ハルイ王の孤独
わしはファーマールズ王国の国王になってもうずいぶんになる。わしと言っているがまだ40歳手前だ。
外見もまだまだ息子にも負けていない自信がある。
戴冠式と結婚を同時に行ったからキャサリーヌと婚姻してもう長い。
自慢じゃないがこう見えても未だに王妃を愛している。
しかし王妃一人を長年思い続けているとは誰も信じないであろうな。
顔をあわせば嫌な顔をされる。
ようやく静養から戻ったと聞いていたが、王妃の部屋に行く勇気がもてないでいる。
嫌われているのかと王妃の口から聞く勇気も持てずにいるとは情けない限りだ。
「はあ…何か面白いことでも起きてくれればなあ」
ハルイ王は今日もため息をついていた。
ハルイ王はこの十年、一年おきに側室をおいてはいたが、それは宰相や大臣どもが跡継ぎ跡継ぎとうるさいから置いているだけなのだが正直誰にも手を付けずにいた。抱きたいと思わないのだ。
この十年でかなり老け込んだ気がする。
最近王妃が戻ってきているが、仕事が忙しく中々会話が続かない。
その上、なにやら最近はどこかに出かけてばかりいうようで、時折り変な仕事が増えてますます自由がきかなくなってきている気がする。
「のう、最近わしは働きすぎだと思うのだがあれはどうなんだ? きちんと仕事をしているのか? そろそろわしは引退してもいいんじゃないか?」
「あれとはラファイル殿下のことでしょうか?」
「他におるまい、婚約者もできたことだし、公務もこなしているのか? そろそろこっちへ移ってきてわしの仕事を補佐する気を起こしてきたりはしていないのか?」
ハルイ王はこのところの激務でめっきり老け込んでいるかのように眉間にしわを寄せて側近であるチャリーストンに愚痴り出した。
「そうですね、本日はサフェリア館の手伝いを継続するとかで、代わりにラースが執務すると申しておりましたが」
「またか! この間も申していたではないか? ラースもラースだ、ラファイルをあまやかしすぎではないか?」
「確かにわたくしめも注意はしたのですが、そうすると執務が滞ってしまいますゆえ」
「ラファイルはいいのう、優秀な部下がおって」
「何をおっしゃりたいのですか陛下?」
「別に…して王妃は今日は何をしておるのだ?」
「本日は王妃様もサフェリア館にいかれるご予定だと聞いております。朝食もあちらで食べられると侍女から報告が入っておりますが、何か御用でもおありでしたか?」
「用がないと会ってはいかんのか? じゃあなにか、今日も仕事をするのはわしだけか?」
「そのようですね。陛下はまだお若いのですから後20年は頑張っていただかないと」
「はあぁ…わしはそのうち倒れるのではないかのう…最近疲れがとれぬようだし。お前がたまには公務を変わってくれさえすれば息抜きができるのだがな」
ギロリと睨みながらチャリーストンに向かってため息をついたがチャリーストンは我関せずといった様子で更に手に持っていた書類を積み上げた。
ハルイ王は大きなため息をついて、机の上に山積みになっている書類に向かってため息をついた。
そう最近もキャサリーヌはわしのことなどお構いなしだ。
ようやく静養先から戻ってきたのかと思えば、どうやら、息子の婚約話の真相を突き止めるためだけに戻ってきたようで、そっちに夢中のようだ。
寝室も別で、朝起きるともう既に宮殿にはいないという日が増えた気がする。
「しかし、そんなに面白いものなのかのう…確かラベリー家の娘シャリーとかもうしておったな、確かにあの娘は興味深い娘のようだ。もう少しゆっくり話してみたいものだ」
今日もハルイ王は執務室で一人ブツブツ独り言をいいながら仕事をこなしている。
嫌だと言っていても誰も変わりに仕事をこなしてくれる者がいないことを知っているのであきらめて書類に目を通し始めるのだ。
代わりに仕事をこなしてくれる優秀な部下がいる息子がうらやましくもあるハルイ王の忙しい孤独の一日がこうして続くのだった。
「それはそうと、先ほど、キャサリーヌ様の侍女のアシャから報告があったのですが、明日の午後からの来訪者との謁見にはご欠席との事でした」
その日も、チャールストンが王妃が仕事をしないという報告をしにきた。
「はあ…またサフェリア館にいったのか?」
「そのようですね。しかし、十日後の夜の舞踏会には王妃様とご一緒にラファイル様も久々にご出席なされるとのことでしたので招待客のリストを作成しましてラファイル様に届けるように手配しておきました。ラファイル殿下の婚約者のシャナー嬢もお連れするとおっしゃっていましたが、陛下は何か聞いておられますか?」
「いや、何も聞いてはおらぬ、全て王妃に任せておるからな。それは誠か? ということは正式に婚約発表でもするつもりなのか?」
「おそらく…そろそろではないかと思いますが、我々もラファイル様のご婚約に関しては全て王妃様にお任せしておりますゆえ」
「そうだな、では次の舞踏会では久しぶりに義理の娘となるシャナーにダンスを申し込んでみるとするかな」
ハルイ王はそう言いながらにやけた。
「王子が許可しますでしょうかな」
「わしはこの国の王だぞ、ダンスぐらいでいちいち息子の許可が必要になるのか?」
「そのようなことはないかと思われますが、ラファイル様はかなりシャナー様にご執心だと聞いていますので、陛下は父君といえども男ですので」
「なんじゃ、嫉妬深い男は愛想をつかされるぞ、ちと教えてやらねばならないかもしれんな」
「ご自分の失敗談をですか?」
「なんだと!」
「いえ、ダンスは別として、妹君様がたの動向はどうなされます」
「ラファイルのアレルギーのことか? やはり他言するなと言っても漏れるであろうな。しかし、あれは呪いの影響が大きかったのではなかったか」
「ナテグリー王女の一件もありますゆえ、口止めしていても噂というものは広がりますから。女性アレルギーと誤解もあるようですな。そのようなアレルギーがあるのであれば、王位につけず、ご自分たちの子どもに王位継承権一位を譲られてはどうかと言ってきている方もいらっしゃるようですので」
「はあ…父上もどうしてあのようにたくさんの側室をもうけたのかのう…」
「陛下も例外ではございませんよ。合計いたしますと同じぐらいの女性の側室の人を迎えておられますよ。子どもがお出来にならなかっただけで」
「わしは父上とは違うからな。わしは王妃への意地で側室を迎えてはいたが、王妃以外は手を出しておらんからな」
「はあ…その陛下の意地の為にどれだけの国費がかかったと思っているのですか? 陛下が側室のどなたかともう一人でもお子様をもうけていただけていれば、今更このような問題も起きなかったのではありませんか?」
「無茶をもうすな。好きでもない相手を抱けるか。わしはキャサリーヌだけしか愛そうとは思わぬ」
「しかし、王妃様にはそのお気持ちは微塵も伝わっていないように思われますが」
「そうなんだよな…わしはそんなに魅力がないか?」
ハルイ王は机に置かれていた鏡で自分の顔を眺めながら言った。
「いえ、十分魅力的だと存知ますが、その話し方ではございませんか? かなりご高齢の方と話している印象を受けますよ」
「しかし治そうにも、それ以前に避けられている気がしないでもないしな」
「うっとうしいからでは」
チャールストンは小さく呟いた。
「何かもうしたか?」
「いえ、何も、お世継ぎ問題に関しては、まだまだもめそうですね。一応妹君様方の舞踏会への出席は辞退するとの連絡は来ておりますが、ご長女のジャスラー様のお子様お二方は出席されるとのことです。明後日には到着してしばらく滞在するとのご連絡が入っております。ジャスラー様の母上の館をご使用なされるとのご報告がありました」
「ジャスラーか…はあ、まだあきらめてはおらぬようだな。昔からこのファーマールズ王国を狙っている素振りがあったからの、何も問題を起こさねばよいが」
「そうですね。しかし、妹君様方のそれぞれの館の使用についてもどうにか対応を検討した方がよろしいのではありませんか?」
「そうじゃな、そろそろはっきり言った方がよいかもしれんな。サフェリア館のように他の研究施設に使った方がよほどよいからな」
「では、そちらの件に関しましてはまた後日会議を行うとして、その書類全てにサインをお願いいたします」
そういうとチャリーストンは頭をさげて出て行ってしまった。
「仕方あるまい、ごねていても何も始まらぬしな。手伝ってくれる者もいないしな。仕事をするか。十日後の舞踏会は久々に楽しみだな」
ハルイ王は久々に一人ニヤケ顔で仕事を再開させた。




