元婚約者の来訪③
翌日、サフェリアの薬の効果でラファイルは元気を取り戻していた。
その後、ナテグリー王女には、何も罪に問うこともなかったが、ラファイルの症状に関して他言無用の宣誓書にサインをし、ファーマールズ王国を去っていった。
ナテグリー王女は自分は無関係だと訴え続けていたが、ビアンカ王女の折も軽い症状ではあったが似たような症状があったことを使用人から聞いたナテグリー王女の側近が王女に助言をし、ラファイルの婚約破棄解消はあきらるように説得をしたようだった。
そのおかげで不服そうではあったが翌日にはナテグリー王女は大人しくコテンシャル王国へと戻って行った。
ラファイルが倒れた翌朝、ラファイル館ではラファイルがベッドの上でシャナーから食事を食べさせてもらっていた。
「ラファイル様、元気になられてよかった…」
「心配をかけたな。だけどこうしてシャナーにつきっきりで看病してもらえるなら、たまに倒れるのもいいものだな」
「ラファイル様! 冗談でもそういう事は言わないでください! 私、本気でラファイル様の身に何かあったらどうしようって思ったんですからね」
「はははは、そうだなごめんごめん」
ラファイルは頭をかきながら言った。
二人が仲睦まじく過ごしていると、サフェリアが薬を持って入ってきた。
そして、シャナーに向かって用事を言いつけた。
「シャナー、殿下は私がみててあげるから、この美容液と一緒にこの手紙を今から至急お前さんが直接キャサリーヌ王妃に届けてきておくれ。検査結果だからね、落としたりしないよう気を付けるんだよ。きちんと渡したら返事を書いてもらっておくれ。食事も食べさせておくから安心おし」
「わかりました。じゃあすぐに行ってきます。あの…ドリマーの散歩がてら歩いて行ってきてもいいですか?」
「ああいいよ」
「シャナー、ドリマーの散歩なら僕も行くよ。母上の用事ならラースに行かせればいいじゃないか!」
「駄目ですよ。殿下は今日一日は大人しくしていないと、それにラース様もカミールも殿下の代わりに今日は仕事が忙しいみたいだもの。おばあ様、じゃあ殿下の監視をお願いします」
「シャナー!」
起き上がろうとするラファイルにサフェリアが耳元で小さく囁いた。
「仮病の話をしにきたんだけどね、なんだったら今叫んでもいいんだよ」
サフェリアのささやきに一瞬顔をひきつらせたラファイルだったが、作り笑顔をみせてサフェリアにむかって言った。
「何のことかわからないですね。あっシャナー、トリアと一緒にいけよ」
ラファイルは視線をサフェリアからそらし今にもでて行こうとしているシャナーに向かって言った。
「おばあ様いいですか?」
「ああ、行っといで、今トリアはルコッテ王女と一緒に地下の研究室にいるはずだから、ついでにルコッテ王女に今日は研究は休みだと伝えてたまには娘と遊んでくるように言っておくれ」
「は~い。では殿下失礼しま~す」
笑顔で出て行ったシャナーに手を振りながら送り出したラファイルに対して、サフェリアも笑顔で見送ったかと思うと、椅子に腰かけ足を組んで話を再開させた。
「はあ…まずは謝罪が先だね。今回はシャナーのミスが原因の一端にあるからね。弟子の不始末は師匠の管理ミスだからね、申し訳ありませんでした殿下」
サフェリアはそういうと一端立ち上がり、ラファイルに向かって頭をさげた。
「えっ? シャナーのミスって、僕は何のことなのか分からないな」
「わからないのなら順をおって説明しようかね」
サフェリアは椅子に座り直すと、説明を始めた。
それによると、昨日の早朝、クッキー作りの最中にシャナーがクッキーの中に混ぜる乾燥ハーブの粉末と間違えて香辛料にも使われる薬草の粉末をクッキー生地に混ぜ込んでしまったようだった。
それは以前のアレルギー検査のおり、殿下に使われる食材全てのアレルギー検査をした時に、殿下には微量ながら発疹などのアレルギー反応のでる薬草だということが分かったらしく、それらは使わないように料理長には報告していたのだが、シャナーはきちんと聞いていなかったようなのだ。
しかもハーブの入っている容器と色あいもよく似ているので気を付けるようにふだんから注意していたにもかかわらず、間違えて使用してしまったようだった。
クッキーに入っていた分量が微量だった為に一口二口ならそれほどひどい発疹にはならないはずだった。
「食べた瞬間へんな感じがしたんじゃないですか?」
「そうだね、でもせっかくシャナーが作ってくれたクッキーだったからいいかなと思ってね」
「そうだね、少しなら何の問題はなかったんだよ。まさか、あの王女の手に保湿効果のある香料のはいったハンドクリームが塗られていなければね」
「保湿効果の香料?」
「まあ、簡単にいうと、保湿効果の効能を上げるにはいろんな薬剤を調合するんだけどねその中に含まれる成分の一つに匂い成分がかなり高いコテンシャル王国が原産の花が原料の香料が最近使われるようになったんだけどね、中にはその花でアレルギー症状が出る者がいてね、この国では確か使用禁止になっている代物だ、まあ、効かない人間にとったら奇跡の香料だけどね。あれが入るか入らないかで保湿効果はまったく違ってくるし匂いも格段に違うからね。しかし、あの薬剤は殿下にとったら天敵だったってわけだ」
「どうしてそこまでわかったんですか?」
「殿下の体中にあった軽く小さな発疹と、手の形をした赤い大きな発疹とではアレルギーの種類が違ってましたし、なにより殿下の発疹のきつい部分の表面の匂いを嗅いで残り香でわかったんですよ。あれはかなりきついからね」
「はは、さすがサフェリア様ですね。でも僕はそれだけのアレルギー物質を体に浴びてしまったのなら仮病ではないと思いますけど」
「そうだね迫真の演技だったね」
「あの聞いていましたか?」
「ああ聞いていたよ」
「はあ…サフェリア様にはかないませんね」
「だけど、まあこのことは他国がからんでくるからね。一応キャサリーヌ妃には伝えといたよ、王妃様がもみ消すのか真実をあの王女に報告するのかは私にはわからないし、何ともできないよ。私は王妃様に雇われている形になっているからね」
サフェリアの話を聞いたラファイルが大きなため息をついた。
「仕方ないな、母上の判断に任せるか、あああっうまくいったと思ったんだけどな。僕の演技を見抜くなんてさすがはサフェリア様ですね」
「おや、お前さんの下手な演技を見抜いていた人物なら四人もいたんだから、お前さんは成功したとはいえないから役者にはなれないだろうね」
「えっ?四人?」
「おや気付かなかったのかい? 両陛下とラース殿だよ。まあ、だましたい張本人のあの王女には見事騙せたんだからお前さんの作戦は成功と言えるだろうけどね」
そう言ってニヤリとした。
「まじか…あああっ僕もまだまだだな」
ラファイルは大きく伸びをして起き上がろうとした時、サフェリアがそれを静止した。
「まあ、今日一日ゆっくりお休みください殿下。その為にラース殿は何もいわないんだから。さあ、体質改善の秘薬を特別サービスで作ってきましたからこれを飲んで今日は休むといいですよ」
そういうとサフェリアは持っていた大きな瓶にはいった毒々しい色の瓶を目の前にさしだした。
その量はいつも飲む量のゆうに三倍はあった。
「あっあのどれだけ飲めば…」
「何? 全部に決まってますよ!」
「ええ~無理ですよ、すごい色をしているじゃないですか?」
「ああ、ちょうど朝食の時間だったんだね、料理長には別のものを食べたっていって食べかけは返しておきますよ。それ全部飲んだらお腹も膨れるはずですからね」
「うあ~匂いもヤバイじゃないですか、死んでしまう~」
「じゃあ、シャナーに言うかい? 真実を知ったらあの子落ち込むだろうね、いや怒るかもしれないね。私は別にどっちでもいいけどね」
「…飲みます」
「いい子だね。じゃあお大事に」
それだけいうとサフェリアは食事のトレイを持って部屋を出て行った。
サフェリアはドアの外に立っていた護衛のアンドレアに、苦しむような声が漏れるけど薬を飲んでいるだけだから気にしないようにときちんと知らせた為、アンドレアに飲むのを止められることもなく、ましてや山のような仕事をこなしているラースやカミール達も殿下の様子を見に来る余裕もなく、ラファイルは一人寂しくベッドに横たえて一日が終わっていった。
そしてなぜかシャナはその日、ラファイルを再び見舞いにくることはなかった。
ラファイルはその日、長い時間をかけてサフェリアから手渡された液体を鼻をつまんで何度も吐き出しそうになりながら飲み切った。そしてベッドに倒れ込み、その日は本当に起き上がることができなかった。
文中にでてくるアレルギーに関する文面は空想上のもので現実においてまったく効果も原因も関係ありません。




