第11話 特例入学試験
特例入学試験の日が訪れた。
書類を提出してからの四日間、ユウはリリアたちと一緒に、できる範囲で準備を進めてきた。
数日で王国のことをすべて覚えることはできない。
低い魔力出力が、急に変わるわけでもない。
だからこそ、知らないことを無理に隠さず、自分にできることを見てもらおうと決めていた。
朝の森には、木々の間から柔らかな光が差し込んでいる。
服の襟を整え、鞄の中を確かめる。
受験許可書と筆記具。
「よし。忘れ物なし」
家の扉に鍵をかける。
「行ってきます!」
近くの枝で小鳥が短く鳴いた。
それに手を振り、町へ続く道を歩き始めた。
◇
古書店の前では、リリア、カイル、エステルが待っていた。
「おはよう!」
「おはよう、ユウ」
三人の前まで来ると、ユウは姿勢を正して頭を下げた。
「今日はよろしくお願いします」
カイルが目を瞬かせる。
「俺たちは試験官じゃないぞ」
「でも、一緒に授業を受けてもらうから」
「ずいぶん真面目ですね」
エステルに言われ、ユウは受験許可書の入った鞄を軽く押さえた。
「今日は試験だからね」
「緊張してる?」
リリアが尋ねる。
「うん。ちょっとだけ」
「そうは見えないけど。いつものユウでいれば大丈夫だよ」
「……うん!」
三人と並び、学院へ向かった。
◇
門をくぐると、最初に学院長室へ案内された。
室内ではアルベルトとクラリスが待っている。
「失礼いたします。ユウ・リシェルです。本日はよろしくお願いいたします」
「座りなさい」
机の上には、一年生が使う教本が置かれていた。
「今日の試験では、大量の問題を解いてもらうことはありません」
アルベルトが説明する。
「読み書きと算術はすでに確認しています。今日は実際の授業へ参加してもらいます」
「ほかの生徒の皆さんと一緒に、ですか?」
「そうです」
今度はクラリスが続けた。
「説明を聞けるか。周囲と協力できるか。安全に魔法を扱えるか。それらを確認します」
「魔法の強さだけを見る試験ではないんですね」
「ええ。魔力出力が低いことはこちらも把握しています。無理に周囲に合わせて出力を上げる必要はありません」
「分かりました」
クラリスに案内され、一年生の教室へ向かった。
扉の向こうから、大勢の話し声が聞こえてくる。
「準備はよろしいですか?」
「はい」
扉が開いた。
教壇の横へ立つと、ざわめきが次第に収まっていく。
「あの子が特例試験の?」
「見学日に来てた子だよね」
いくつもの視線を感じながらも、ユウは姿勢を崩さず前を向いた。
「静かにしてください」
クラリスの声で教室が静まる。
「本日は特例入学試験の一環として、ユウ・リシェルさんが授業へ参加します」
ユウは一歩前へ出た。
「ユウ・リシェルです。本日は皆さんと一緒に授業を受けさせていただきます。よろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げる。
教室の後方には、先日廊下で言葉を交わした赤茶色の髪の男子生徒もいた。
こちらを見ていたが、今日は何も言わない。
「リリアさんの隣の席を使ってください」
「はい」
席へ着くと、リリアが声を潜めた。
「最初だけだよ。授業が始まれば、みんな自分のことで忙しくなるから」
「うん。ありがとう」
◇
今日の授業は、基礎結界の共同実習だった。
実習場の床には大きな円が描かれ、その中央に水晶が置かれている。
床と水晶には、共同結界を作るための術式があらかじめ組まれていた。
今回は一人ずつ魔法を発動するのではない。
四人が別々の位置から術式へ魔力を送り、その流れを合わせることで一つの結界を完成させる。
一人だけが強すぎても、反対に弱すぎても安定しない。互いの流れを合わせる必要がある。
この実習では、一人につき一つの属性を選んで魔力を流す。四人はそれぞれ、扱いやすい属性を選ぶことになった。
班分けの結果、ユウはリリア、カイル、エステルと同じ組になった。
「合図に合わせて魔力を流してください」
四人が水晶を囲む。
「始めてください」
四人の魔力が、水晶へ向かう。
火、水、氷、光。
それぞれの属性を帯びた四本の流れが、水晶の中に映し出された。
その流れを見比べる。
カイルの線がわずかに強く、四本で作る輪が片側へ歪んでいる。
「カイル、もうちょっと弱くしてみて」
「これくらいか?」
歪みが戻り始める。
「うん、それくらい!」
今度はリリアの側が外へ広がった。
「リリア、内側へ寄せられる?」
「やってみる」
水の線が中央へ近づく。
「エステルも、もう少し中心へお願い」
「分かりました」
三本の流れが徐々にそろっていく。
自分の光も、そこへ静かに重ねる。
「今、合いそう!」
「じゃあ、このままいくぞ」
「うん!」
四つの流れが一つに重なった。
淡い結界が広がる。
向こう側が透けるほど薄い。
それでも傾きはなく、表面の揺れもほとんどない。
「維持してください」
クラリスが軽い砂袋を投げる。
袋が結界へ触れると、薄い壁が内側へしなった。
だが崩れることなく、勢いを弱めて床へ落とす。
周囲の生徒たちから、どよめきが上がった。
「薄いのに安定してる」
「四人の流れ、きれいにそろってるな」
後方の赤茶色の髪の少年も、完成した結界を黙って見ていた。
「そこまでです」
魔力を止めると、結界は淡い光となって消えていった。
「ユウ、疲れてないか?」
「ちょっとだけ。休めば平気だよ」
「無理はしないでください」
「うん」
呼吸を整えている間、クラリスは記録用の板へ何かを書き込んでいた。
◇
授業のあと、最後の面談が行われた。
「今日の授業を受けて、どう感じましたか?」
アルベルトに尋ねられ、考えてから口を開いた。
「一人で本を読んでいるだけでは、分からないことがあるって思いました」
「例えば?」
「三人の魔力の違いは分かりました。でも、それだけじゃ結界にはならなかったんです」
膝の上で手をそろえる。
「僕が気づいたことを言って、三人が合わせてくれた。僕もそこへ光を加えて、それで四人で一つにできました」
「一人ではできなかった?」
「はい」
迷わず頷いた。
「でも、それがすごく面白かったです。自分一人ではできないことでも、みんなで考えたら、できることが増えるんだって」
アルベルトは口を挟まず、静かに聞いている。
「僕は、大きな魔法は使えません」
その声に迷いはなかった。
「だからこそ、工夫すれば何ができるのか、もっと知りたいです。いろんな人と学んで、僕にできることを増やしたい」
一度言葉を切る。
「それでいつか、誰かが困っている時に、その人が少しでも安心できる魔法を使えるようになりたいです」
クラリスが記録用紙へ最後の言葉を書き込んだ。
アルベルトが頷く。
「本日の特例入学試験は、これで終了です」
その言葉を聞いて、ようやく肩から力が抜けた。
「結果は、いつ分かりますか?」
「明日の午後、正式に伝えます」
「分かりました。本日はありがとうございました」
◇
学院長室を出ると、三人が待っていた。
「終わったか?」
「うん!」
「どうだった?」
「結界はできたよ。面談も終わった」
リリアが様子をうかがう。
「疲れてない?」
「ちょっと疲れたかな。帰る前に休みたい」
「では、ここで休みましょう」
エステルが長椅子を示す。
四人で並んで腰を下ろした。
「ユウ、帰りに何か食べるか?」
「食べたい!」
「急に元気になったな」
「試験中、お腹空いてたんだ」
「何が食べたい?」
「甘いもの!」
リリアが口元を緩める。
「じゃあ、休んだら探しに行こうか」
「うん!」
結果を聞くのは明日。
今はまず、四人で何を食べるかを決めることになった。
少し期間を開けてしまい申し訳ございません。
少しずつ成長していくユウの姿、それに感化される周囲。
様々な出来事が今後降りかかってきます。
楽しみにしていてください。




