殿下、目大丈夫ですか?
キャサリーヌ王妃はやがてシャナーを伴って館を出ると、前に馬車の用意がされていた。
というのも宮殿の王妃の部屋に戻るだけなら庭園を抜けるとすぐなのだが、そこは午後から今日は多くの警備と人が集まり始める場所の為、彼女が姿を現すと必ず目立ってしまうのだ。
今目立つわけにはいかないのだ。
誰にも知られず、王宮内に戻る必要があるのだ。
宮殿内の王族専用の宮殿に行くには一端城を出てからぐるりと別の門から入り直さなければならないのだ。
馬車は秘密の通路を通り、誰の目にも留まらず、王宮の内部の王族居住地区域に入って行った。
馬車からおりたシャナーはなるべくキョロキョロしないように、キャサリーヌ妃の後ろをついて歩いた。
忙しそうにすれ違う多くの召使たちは王妃を目にした途端に一礼し通路の隅により頭をさげて王妃が通り過ぎるのを見送った。
そしてスムーズに王妃の部屋に到着した。
中に入ったシャナーはきらびやかなその部屋をキラキラした目で見渡していた。
その部屋の一面をのぞき、壁沿いにはたくさんのドレスをかけることのできるハンガーラックのような棚が壁に沿って垂直に設置されていて、大量のドレスがかけられていた。
そして扉を開けてすぐ目に入るのは左側には一面に鏡ばりされた壁があり全身を映し出せていた。
「そんなに変かしらこの部屋?」
「いえ、とても素敵な部屋です。素敵すぎてクラクラしそうです。この間案内された衣装部屋とはまた違う部屋なのですね」
「ええ、ここは完全に私のプライベートな部屋よ」
そう言いながら、キャサリーヌ王妃は一着のドレスを手に持ち、立ち尽くしているシャナーに近づいてきた。
そのドレスは首のところまでフリルの豪華なレースが施されており、全体は淡いセルリアンブルーで、スカート部分はシンプルな仕様に仕上がっていた。
シャナーがドレスを着替えると、化粧を施し、ドレスにあう鬘もその部屋にはそろっていた。
しかも色んな髪の色の長い鬘があった。
そうしてシャナーのドレス選びや鬘など全ての舞踏会用の準備が終わったのは既に夕方になっていた。
キャサリーヌ王妃も今日の舞踏会参加の為にドレスに着替えたが、その準備にもまたかなりの時間がかかり、キャサリーヌ王妃とシャナーの舞踏会用の準備が全て整ったのは舞踏会が始まる直前だった。
衣装部屋からでて、王妃の部屋のソファーに座って待っていると、扉がノックされ、どうしていいか戸惑っていると、返事を待たず扉が勝手に開き、正装姿のラファイルが一人立っていた。
部屋に入るなり、王妃の部屋の椅子に座っているシャナーを見つけると、言葉を発するよりも早く満面の笑顔でシャナーに近づき、座っているシャナーを抱きしめた。
ラファイルの正装姿を見るのは初めてではなかったが、つい見入ってしまい、ラファイルの行動を予測するタイミングが遅れ、立ち上がるまもなく抱きすくめられてしまった。
「シャナー、一段と可愛いな。このまま館に連れ帰ってしまいたいぐらいだ」
「でっ殿下も素敵です。ですが、あっあのドレスにしわがつきます」
「あっごめん。シャナーが可愛すぎて、衝動をおさえきれなかったよ」
ラファイルが素直にシャナーを放してまじまじとシャナーを眺めていた。
「可愛い仕上がりになっているでしょ。さすがにラファイルが惚れるわけね。普段の男の子の格好からは想像できないわね」
相変わらず完璧な大人の美しさを発しているキャサリーヌ王妃が衣装部屋からでてきて二人に近づいて言った。
「王妃様こそ、一段とお美しいですわ」
「あ~ら素直でいい子ね。これでも控えめにしたのよ、今夜の主役はあなたなんだから」
「ですが…」
シャナーは自分の姿をみて曇った顔をした。
「シャナー? ドレスできつい所があるのかい?」
ラファイルはシャナの腰に手をあてながら顔をのぞき込んでいた。
「いえ、あの、すごくぴったりです。ドレスは何の問題もないです。私自身の問題ですから。私…殿下に恥をかかせちゃうかもしれないです」
シャナーは下を向きながら完璧なプロポーションの持ち主である王妃の胸元に視線を移した後自分の平な胸に視線を落としながら、何か詰め物でもすればよかったのではと思うほどに自然とため息がでてしまった。
その様子を敏感に理解したのは王妃だった。
王妃は無言のままシャナーに近づきシャナーの側を離れないラファイルをシャナーから引っぺがすとシャナーを自分の所に引き寄せ耳元とで囁いた。
「シャナー、体型のことは気にしすぎない方がよくてよ、その他大勢の目を引く体つきをしていなくても、あなたは本物の女性であることには変わらないんだから。それにね。ラファイルは胸の大きな女性は苦手なのよ」
「そっそんな男に人なんかみたことがありません」
シャナーは王妃の言葉に異議を申し立てるように顔を上げた。
しかし王妃は笑顔になって、側で早く自分ももう一度抱かせろと母親を睨みつけているラファイルに舌を出しながら、シャナーをもう一度抱きしめた。
「大丈夫よ自信を持ちなさい。この息子にかぎって心変わりはあり得ないから。ほら見なさい。このわたくしなんかまったく眼中にもないっていう顔を」
「母上、何をシャナーに言っているのか理解できませんが、僕は年上には興味ありません。僕のシャナーをそろそろ返してください」
ラファイルが母親を引っぺがそうと二人の間に割って入ってきた。
「あら~嫌だ。あなたはいつもシャナーに触れているんだから、たまには私に貸してくれてもいいじゃない」
「嫌ですよ」
ラファイルが強引に母親からシャナーを引っぺがすと今度は簡単に奪われてなるものかとでもいうかのようにキャサリーヌ王妃を睨みつけた。
シャナーは顔を真っ赤にしながら、だけど、嬉しい気持ちになるのだった。
「ラファイル様…こんな私でも本当によろしいのですか? その、婚約者として各国の王族の方々を前に披露しても、その…私男の子みたいだし」
「何を心配しているのかと思えば、僕はシャナーがいいんだ。もう世界中の奴らからシャナーを隠したい気持ちでいっぱいだよ。こんなかわいいシャナーをみたら男どもが目の色を変えかねないからな」
「殿下…目大丈夫ですか?」
シャナーの言葉を聞いたラファイルはシャナーの言った意味は分からなかったようだったがキャサリーヌ王妃は理解していたようで、途中で大笑いしてしまっていた。
「あっははは! シャナー安心しなさい。この男はあなた以外は女として目に入ってこないようだから」
「でも…あのそれだけじゃなくてですね、私本当に陛下とダンスをしなければいけないんでしょうか? あの…」
「あら、ハルイは楽しみにしてると思うわよ。ラファイルとのダンスは大丈夫なんでしょ」
「あの…その…」
「母上、無理に聞き出そうとしなくてもいいじゃないですか、僕も反対ですからね。ラースやベンはいいとしてもぜったい父上とだけは反対だ」
「あら~ハルイが聞いたら落ち込みそうね。仕方ないわね可哀そうだから私が誘って慰めてあげるわ。本当に駄目?」
キャサリーヌ王妃はシャナーにたずねたがシャナーは頷き謝罪した。
(だって緊張して失敗しそうなんだもん。ラファイル殿下とだってうまく踊れるか不安なのに、陛下は素敵すぎて怖いんだもん)
シャナーの心の声を聞こえるのか定かではないがラファイルが突然言い出した。
「シャナー、僕は父上よりすごい王に絶対なるよ」
その言葉にシャナーは笑顔で言った。
「頑張ってください。私も殿下の側ではずかしくない女性になれるよう内面を磨きますから」
「シャナー、はそのままでいいよ」
ラファイルは優しそうな眼差しをシャナーに向けた。
シャナーもつられて笑顔になった。
そんな二人を見ていたキャサリーヌ王妃は軽くため息をついた。
「はあぁ…残念ねえ~、仕方ない。今夜は久しぶりにハルイの相手はわたくしがしてあげることにするわ」




