第12話 結果
『午後二刻 学院長室』
約束の時間が近づくにつれ、ユウは手元の紙を何度も確かめていた。
廊下の長椅子には、リリア、カイル、エステルも並んでいる。
「行ってくるね」
「うん。ここで待ってる」
「昨日はちゃんとできてたんだ。胸張ってこい」
カイルが言うと、エステルが静かに首を傾げた。
「緊張している方へ言う言葉としては、少々難しい気がします」
「じゃあ何て言えばいいんだよ」
「普段どおりでよい、と」
「それ、リリアがもう言っただろ」
二人のやり取りに、張っていた肩の力が少し抜けた。
「ありがとう。行ってくる」
扉を三度叩く。
「ユウ・リシェルです」
「入りなさい」
学院長室では、アルベルトとクラリスが待っていた。
「失礼いたします」
頭を下げ、勧められた椅子へ座る。
机の上には、昨日までの記録をまとめた書類と、一枚の紙が伏せて置かれていた。
「特例入学試験について、担当教師と協議しました」
「はい」
「読み書きと算術は、学院一年生として学ぶうえで問題ありません。王国の基礎知識には不足がありますが、それは今後学ぶことができます」
アルベルトは記録を一枚めくる。
「魔法理論についても、正式な用語を知らない部分はあるものの、術式の仕組みを考える力は十分にあります」
続いて、クラリスが共同実習の記録を開いた。
「昨日の共同結界では、あなた自身の魔力出力は低いままでした」
「はい」
「ですが、自分だけで補おうとはせず、ほかの三人と相談しながら流れを整えました。結果として、四人で安定した結界を成立させています」
昨日の水晶と、三人の声を思い出す。
一人では作れなかった結界だった。
「そして面談でも、学院で学びたい理由を自分の言葉で話せていました」
そこでアルベルトが、伏せていた紙へ手を置いた。
ゆっくりと表へ返される。
王立魔法学院の紋章。
その下に記された文字を、一つずつ目で追った。
『特例入学許可書』
「……これは」
「ユウ・リシェル」
アルベルトの声が静かに響く。
「あなたを王立魔法学院一年生として、特例入学させることを許可します」
意味は分かった。
それなのに、すぐには言葉が出てこなかった。
「僕が……学院に入れるんですか?」
「そうです」
「試験に、合格したということですか?」
クラリスが頷く。
「合格です」
「……よかった」
息と一緒に言葉がこぼれた。
次の瞬間には立ち上がり、二人へ深く頭を下げていた。
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます!」
「喜ぶのは構いませんが、まだ説明が残っています」
「あっ……はい。失礼しました」
慌てて座り直すと、アルベルトの口元がわずかに緩んだ。
「現在の王国や学院生活について、まだ知らないことがあります。しばらくは通常授業に加えて、必要な基礎知識を補う時間を設けます」
「はい。たくさん覚えます」
「一度に全部覚える必要はありません」
「……はい」
クラリスが小さな予定表を差し出す。
「実技も、無理なく参加できる方法を一緒に考えていきます。体調に変化があれば、我慢せず教員へ伝えてください」
「分かりました」
「知らないことがあるなら、ここで学べばよいのです」
アルベルトの言葉に、顔を上げる。
「そのための学院です」
「……はい!」
入学は次の週の初日から。
制服と教本は学院から貸し出され、授業料も特例制度によって半年間免除されるという。
平日は学院寮で暮らし、休日には森の家へ戻ることができる。
「毎日、家へ帰ることはできないんですね」
「距離を考えれば、その方が安全です。寮には職員もいます」
「分かりました。決まりもちゃんと覚えます」
森の家を離れる日が増えるのは、少し寂しい。
それでも、教室も、実技場も、あの図書館も、これからは見学する場所ではなくなる。
アルベルトから許可書を受け取る。
「最後に一つ。自分と周囲の安全を守ること。それを忘れないでください」
空色の瞳をまっすぐ向ける。
「はい。約束します」
◇
学院長室を出ると、三人が一斉に立ち上がった。
許可書を手にしたまま、しばらく言葉が出てこない。
「……駄目だったのか?」
「カイル」
エステルが制する。
「ユウ、結果は?」
リリアの声に、三人の顔を見回した。
今度は抑えきれず、笑みが広がる。
「合格したよ!」
「本当!?」
リリアが両手を握った。
「よかった……本当によかった!」
「やったじゃないか!」
カイルの声が廊下へ響く。
「カイル。学院の廊下です」
「今日くらいいいだろ!」
「よくありません」
そう言いながら、エステルの表情もいつもより柔らかかった。
「おめでとうございます、ユウさん」
「ありがとう!」
「これで本当に同じ学院の生徒だね」
リリアの言葉に、許可書へ目を落とす。
「僕も、みんなと同じ教室で勉強できるんだね」
「ああ。来週からな」
「王国のことも、これから一緒に覚えていきましょう」
「うん。分からないことがあったら、ちゃんと聞くよ!」
◇
四人で古書店へ向かった。
扉を開けるなり、店の奥へ進む。
「店主さん!」
「店の中では静かにしろ」
「あ、ごめん。でも、見て!」
許可書を差し出す。
「学院に入れることになったよ!」
店主は受け取り、最初から最後まで目を通した。
「そうか」
「それだけかよ」
カイルが思わず口を挟む。
「俺が試験を受けたわけじゃない」
「でも、めでたいだろ」
「店の中で大声を出すな」
許可書を返すと、店主は奥へ引っ込んだ。
戻ってきた手には、一冊の薄い帳面がある。
紙は古いが、表紙も綴じ目もきれいに直されていた。
「持っていけ」
「これ、僕に?」
「入学祝いだ。何に使うかは自分で決めろ」
両手で受け取る。
「ありがとう。大事に使うね!」
「途中で放り出すなよ」
「うん。最後まで使う!」
◇
夕方、森の家へ戻ると、机の上へ入学許可書を置いた。
その隣には、もらったばかりの帳面。
最初の頁を開き、筆を取る。
何を書くか少し考えてから、ゆっくりと文字を記していった。
途中で何度か手を止め、それでも最後まで書き終える。
内容を一度だけ読み返し、帳面を閉じた。
許可書と一緒に、机の引き出しへ大切にしまう。
「来週からか……」
窓の外では、夕暮れの森が静かに揺れていた。
来週から、ユウの新しい学院生活が始まる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ユウは特例入学試験に合格し、新たな学校生活が始まります。
第一章はこれにて一旦完結となります!
第二章もお楽しみにお待ちください...!!




