婚約発表舞踏会①
舞踏会が開催されている王宮殿の大広間からは人々の楽し気な話声や音楽が聞こえてきていた。
今日は特に人々が多く国内はおろか隣国からも多く出席していた。
シャナーは緊張しながら王妃とラファイル王子の後ろを歩いて共に王広間の中央階段へと続く扉の前までくると、急に音楽が止み、王妃の登場を会場の人々に伝える声が大広間に響いた。
その声を聴くなり、今までめいめいに話していた人々が口を閉ざし、中央階段に集中しだした。
階段の下には、国王が立ち、王妃を待ち構えていた。
「さあ! あなたたちわたくしの後に続いて降りてきなさい」
そういうと、王妃は華やかな大広間に続く中央階段を優雅におりていった。
王妃の登場で会場中がどよめきが起こった。人々は口々に噂にたがわぬ美貌の王妃をほめたたえながら見入っていた。
やがて王妃が階段をおりきったそこには国王が待ち構えていて、王妃の手を取った。
「そなたは変わらず美しいの」
「陛下も相変わらず素敵ですわよ」
キャサリーヌはハルイ王に向かって笑顔を向けた。
ハルイ王もキャサリーヌ王妃に向かって笑みを浮かべて、そろって出席者にむけて挨拶をした。
「今宵は我が息子の婚約発表の席によくぞ出席してくれた。息子の婚約者のシャナー・ラベリーだ」
ハルイ国王がそういうと、会場にキャサリーヌ王妃がおりてきた時以上のどよめきが走った。
人々の視線の先を見ると、中央階段の一番上にラファイルとラファイルの隣に立つシャナーの姿があった。
シャナーは緊張しているのか固い表情をしているようだったが、ラファイルは今まで見たこともないような笑顔をシャナーに向けて立っていた。
シャナーの腰に手を当てて自分に引き寄せると、ラファイルはシャナーの耳に何かを囁くと、階段をゆっくりおり、並んで一礼した。
その後、ダンスフロアにシャナーを連れて歩きだした。
すると、そこでダンスをしていた人々が一斉にその場から壁際に退き、そのフロアはラファイルとシャナーだけになった。
すると、キャサリーヌ王妃はハルイ王の手を引っ張って同じダンスフロアに歩いてきた。
そして音楽が始まると、二組は軽やかにダンスを始めた。
シャナーは久しぶりのダンスに無事踊りきれるか内心ドキドキだったが、思いのほかラファイルのリードは完璧だった。
こんなに楽しいダンスは初めてだった。
そして隣で踊っている国王夫妻のダンス姿もとてもきらびやかで舞踏会に出席していたほぼ全員がため息交じりで見入っていた。
無事ダンスが終わると大拍手が巻き起こった。
国王と共にキャサリーヌ妃は王座に座り、ラファイルとシャナーはもう一曲ダンスを楽しみ、順にラースやベンともシャナーはダンスを楽しんだ。
ラファイルもビュランテやルコッテともダンスを楽しんだ。
さすがにソフィーにはダンスを申し込まなかった。
なぜならソフィーはラファイルよりも明らかに背が高かったからだ。
その様子を影からすごい形相で見る姿があった。
「おいどういうことだよ。ラファイルのやつ、女性に触れられないんじゃなかったのか? お前の情報元が間違っていたんじゃなかったのか?」
「そんなはずは」
「女に触れられない病気持ちだって聞いたから奴をこの国の王位継承者の座から引きずりおろせると思ったからきたってのに普通に触れても平気そうじゃないか」
「うるさいな、私に文句を言われても知らないわよ。私はそんな噂を聞いたって言っただけじゃない! だけど私あの女の顔どこかで見たような気がするんだけど、どこだったかしら」
「はあ? またお前の思いすごしなんじゃないのか、くそっ、がせねた掴ませやがって、作戦は中止だ。帰るぞ」
「まってよ~。ぜったいどこかで」
そういいながら帰ろうとする兄を引きとめながら叫んだ。
「あ~思い出した。お兄様、あの子男よ! ほら、騎士団にいたベルトンが言っていたじゃない。ラファイルの世話係のカミールって変なのが入って何かと世話を焼くようになってから変わってきたって。私、どんな顔なのか一度お母さまが叔父様に会いに来る時にきて、庭園を散歩するふりをしてラファイルの館へ偵察に行った時にみたのよ。あの時の顔と同じよ」
「ベルトンか…しかしあいつの話はあまり信用できないしな。あいつ結局、すぐに騎士団やめたんじゃなかったか」
「仕方ないわよ。団長がうっとうしいって言っていたもの」
「しかしカミール…カミール…どこかで聞いた名前だな」
「どうしたのお兄様?」
「思い出したぞ、カミール・ラベリーか!」
「知ってるの?」
「ああ、思い出したよ。母上のすすめでこの国に留学していた時に通っていた学園に確か病弱であまり学園に来なかったけど、そんな奴がいたな。妙に華奢で女みたいな顔をした奴だったぞ。そうだあの顔だ」
「お兄様、じゃあ」
「ああ…あの噂はまんざらガセネタじゃないかも知れねえな。その証拠に手袋をずっとしているじゃないか。お前、試しにダンス申し込んできたらどうだ? 首に手をまわすとかして直接触ってみろよ。今夜は各国から王族が来てるし、王位継承者が女性に触れられないなんてしれたら、それこそ王位継承権をはく奪ものだぜ」
この国には他に王位継承者はいねえんだし。婚約発表なんかして偽物の婚約者をしたててメンツを保とうとしているなら化けの皮をはがしてやろうじゃないか。女に触れられない王子なんか王位継承権をはく奪されても仕方ないってな」
「あら、でも少し残念かも。よくみたらすごくイケメンになってるし、私が王太子妃になってあげてもよかったかも」
「お前がか? そうなったらこの国も終わりだな」
「なんですって」
「ほら、早く行ってこいよ。あの噂が本当なら、間違いなくあいつは破滅の道を進むことになるんだから。ガセネタでも、手に仕込んだクリームで発疹ぐらいはでるだろうからな」
「いくわよ、行けばいいんでしょ。この貸は高くつくから覚えておきなさい。この私まで変な発疹がでたら、一生奴隷扱いしてやるから」
ガーネルーアはビシュケルを睨みつけるとブツブツ言いながら彼から離れ、人々に囲まれているいとこのラファイルに近づいて行った。
「ラファイル、久しぶりね。驚いたわ。本当に新しい婚約者がいたなんて、病気はどうしたの? ナテグリーから聞いたのよ、女性が触れると大変なことになるって。大丈夫なのそんな状態で婚約発表なんかして」
ニヤリとした表情をみせたガーネルーアにラファイルは平然とした顔をして答えた。
「ああそのことか? 便利な体をしてるだろ。好きでもない女が近づくと発症するらしいんだ。だけど、今は優秀な薬使いがいるから、薬で改善されてきたんだよ。ナテグリー王女が来た日はたまたま薬がきれていてね。彼女には口止めしていたんだけどね」
「あら、ごめんなさい口が滑ったわ。でも治ったのならこんなどこの誰かもわからない子なんか選ばないで私が婚約者になってあげるわよ。王国の繁栄のためにはやはり王族同士がいいんじゃないかしら?」
そう言うなり、ガーネルーアは一瞬でラファイルに近づいた。
とっさにラファイルの間にはいろうとしたシャナーを突き飛ばしラファイルの首に両手をからませると自分の胸を押し付けるようにラファイルに抱きついた。
顔面蒼白になっているラファイルだったがそれ以上にガーネルーアを睨みつけると自分の首から彼女の手を引っぺがすと言い放った。
「ガーネルーア、この世で女性が君一人しかいなくなっても僕はキミを選ぶことはないよ。他にもいろいろ言い寄ってきてくれるけどね、僕にはシャナーしか目に入らなんだ。すまないね」
突き飛ばされて床に転んだシャナーを抱き起し、平静を装いながら、その場から離れ、舞踏会会場から離れた。
シャナーはラファイルの首が炎症を起こして腫れあがっているのを誰にも悟られないように、いかにも自分がラファイルの付き添われているかのように装いながら人々からラファイルを離すように舞踏会会場から離れた。
その後をラースとベンもついて来ていた。
ラファイルが舞踏会の扉をでた瞬間、シャナーに覆いかぶさるかのように意識を無くして倒れ込んだ。
「ラファイル様」
ラースとベンが瞬時に受けとめ、人目がつかないうちにラファイルを担ぎ、別室に運んだ。
「どうしてこんなになったのでしょう。さっきまでなんともなかったのに、まさか私が作ったシチューがあたったとか」
苦しそうにしているラファイルを心配そうに見つめるシャナーにラースとベンもどうしていいのか思案していた。
その時、別室にサフェリアが入ってきた。そして体中の発疹をみてある結論を導きだした。
「シャナー、それはないよ。まったくラファイル殿下はどれだけデリケートな肌をしてるんだい。まったくどいつもこいつもいろんなものを体にこすりつけおって、この残り香はブムじゃな。バデリア国産の高級品らしいが、この原料は中毒性もかなり高いんだよ。効かない人間にはいい香りするの草なんだが、触れると発疹に似た反応も起こしやすい成分が含まれているんだよ。わざと体に擦りつけてきたのならかなり悪質だね。まったくまた薬を増やさないといけないのかい」
「薬…は嫌だ…」
意識が戻ったのか苦しそうに目を開けたラファイルが言った。
「馬鹿をおいいでないよ。まったく、トリア、急いでこの配合の薬草を調合して持ってきておくれ」
サフェリアはそういうとメモ用紙に必要な薬草名を書き込むと側に控えていたトリアに手渡した。
それを受け取ったトリアはサフェリア館に向かった。




