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地下室の扉の秘密

地下室に残ったラースとベンとトリアは扉の前に立っていた。

ラースはラファイルの持っていた鍵開けの魔具を箱から取り出し、鍵穴に張り付けた。


「なんだそれ? 本当にそんなんで鍵が開くのか? 黒くてブヨブヨだし」


べンがその鍵穴に張り付いた魔具を人差し指でつつきながら言った。


「これはこんな簡単な鍵ぐらいならその鍵穴に入りこんで固まり鍵の代わりをする異国の魔法道具なんですよ」


「そんなヤバイもんがこの世にあるのか?」


「ああ、それなら私も聞いたことがありますよ。ですがそれはかなり高額な物のはず、よく手に入りましたね。確か、ビビッチェ国の国宝級の魔具だと思いますが」


「まさか、これはたぶんそれを模写した偽物ですよ。一般の家庭用の鍵ぐらいしか開けられないようですしね」


「試したのか?」


「はい殿下が気まぐれで、ですが、金庫の鍵などには使えませんでしたし、館の玄関用の鍵なんかにも使えず、唯一つ使えたのは部屋の鍵ぐらいで」


「なんだあんまり役にたちそうにねえなあ」

「ですが、一般の家に泥棒に入るだけならそれで充分ですよね」

「ああそうだな」


「まっ、この入手経路は後で殿下を締め上げるとして、おっ鍵が開いたようだな」

そういうとそのブヨブヨした魔具を鍵穴から取り出し、懐に入れた。


「ねこばばはよくありませんよ」

「なんだよ、目をつむれよ」


「いいえ、めんどくさいのはごめんですから」


ラースはベンから奪い返すと、元の箱に戻しポケットにしまい直した。


「じゃあ、開けるとするか、トリア、俺が一瞬だけ扉を少し開けるから中の空気を確かめてくれ」


ベンはドアのノブに手をかけて言った。


「わかりました」


そういうとトリアはドアの横に移動し、扉が開く方向の扉の前に立った。


「よし行くぞ」


そう言ってベンはドアノブをまわし重い扉をまわし扉を開くとすぐに押し閉めた。


「どうでしたか?」


後ろのラースがハンカチで口元を押さえながらトリアにたずねた。


「大丈夫だと思います。カビのようなにおいはしますが毒性の匂いは発してきませんでした」


トリアがそういうと、ベンがその言葉を聞くやいなやすぐに扉を全開して中をのぞき込んだ。


「ちょっとベン団長! もっと行動には慎重になってください。もし何かが飛び出してきたらどうするつもりなんですか?」


「お前ビビってるのか? 何も出てきやしねえじゃねえか、ていうかこの匂い確かにかびくせえな、暗くて全く中がみえねえけど、階段がかなり下まで続いていそうだな」


ベンは手に持っていたランプを扉の中の空間に向けながら既に中に体を入れていた。


「おい行くぞ!」


「トリアはここにいてもいいぞ」


ラースはやれやれといった仕草をすると、足元に置いていた別のランプを持って地下の更に下に続く扉の中へとベンの後に続いて入って行った。

トリアも何も言わずその後を続いた。



中はかび臭いにおいがずっと続いていたが、異臭はしなかった。

ただかなり古い時代に作られたであろう石の階段が緩やかにカーブを描きながら更に下へと続いていた。


「しかし、こんな地下の通路があったとはな、どこに繋がっているんだろうな」

「今度は横に続いているようだな。こりゃあ、秘密の抜け道ってやつか?」

「秘密の抜け道ですか?」


トリアがたずねるとラースが答えた。


「ああ、敵襲や、反乱なんかが起きた時に密かに王族を外に脱がす為の通路ですよ。確か王宮殿にもあると聞いたことあります」


「ああ、言い伝えではあるとは俺も聞いたが、ここにそんなものを作っても意味がねえんじゃねえのか? あの館は王様が住む住居じゃないんだから、大体ラファイル殿下が王宮殿に住まないのは殿下の気まぐれであって、本来昔から跡継ぎである王子は王宮殿に住むべきだしな」


「そうですね、ではなぜここにこのような物ができたのでしょうか」


「さあな、俺は歴史には興味がないからな。しかし、長いなこの横穴はいったいどこに繋がっているんだ」


三人はその後も無言で歩き続けようやく降りてきた階段のようなのぼりが見えてきた。


「おい! 目的地についたようだな」


ベンがランプをかざしながら今度はのぼり階段を指さした。

三人はその階段をのぼると入った時と同じような扉があった。


「おいさっきの魔具をかせ、こっちは内側からの鍵みたいだぜ」


ベンは扉の鍵穴らしき場所にランプをかざしながら左手を後ろのラースに突き出した。

ラースはポケットの中から鍵開けの魔具を取り出すとベンに差し出した。

ベンがその魔具を鍵穴につけると鍵は今度もいとも簡単に開く音をならした。


「便利なもんだな」


ベンは今度もためらうことなく内側に開く扉を手前に開いた。すると、そこには壁があった。


「なんだ行き止まりか?」


「いえ、これは棚の後ろ側ではありませんか? ここも棚で隠されているのではありませんか? ここはまだ王宮領内のどこかだと思われますが」


トリアが冷静にその壁に手と耳をあてて何か音がしないか聞き耳を立てていた。


「どうやら波の音と話声が聞こえます。男の方の鼻歌のようですが、近づいてくるようですが」


「そんな声聞こえねえぞ」


「団長はだまってください。トリアは特殊な能力があるんですよ。どうします。内側から叫んでみますか?」


「なんていうんだよ、助けてくれ~なんていうのか? そんなまどろっこしいやり方をしなくても棚ぐらいだったら足蹴りでおし倒せばいいじゃないか」


「ちょっと待ってください、もし宝物庫とかだったら、どうするんですか? 棚に陳列してある品が壊れでもしたら大変なことになりますよ」


「その時はその時だ、棚だけ元に戻して引き返そうぜ」


ベンは親指をたててドヤ顔で言ってのけた。


(本当にやりそうだな…)ラースは胃がキリキリ痛みだしてきた。

(どうしてこの人は後先考えずに突っ走れるのだろうか)


「よし、お前も力をかせ」

「俺は無理ですよ」


ラースは全力で拒否した、棚をけるなど無茶苦茶だ。


「ではおそまつながら私が加勢いたします」

「おっさすが元何でも屋だな」


「ベン騎士団長様お言葉を返すようですけれど何でも屋ではございません。わたくしは侍女の仕事しかしたことはございませんよ。たまに脅迫や誘拐をしたことはございますけれど」


「あっははは、それだけのことをしでかして今は薬師の助手か、たいした経歴だな」


「恐れ入ります」

「よし、じゃあ、せーので蹴り入れるぞ」

「了解いたしました」


二人の呼吸が一致した瞬間すさまじい威力の蹴りが棚に炸裂し、棚が前に倒れ込んだ。

ものすごい衝撃音が鳴り響いた。

当然その音を聞きつけたその場にいた人達が集まってきた。

後ろでみていたラースが言葉をなくしていると、平然とした顔でその棚を踏み台にしてどこかの地下室の中に入り周りを見渡していた所に棚が倒れる音を聞きつけた騎士たちが駆けつけてきた。 

そして、いるはずのないベン騎士団長の姿をみた騎士の一人が叫んだ。


「団長! どうしてこんな所にいるのですか!」


「お前はヨナじゃねえか、てことはここはどこだ?」


「何を言ってるんですか? ここは東の灯台の地下の倉庫ですよ。団長こそどうしてここにいるのですか? それより何ですか今の音は?」


「ああ、気にするな。それよりここは本当に東の灯台か?」

「はい、上に行って確認しますか?」


騎士の言葉で、ベンは倒れたままの棚を踏み台にして上にあがる階段を駆けあがった。

ラースとトリアも後を追った。


「なんことだ、本当に東の灯台だなここは…まさに秘密の抜け道だったわけか。なんだつまんねえな。どこの暇人があんな役にも立たたない地下通路を作ったんだろうな。ああ~ある歩き損だな」


ベンが肩をまわしながらため息交じりにブツブツ言っていると、階段の下から別の話声が近づいてきた。


「すごいわね。こんな地下通路があったなんて。ねえシャナーこれって誰かの愛びきに使ったのかしらね」


「あっ私もそれ思いました。なんだかすごいスキャンダルが秘めていそうですね。この通路なら絶対バレなさそうですもんね」


「シャナー、僕達は使う予定がないから、この通路の事は忘れるんだぞ」


「ええ~どうしてですか、ここを使えたら、森に植物採集にいつでも好きな時にこれるじゃないですか!」


「シャナーいつでも好きな時にきているだろ?」

「でもですね、私は一人できたい時があるんですもん」

「そうよ、あなたは邪魔だって言ってるのよねシャナー」

「わかってくださいますか王妃様」


「ええ、わかるわ~陛下も同じだもの、一人になりたい時もあるのよね女は、ラファイル、あなたもあまりシャナーに付きまとうと嫌われちゃうわよ」


「僕は心配だからじゃないか。あんな暗い地下で地震とかおこって閉じ込められたらどうするだ。絶対この通路は封鎖するからな」


ベンはあきれ顔で三人を睨んだ。その三人の後から騎士の二人もあがってきた。


「お前たち、見張っていろと言っただろう」


ベンは騎士たちに怒鳴った。


「あらベン、あなたが何も私たちに報告もしないで先にはいっちゃうからいけないでしょ」


キャサリーヌ王妃が反論した。


「しかしですね、どこに通じているかもわからないんですよ。もし、もっと下の地下の闇に堕ちる穴でもあったらどうするんですか!もっと王妃と王子という自覚をお持ちくださらないと困りますよ」


睨みながらいうベンに対して、二人で舌を出している姿にシャナーは小さく笑いだした。


「でもなんだか冒険しているみたいで楽しかったわ」


「確かに」


シャナーとラファイルが笑い合った。

そのしばらく後で、なんとサフェリアとルコッテ王女とカミールの三人も姿を現した。


「はあ、ドキドキいたしましたわ」


「あらルコッテ様もカミールも暗い場所は嫌だって言っていたじゃない」


「でも…おばあ様が行くっていいだしたから、一人で行かすわけにもいかないだろ。僕も一応男だし」


「わっわたくしも、一度こういう場所を歩いてみたかったんですの。まだ心臓がドキドキしていますわ」

ルコッテ王女は胸に手をあてながら言った。


「いや~私もね、地下の通路に何か植物でも生息していないかなと思ってね。案の定あって大豊作だよ」


そういってサフェリアの手には大きな布の袋の中には何やらうごめくものも含め何かを捕獲した様子だった。


「おっおばあ様、それは植物ではないのですよね。なにやら動いているようにみえるのですが」


「ああ、こうもりみたいだったよ」

「コッコウモリ!そっそんなものがいたの?」


シャナーはラファイルにしがみついた。


「よっよかった。僕達が通った所に遭遇しなくて…」


「あら残念ね、ラファイルの悲鳴が聞けたかも知れないのに」


キャサリーヌ王妃が面白そうにサフェリアがもっている袋に興味深々で近づいてラファイルをからかった。


「そこ! 聞いているんですか?」


「もううるさいわよ、無事だったんだからいいじゃない」


キャサリーヌ王妃が反論した。


「それより、この通路の事陛下にも報告した方がいいんじゃないの? あなたたちは気付かなかったかもしれないけど、ここに来る途中にいくつかの細い横道があったわよ。この王宮領内の色んな所に繋がっているんじゃないかしら、秘密の通路として何かあった時には使えそうだけど、鍵の保管場所や鍵の厳重化をしないと、暗殺者とかに見つかったら入り放題じゃない」


キャサリーヌ王妃の指摘に、ベン騎士団長が頭をかいて叫んだ。


「ラース、今日は通常業務は中止だ! 今から一緒に王宮殿に行って陛下に説明にいくぞ、お前たち騎士全員をサフェリア館に緊急招集させておけ! 俺は今から陛下に報告してくる。陛下の許可がおり次第、他のルートの開拓を開始する」


ベンはそういうと東の塔の外に出ると、繋いであった別の騎士が乗ってきていた馬にまたがった。

そして、キャサリーヌ王妃とラファイル王子に向かって言った。



「お二方は王宮殿にご同行願いますよ」


「嫌~よ。私たちはこれからサフェリア様の所で仕分けを手伝うんだから。そうよねラファイル」


「はいその通りです母上。外に荷物が出しっぱなしですしね」


地下の探索がただの抜け道だと分かった今、キャサリーヌ王妃の興味はもうこの地下にはないようだった。

ラファイルも陛下にあれこれ聞かれるのを全力で阻止したい態度が見え見えだった。


「はあ…カミール、二人を寄り道させずにサフェリア館にお戻ししろよ」

「はい、なるべく善処します」


ベン騎士団長は反論する気も失せ、大きなため息だけをついて王宮殿に向かった。

ラースもその後を追った。


その後、陛下の許可のもと地下の通路の大捜索が開始されると、まるで迷路のような地下通路が発見された。

その後、全ての扉がつけかえられ簡単にはあけられない最新の鍵に変更され、厳重に封鎖された。


今回の一番の被害者はもちろんラファイルだった。

お気に入りの魔具をベンに没収され、カミールの部屋はもとより、シャナーの部屋にも押し入る密かな計画も実行できなくなり、かなりへこんでしまったのは言うまでもなかった。




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