠唱を重ねる。
二回目も、伸ばした光が円の内側へ届いた。
三回目は左下。
同じように《光灯》の詠唱を行い、杖の角度をわずかに変える。
光の先は、狙った円のほぼ中央へ届いて消えた。
「三回命中。出力は低いですが、ばらつきはほとんどありません」
「よし……!」
小さく声が漏れた。
列へ戻ると、リリアがすぐに振り向く。
「全部当たったね」
「うん! ちゃんと届いてよかった」
「かなり小さかったけどな」
離れた場所からトーマの声がした。
カイルが眉を動かすより先に、シオンが口を開く。
「今日の課題は威力ではありません」
「分かってるって」
「なら、三回命中したことを評価すべきでしょう」
トーマはそれ以上言わなかった。
レオンも黙ったまま、光が当たった三つの円を見ていた。
◇
全員の確認が終わると、クラリスが標的の前へ立った。
「今の結果からも分かるように、魔力出力と制御能力は同じものではありません」
実技場内を見渡す。
「大きな魔法を扱えることは一つの長所です。しかし、必要以上の力を使えば危険にもなります」
教わったことを忘れないよう、しっかり耳を傾ける。
「反対に、出力が低くても、必要な場所へ正確に届けられる技術には意味があります」
そこでクラリスが教師の一人へ合図を送った。
実技場の奥で術式が起動し、静止していた木製の的がゆっくり横へ動き始める。
「次は難しくします」
一定の速さで、的が左右へ往復する。
「今度は、動いている標的へ当ててください」
「動くんだ……!」
声が弾む。
隣でカイルも杖を握り直した。
「さっきより面白そうだな」
「うん!」
左右へ動く標的を追いながら、杖を持ち直した。




