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誰が開ける?

それから三日後、その日は早朝からサフェリア館では大規模な薬草の移動が行われていた。

というのも、この間の件できちんと原料の管理の徹底を図ることとなったからだ。


シャナーは三日間みっちりサフェリアからお説教という再指導を受けた後、きちんと薬草を保管している容器には名前の明記と管理を徹底することになり薬草などを保管していた倉庫からいったん全ての物が運びだされ、収納棚を新設する為の大移動を行った。


その為、倉庫に元から入っていたものも含めると、ものすごい量の物が一階や外に運びだされた。

あまり日光にあてるのが良くないものも含まれているため、それらの仕分けを一階部分でルコッテとトリアが担当し整理をしていた。

かなり以前から置かれていたものは全て庭に出されていた。

そして庭では休暇中の騎士たちが中心になって自ら手伝いをかってでてくれて、棚の作成を担当してくれることになった。


地下の研究室に使っていた部屋と隣の倉庫代わりに使っていた二部屋が空になったところで、改めて見てみると、地下の研究室と倉庫の二部屋はかなりのスペースであることが判明し、倉庫として使っていた部屋の古い棚の奥にさらに奥に繋がる部屋が出てきた。


そのため、扉の前ではサフェリアと並んで館の全ての鍵束を一つ一つ確認していたシャナーがサフェリアに話しかけた。


「どれもあわなかったわ、どうしてかしらおばあ様。もっもしかしたらこの向こうは昔ここを使っていた人が密かに作った秘密の地下牢ってことはないかしら?」


「どうしてそんなものを作る必要があるんだい、地下牢なら王宮殿や監獄塔にたくさんあるだろう」


「もっもしかして、何かのはずみで侵入してきた泥棒さんとかを間違って殺しちゃって、隠す為にここに放りこんだとか」


「お前さんは推理物の読み過ぎだよ。そんなことをしなくても、重しを付けてその先の海に放りこめば済む話じゃないか、サメが跡形もなく食べてくれるさ、こんな地下に死体を放りこまなくてもね」


「そうだよシャナー、きっと宝物庫なんじゃないか」


「いいえ、これはきっと異空間への扉じゃないかしら」


二人の聞き覚えのある声にシャナーが振り向くと、そこにはいるはずのないラファイルとキャサリーヌ王妃が立っていた。


「王妃様! どうしてここにいらっしゃるのですか?」


「あら、この館の地下の大掃除をするっていうから何がでてくるのか気になって見に来たのよ。出てきたものは全て処分してもいいって伝えようかとも思ったんだけど、何だか面白うそうじゃない。この館自体は100年はゆうに経っているから年代物の何かが出てくるかもしれないでしょ。だから見に来たの。安心してベンも連れてきたから」


笑顔でいう王妃に周りの人間も何も反論できずにいた。


「母上、確かに一理ありますが、最近遊び過ぎではありませんか? 視察とか公務はどうしたのですか?」


隣に立っている母親にラファイルがいうとキャサリーヌは平然と言い返した。


「あ~ら、その言葉そっくりそのままあなたにお返しするわよ。こんな所でさぼっていていいの? ああ~かわいそうなラース、もういっそのことラースと王子の立場入れ替わったら」


「そうできたら望む所ですけどね。嫌だと既に断られていましてね。それにお言葉を返すようですが、僕は母上と違って、昨日、夜頑張って仕事をかなりしたんですよ。ですから今日の分は半日分は終わらせてるんだ。後はラースが全てやってくれるっていうから、こっちの手伝いにきたんだよ。非番の騎士たちが手伝うっていっても人手は必要だろうかと思ってね。いる物、いらない物の判断は僕がしておくから役に立たない母上はどうぞ父上の元にお戻り頂いて結構ですよ。もう少し父上の相手をして差し上げてはいかがですか?」


「まあ生意気よ、私の息子の分際で! こんな面白そうなこと独り占めしようったってそうはいかなくてよ」


「あの…お二人とも、こんな狭い場所で言い合いはおやめくださいませ」


シャナーは慌てて仲裁に入った。


「そうですよ、もしかしたら中には猛毒ガスが充満しているかもしれないんですよ。お二方は上で運び出した荷物の選別をされてはいかがですか? 肉体労働がなさりたいのでしたらラファイル様は外で騎士たちが木材を調達しに行っていたやつらが戻ってきたようですから、棚の作成を手伝われてはいかがですか? ここはその扉だけですしね」

二人の後ろに立っていたのはベン騎士団長だった。


「ベン! お前余計なことをいうなよ。ここの方がおもしろそうじゃないか」


「あらベンのいう通りよ、あなたは上にいっていなさいよ。わたくしはこの扉の向こうに宝物があったら選別しなきゃいけないんだから」


再びにらみ合いを始める二人を押しのけてベンがサフェリアの元に近づいた。


「サフェリア様、どうですか? こうなったら力尽くでこじ開けますか?」


「そうだねえ…鍵師を呼ぶのも面倒だしね。だけど、この扉の向こうがどうなっているか見当もつかないからね。もしこの先に更に地下への階段がつながっていたとしたら、体当たりしたら転げ落ちてしまうかもしれないだろ。騎士の誰か鍵開けの名人はいないのかい?」


「そんな人間がいたら騎士にはなっていないと思いますよ」


二人の会話を聞いたシャナーがすぐそばで母親と口論を続けているラファイルに向かって叫んだ!


「ラファイル様、もしかしてドアの鍵がなくても何かの道具で簡単に開ける方法を知っているのではありませんか?」


シャナーの言葉に一同がラファイルに注目した。


「えっ? シャナー、何をいうのかと思えば、僕がそんなことできるわけがないだろ」


ラファイルは母親と口論するのを止めて言い返した。

しかしシャナーはニコリと微笑むと突然走りだした。


「おばあ様、ちょっと待っててくださいね」


そういったかと思うと突然地下室から飛び出した。


「シャシャナー! どこ行くんだ?」


ラファイルが何かを察知したのか、青い顔をしてシャナーの後を追いかけた。

シャナーの後を追いかけてくるラファイルの質問には何も答えないでシャナーは地下室を駆けあがると、一階で薬品の仕分け作業をしていたルコッテとトリアに手を振っただけでシャナーは立ち止まらずそのまま館をとびだし、ラファイル館に真っ先に向かおうとしていた。


「シャナー待て! ハアハア、あっあれは駄目だぞ!」


ラファイルは必死でシャナーを止めようとしている様子だった。

ようやく館に入る手前の庭で追いついたラファイルはシャナーの腕を掴んで言った。

するとシャナーが何とか腕を放そうともがいたが、さすがは男の腕力にはあらがえず、いっこうに手が離れない。


「殿下離してくださいよ」

「離してもいいけど、どこに行くつもりなんだい?」

「・・・」

「シャナー言っとくけど、僕のあの魔具は駄目だよ」

「やっぱり持っているんですね。どうして駄目なんですか?」

「どうしてって」

「殿下は見たくないんですか? あの扉の向こうに何があるのか」

「見たくないといえばうそになるけど、あれはひ…」

「なんですかひって?」


「とにかく駄目だよ、どうしてあの箱の秘密を知っているのかしらないけど、他の方法で開けれないか探そう」


そう言ってシャナーを引っ張って行こうとするラファイルにシャナーが大きく息を吸い込んで叫んだ。


「カミール! 緊急事態なの! おばあ様がいる地下室の鍵をなくしちゃったの。早く開けてあげたいから殿下の寝室の枕の下にある魔具の入った箱を持って降りてきて!」


「なっなんてことをいうんだシャナー! カミール今のはなしだ、持ってこなくてもいいぞ!」


ラファイルがすかさず言ったが後の祭りだった。

ラファイルと押し問答していると、何とラースも一緒にカミールが箱を手に降りてきていた。


「隣に手伝いに行ったのではなかったのですか殿下!」


「いや、手伝いに行っていたぞ、行ったんだけどシャナーがな」


そう言って一瞬シャナーの手を離したすきに、シャナーがカミールの持ってきていたラファイルの箱を奪うと、一目散に館へと引き返して行ってしまったのだ。


「殿下、これ借りますね~」


「あっシャナー駄目だって、それをみんなの前で使っちゃあ。僕の楽しみが~」


慌てて奪い返そうとラファイルも再び走りだそうとしたその一瞬早くラースがラファイルの前に回り込み、ラファイルの腕を掴み後ろに回した。


「いて! はっ離せラース」

「まずはご説明を!」


ラースの腕はもがいても緩むことはなかった。


「わっわかった、わかったから離せ、とっとにかく早く僕らも地下室に行かないと」


訳が分からないラースにラファイルは焦りながらも簡単にことの詳細を説明した。

するとラースがラファイルを離すと言い切った。


「シャナー嬢が正しいじゃないか。お前の持っている鍵開けの魔具があれば簡単に鍵があくだろうが」


「だから! ベンの奴や母上もいるんだぞ、そんな奴らの前で使ってみろ、没収されるに決まってるだろ! 僕の楽しみを奪うつもりか!」


ラファイルはシャナーの後を追いかけるべく再びサフェリア館に戻って走りながら地下室にむかいながらラースに向かって叫んだ。


「お前のはた迷惑な楽しみが一つ減るのはこっちとしても好都合だな。あれで隠しているつもりになっていたのはお前だけだぞ」


「くそ―なんでシャナーまであれの存在を知ってるんだよ」

「呪いさわぎの時ですよ殿下」


後ろを走ってついてきていたカミールが言った。


「あの時かあ~くそう。苦労して手に入れたのに」


悔しがるラファイルだったがラースは冷ややかな目で遮った。


「何を言っているんだ。あれは都で捕まえた盗賊が落としていった落とし物を殿下が猫糞しただけじゃないか」


「はあ? 猫糞とは言いがかりだ。僕はあの盗賊と取引をしてやったんじゃないか。僕が仕事道具を預かるかわりに見逃してやったんだぞ。あいつ足を洗ってまっとうに生きてるって手紙がきていたじゃないか」


「はあ? よくいいますね」


ラファイルは階段を駆けおりながらもラースに文句タラタラでブツブツ言っていたが、地下室からまたシャナーの声が響いた。


「いや~団長~! 離してくださいよ~、これ持ってきたの私なんですから、私に先に開けさせてくださいよ~!」


どうやら扉の開放を誰がするかでもめている様子だった。

ラファイルとラースとカミールが地下室に着くと、中ではキャサリーヌ王妃とベン騎士団長とサフェリアとシャナーとがめいめいに自分が開けると言い張ってもめている様子だった。


「ちょっと皆さん、何をもめているのですか!」


ラースの声で一斉に皆しゃべるのを止め地下室の入り口に視線が集中した。

ラースが仁王立ちのように立ちもう一度中のメンバーを諭すように言った。


「詳しい状況はわかりませんが、皆様、特に王妃様とシャナー嬢、それにサフェリア様のお三人はご自分が女性であることを思い出してくださいませ。その扉の先がどうなっているのかわからないのですよ。ただの部屋ならいいですが、もしかしたら、穴が開いているかもしれないんですよ。それに長い間締め切られていて何か毒性の強いガスが充満していたらどうするのですか。開けた途端死ぬかもしれないんですよ」

ラースに諭されて三人は反論できずにいた。


「いいですか、別に一番に開けなくても後で危険がないか確認できてから皆様でみればいいことではありませんか、ここは騎士団の数名がこの部屋に残って確認するのが最善だと思いますけど」


「そうだな、さすがラースだな。俺も最初からそう言ってたんだ」


ベン騎士団長が言うと、キャサリーヌ王妃が反論した。


「あら、そんなことを言って、あなたは面白い場所に繋がっていそうならわたくしには知らせないで、自分だけ楽しむつもりなんでしょ」


「ですから、そんな事はしませんって」

「あなたは信用できないわ」


キャサリーヌ王妃はそっぽを向いて納得していない様子だった。

それに相づちをうつようにシャナーも言った。


「そうですよ、だから私が開けるっていってるんですよ」


「いいや、毒ガスの確認ならわたしがいないと、騎士とはいえ匂いの判別は専門家のわたしがいないと無理だとさっきから言っているではないか」


サフェリアも一歩も譲る気はなさそうだ。


「ではこうしましょう。まず最初にその扉を開けるのは団長ということにして、自分も立ち会います。毒ガスがあるのかないのかの判断は、そうですね。トリアにお願いしてはどうですか? 何か我々に危険があると察知次第、すぐに地下室から避難できるでしょうし、危険がなさそうなら騎士の一人が皆様を呼びに行っている間、団長が勝手な行動をしないようにみはれますし。どうでしょうか」


さわぎを聞きつけた一階で作業していた面々も地下室におりてきており中にトリアも混じっていた。

突然名前を名指しされたトリアも驚いていた様子だったが、嫌がる素振りは見せず冷静に返事をした。


「毒ガスなら慣れておりますから、一瞬でかぎ分けられますから、お任せくださいませ。危険がないことを確認でき次第、皆様にご案内いたしますので」


トリアの返答にサフェリアもシャナーも何も反論を示さなかった。

キャサリーヌ王妃も仕方なくひきさがったが、隣に立っていたラファイルにキャサリーヌはぼそっと息子に囁いた。


「あなたは愛する人が行くって言ってるのに一緒に行くって言わないのね」


明らかにおもしろがっている様子だった。


「ぼっ僕はシャナーが本気で入るっていって入り始めたら止めようと思っていたけど、ラースが止めるとわかっていたから何も言わなかっただけじゃないですか。もちろん、シャナーが後で入る時は僕も同行するさ」


「あら、怖がりのあなたがねえ~楽しみね。何かお化けとか出てきたら私も守ってねラファイル」


真っ赤になって反論する息子にクスクス笑いながらキャサリーヌ王妃はひとまずラファイルの腕に自分の腕をからませて並んで地下室から出て行った。

最後まで名残おしそうにしていたシャナーもサフェリアと共に一階で待つことになった。

最終的に地下室に残ったのはベン騎士団とトリアとラースと地下室の扉の外に一人と、中に入るもう一人騎士の合計五人に決まった。



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