ブベルデン王の来訪②
応接室が一瞬緊迫した空気に包まれた。
ルコッテが父親であるトルシャベル国の国王ブベルデン王の姿をみた瞬間、ジェルドの背中に周り、ジェルドの後ろで震え出した。
「ルコッテ、ずいぶん探したぞ! いい加減わがままは辞めて国に戻りなさい。お前にふさわしい婿を探してあるのだぞ」
「嫌です。ルコッテ王女は死にました。ここにいるのはただのルコッテです。私には既に夫と子どももおりますから国には二度と戻りません」
「そんなわがままが通るとでも思っているのか!」
「あなたがわからずやのルコッテの父上か?」
ジェルドは娘のマデリーヌを片手で抱き、空いている手で、ルコッテの肩を抱き寄せ、目の前のブベルデン王に向かって睨みつけた。
「これジェルド! なんだいその失礼な態度は」
サフェリアはそういうと今にもルコッテを掴もうとにじり寄ってきていた怒りに顔が引きつらせているブベルデン王の前に割り込むように歩み寄り、一礼して言った。
「久しぶりだねブベルデン、この顔を忘れたかい?」
「サフェリア・オーバル…生きておられたのか。つまり…これは私に対する復讐というわけでしょうか?」
ブベルデン王は目の前に割り込んできたサフェリアを見た瞬間動きが止まった。
「フン、思い上がりもはなはだしいね。あんたのことなんかこの四十年すっかり記憶から削除していたよ」
サフェリアは小さく鼻で笑うと目の前のブベルデン王に視線を向けて言った。
「そうですかな。わたしはあなたに命を救われた。恩があるのは確かだ。だが私はあなたを裏切った男だ。恨まれてもしかたがない。だがその復讐がこれなら失望しましたよ。こともあろうにようやくできた娘をたぶらかした男があなたの息子だとはね」
ブベルデン王は娘から視線をサフェリアに向けると不気味な笑みを浮かべた。
「おや、聞き捨てならないね。私は何とも思っちゃいないよ。今も昔もね。あの時はただ仕事をしただけさ。まっ恨みっていうより、私はいい選択をしたと今でも思っているさ。復讐なんて微塵も思ったことはないね。それをいうならお前さんの場合因果応報ってやつなんじゃないのかい? 自分のことを棚に上げて笑っちゃうね」
サフェリアは笑顔で対応しているが目は真剣だった。
「ねえねえおばあ様、因果応報ってどういうことですか?」
シャナーがまた目を輝かせながら質問しだしたので、さすがのラファイルがシャナーの口を押さえて代わりに言った。
「そっそうだ。ラース、お前がブベルデン王をここに連れてきたってことは父上もご存じだってことだよな。いろいろ話があるだろうから、僕とシャナーは庭でマデリーヌちゃんと遊んでくるよ。なっシャナーもいいだろ。マデリーヌちゃん、お兄ちゃんたちと一緒にさっきいた犬と遊ばないかい?」
ラファイルはシャナーの口をふさぎながら言った。ジェルドはどうしたものかと返答に迷っている様子だった。
それをみたサフェリアはシャナーに向かって言った。
「そうだねシャナー、お前さん庭に行っておいで。今日はまだドリマーの散歩はしていないだろ? この庭なら広いから散歩するにはいいじゃないか」
シャナーはこの場にいたいと言い返そうとしたが、軽くため息をつくと頷いた。
「わかりました」
ラファイルはシャナーを放すとジェルドに近づき小声で言った。
「安心してください。あなたの宝物をブベルデン王に勝手に渡したりしませんから、余計なお世話かもしれませんが大人の話はこの子にはまだ難しんじゃないですか?」
ラファイルはマデリーヌも聞いているという前提でジェルドに囁いた。
「すみません。ではしばらく娘をお願いいたします」
そう言ってマデリーヌをラファイルに渡した。
意外にもマデリーヌは素直にラファイルに移動した。
「マデリーヌちゃんはお利巧さんだね。一緒に庭で遊ぼうか」
ラファイルがジェルドから受け取ったマデリーヌに笑顔でいうとマデリーヌが頷いた。
「マデリーヌ、パパとママは少し大切な話があるから、庭で遊んでいておくれ。話が終わったら行くからね」
「うん、ねえお兄ちゃん、さっきのワンちゃん、ボールを投げたら拾って来たりできる?」
「ああ、お利巧なんだよ。だけど、しっぽは握らないであげてくれるかい。ちぎれちゃったらかわいそうだからね」
「うん!」
マデリーヌはご機嫌で返事をした。
ラファイルはブベルデン王に頭をさげると、シャナーと共に応接室を出て行った。
「あれ? サフェリア様の護衛をしなくてもいいのかい?」
すぐ後からトリアもシャナーの後を追って応接室からでてきた。
「サフェリア様から目配せがありましたから」
トリアはそういうと彼らの後から二人の騎士もついてきているのを目で追いながら二人の後ろを歩き出した。
「なるほど、この子を誘拐されちゃ一大事だもんな」
そういうとラファイルは庭に向かって歩きだした。
一緒にでてきたシャナーだったがどこか不満そうだった。
「シャナーは可愛いな。君は隠し事が下手だね。心の思いが駄々洩れだよ。僕の可愛いお姫様」
「だって~、私も聞きたかったんですもの! 殿下は聞きたくないんですか? おばあ様と何があったのか!」
可愛く膨れているシャナーにラファイルが軽く頬にキスをした。
「後でいくらでも聞けるよきっと」
「殿下はいいんですか? 一応王子なんだし、ここはラース様より殿下が残るべきなんじゃなかったんですか?」
「僕が残ってもどう判断していいのかわかんないしね。父上がからんでいるっていう事は、僕が個人的な感情で突っ走っちゃ駄目なやつだろ」
「言われてみればそうかもしれませんね。私たちが同席していても、一番いい解決方法は多分見つけられないと思いますしね。よーし遊ぶぞー!」
シャナーは両手を広げて大きく伸びをした。
「ねえ、お姉ちゃまもお姫様なの?」
二人の会話を聞いていたマデリーヌがシャナーに向かって答えた。
「マデリーヌちゃんは正真正銘のお姫様ですけど、私は違うわ」
「ええ~、だってパパもいつもママに ‶チュッ” ってしながら僕のお姫様って言ってるよ」
「まあ、マデリーヌちゃんのパパとママは仲良しなんですね」
「うん!」
「パパは私にも僕のお姫様~ってよくいうけど、わたしはお姫様にはなりたくないの」
「あらどうして? お姫様になったら、おいしい食べ物もたくさん食べられるし、可愛いドレスもたくさん着れるわよ。お勉強だってたくさんできるし」
そういうシャナーにマデリーヌは首を横に振った。
「だって私、パパみたいに冒険をしたいんだもん。本当のお姫様になったら、お城の中からでられないでずっとお人形みたいにおりこうさんにしていないといけないんでしょ。私は走り回るほうが好き。それにね、これは内緒よ、ママねお料理全然できないの。だけど、パパはすごく上手なんだよ。私パパ大好き。パパと一緒だったら、可愛い服もいらないの」
「マデリーヌちゃんのパパはカッコイイもんね」
シャナーはマデリーヌに向かって笑顔で言った。
「うん、ママもいつも言ってるよ」
「そっか…よーし、じゃあお庭でドリマーとかけっこしようか。ドリマーは走るの速いんだよ」
「私だって負けないもん!」
そういうとマデリーヌは下におりたがり、自分の足で地面に立つと、隣に来ていたドリマーの頭を撫でながら言った。
「ドリマーっていうの?私と競争してくれる?」
「ワン!」
ドリマーはしっぽを振りながら答えた。
その後、ラファイルとシャナーはドリマーとマデリーヌと一緒に庭を走りまわり、やがて疲れて眠ってしまったマデリーヌを抱いて応接室に戻ると、こちらでも話は終わっていたのか、険悪な雰囲気は若干なごんでいるかのように見えた。
何より驚いたのはサフェリアとブベルデン王が椅子に腰かけて向かい合って親しそうに笑って雑談していたのだ。
ラファイルは眠ってしまったマデリーヌをジェルドに渡し、隣で何かの書類を作成しているラースとヴァルキリーに向かって小声で話しかけた。
「なんかさっきと状況が一変しているみたいなんだけど、どうなったんだ?」
不思議そうに尋ねるラファイルにラースが小声で言った。
「さすがの俺もこんな展開は予想できなかったよ。さすがサフェリア様だな」
わけがわからない二人に、作業を中断したヴァルキーが二人を手招きし、隣のヴァルキリーの書斎に案内した。
書斎に入ったヴァルキリーはラファイルとシャナーに応接室で起きた事の顚末を話し始めた。




