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元婚約者の来訪①

ジェルドの来訪騒動から二ケ月が過ぎようとしていた。

王宮領内には、トルシャベル王国王女の留学という形でルコッテ王女と夫であるジェルドとその娘マデリーヌの三人が滞在するようになっていた。


滞在期間は三年でその間にジェルドは貿易関係の仕事をすることになった。

三年後には三人でトルシャベル王国に移住することが決まったようだった。


国に戻ったブベルデン王がさっそくルコッテ王女が見つかったことを息子たちに報告すると、意外なことにルコッテの母親違いの兄たちもルコッテの所在がわかり元気だと知ると喜んでくれたのだ。


そして三年後、王女として家族で移住することには皆賛成の意向をしめした。


しかも娘がいると知ると、三年といわずすぐにでも戻ってこいと催促の手紙がくるほどであった。

兄たちは兄たちで、自分の母親に遠慮して何も態度には見せてはいなかったが、年の離れた妹の身は案じていたようだった。


つい先日も三人で訪れたトルシャベル王国では、王女の帰還に大いに群衆から歓迎された。


その中心的熱狂をさらっていったのは愛らしい笑顔のマデリーヌだった。

ルコッテの兄たちの子どもは全て男子らしく王家には女の子がいないらしく、皆に可愛がられたようだった。


それでも、ルコッテ王女が約束の期日まではファーマールズ王国に滞在することを変えなかったのは、ルコッテの薬学の勉強をしたいという意欲があったからのようだった。


シャナーと同様に薬の勉強に昔から興味があったルコッテにとって、その憧れの的であるサフェリア・オーバルその人の近くで直に学べるという環境はまさに願ったりかなったりだったようだった。


その為、サフェリアには弟子が更に増え、シャナーと同様毎日勉学に励んでいる様子だった。

その間マデリーヌはというと、子守役をビュランテ様がかってでてくれたようで、毎日、ビュランテ様から文字を書く練習や礼儀作法を楽しく学んでいる様子だった。

もちろん、ラースがより一層頻繁にビュランテ館に顔を出すようになったのはいうまでもなかった。



しかし、事件が起こったのはそれからしばらくたってからのことだった。

いつもの日課で今日の仕事をとりに王宮殿に行っていたはずのラースが慌てた様子でラファイル館に何も持たずに戻ってきた。


ちょうど、焼き菓子の差し入れを持ってきてお茶休憩を殿下と堪能していたシャナーの顔をみるなり顔を背け、ラファイルに近づくと耳元で何かを囁いた。

するとラファイルも驚いた顔で立ち上がった。


「なんだって、あいつが来ただと! どうして入国させたんだ!」


「無理ですよ、正式なコテンシャル王家からの王女の入国依頼書を持っていたんですから。

どうやら貿易交渉だと言っていたようですので、ジェルド殿が相手をなさってくださっていたようなのですが、陛下が殿下も至急来るようにとのご伝言です」


「無理! 僕は熱をだして寝込んでいるとでも言っておけ!」


「じゃあ見舞いにくるといいますよおそらく」


「それは嫌だ! じゃあ、今から視察にでるか!」


「抵抗しても無理ですよ、さっ早く支度して王宮殿に行きますよ」


「嫌だ~! あんな悪魔に会いたくない! お前あいつに僕が昔さんざん嫌がらせをされたのを忘れたわけじゃないだろ。僕は行かないからな!」

今にも立ち上がり走り出しそうな勢いのラファイルにラースが立ちはだかるように逃走経路をガードしていた。


「殿下? あいつってどなたのことなんですか?」


二人の会話を聞いていたシャナーが不思議そうな顔でたずねた。


「ああ、殿下の元婚約者ですよ。子どもの時期だけですが」

ラースがすんなり自白したことにラファイルが怒り出した。


「こっこらラース、余計なことを言うな!」

怒りだしたラファイルに対してラースは平然とした顔で言い返した。


「事実ではありませんか。それにどこで聞きつけたのかナテグリー様がシャナー嬢にも会いたいと言ってきていますよ。殿下を変えた婚約者候補だと言いふらしている女性と会ってみたいとね」


「はあ? そんなことさせるわけないだろ! あの悪魔が何をするかわからないじゃないか! それにシャナーは婚約者候補ではないぞ、正式な婚約者だ!」


「しかし、それは国外にはまだ知られていませんよ」

「じゃあいますぐ知らせればいいじゃないか!」


「すでにきてしまっているのだから効果はありませんよ。諦めて一緒にきてください。ハルイ国王からの命令だそうですよ」


「父上のやつ…自分で対処にこまったものだから僕に丸投げするつもりだろ。その手にはのらないぞ!」


「あの~殿下? 殿下って呪いでずっと女性アレルギーだったんですよね。それなのに婚約者なんかいたんですか?」


「あっああ、いたと言っても三年間ぐらいだけどな親が決めた許婚ってやつだ。だけど八歳で解消したけどな。女性に触れて発症したのはそれからだからな。もしかしたらあいつに原因の一端があるかもしれないな。さんざんいろいろ変な液体を浴びせられたからな」


「えっ? 殿下をやり込める女性の方がいたんですか? わあー! 私会ってみたいです。ねえ、今から私も行っていいんですかラース様」


シャナーは目を輝かせながらラースに詰め寄った。


「シャナーは絶対会わない方がいい。いいか必ず留守番しておくんだぞ」


ラファイルがしぶしぶ準備をしながらもシャナー同伴は全力で拒否の姿勢を示した。


「ええ~私も呼ばれているんですよね」


「シャナー嬢、嬉しそうに見えるのですが、嫉妬などという気持ちは沸き起こってこないのですか?」


ラースはシャナーの純粋にワクワクしている時の目で話しかけてくるシャナーに素朴な疑問をぶつけた。


「どうして嫉妬しないといけないんですか?」


首を傾げながらいうシャナーにラファイルが言った。


「シャナー、一つ質問していいか?」

「はい何でしょうか殿下」

「お前は僕の婚約者だよな」

「そうですよ。正式な発表はまだですけれど」

「じゃあ、僕のこと、その…すっ好きなんだよな」


「はい、大好きですよ。まあ、たまには仕事を真剣にしろよこのくそやろーなんて思ってしまうこともありますし、うっとうしくて蹴り飛ばしたくなる時ばかりですけど。多分好きですよ」

シャナーはラファイルに向かって笑顔で言い切った。


「シャナー嬢…それのどこが好きの部類に当てはまるのか教えてもらっていいかな」


ラファイルが青ざめた顔をして茫然としている中、ラースが代わって聞き返してきた。


「えっ? どこがって、そんなところですけど」


にっこり笑顔で返答するシャナーに隣で大人しく見ていたカミールが代わりにシャナーの恋心の解説を始めた。


「あの…これは僕の十七年間の間に導きだした答えですけど、シャナーの場合普通の人と少し感情っていいますか、ときめきポイントがずれているんですよ」


「ちょっとカミール! ずれてるってどういうことよ。私は殿下の事がすっごく大好きなんですからね」


「はいはい、それはみていてわかるよ。だから僕はシャナーが殿下の事を大好きなのは理解してるよ。ただ、普通の人がときめくポイントが違うだけだって言ってるんだよ」


シャナーには理解できない様子で膨れている。


「シャナーが僕を好きでいてくれるならなんでもいいさ」


ラファイルは深く考えないタイプのようだ。ラースはため息をついたがふと頭をよぎった。


「シャナー嬢ならもしかしたら、ナテグリー様にやり込められないかもしれないな」


ラースは目の前でイチャイチャしだした二人を見ながら小さな声で独り言のようにつぶやいた。





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