ブベルデン王の来訪①
応接室にはジェルドとその娘と妻だという女性もいたが、サフェリアは見ようともせず、すぐに帰ろうとするのをシャナーとラファイルが必死で引き留め、ようやく彼の今の現状と今後どうする予定なのかを聞くことになった。
「それで、その方とはどこで知り合ったのですか伯父様」
「紹介するよ、僕の妻のルコッテだ。彼女とはトルシャベルの港の密航船の中でであったんだ」
密航だと平然というジェルドにサフェリアの怒りも更にヒートアップした様子だった。
「トルシャベルといえば、ダイヤモンド鉱山で有名な国だね。そう言えば一度公式に訪問した事があった気がするな。あそこの王がすごい業突く張りのじじいで貿易交渉するのにあのラースが引きつっていたからな」
ラファイルが言うとヴァルキリーも同感だというかのように頷いた。
「ラベリー商会も同様だな。あそこから仕入れる商品は最高級品だが、価格が高すぎて滅多に仕入れられないんだが、需要も多いからかなり国政は潤っているんじゃないかな」
「それで伯父様はトルシャベルで何をしていたんですか?」
「俺か? あ~俺はだな、トランプの賭け勝負をして負けて奴隷商人に売られそうになって逃げ出して船に密航する為に乗り込んだら気が付いたらトルシャベルについていたってわけだ。そこで様子をみて、別の船に乗り込もうとしている時に、コイツが密航してきてね。水夫に見つかって役人に引き立てられそうになっていたんで、ついはずみで飛び出しちまってな。よくみたら女だしな、親に結婚を反対されてこの国にはいられねえ、俺が二人分死ぬ気で働くから次の国に行くまで船に乗せてくれって交渉したんだよ」
「それでそれで?」
シャナーは興味津々で聞き返した。
「そうしたら、駆け落ちかってなことで盛り上がっちまって。船長がこれまた感動しちまってな。なんてったってこの容姿だろ、どう見ても貴族令嬢に見えるからな。身分差の恋かってなって盛り上がっちまってそのまま次の国に運んでもらって、なんとなくいい仲になっちまったってわけよ。まいったぜ」
ジェルドは頭をかきながら言った。
「それなら、その国で幸せに仲睦まじく暮らしていればいいだろう」
頭をかきながらいうジェルドにサフェリアがすかさず言った。
「俺ものそのつもりだったんだよ。放浪から足を洗ってまっとうに生きてみるのもいいかなってな」
「そうしなかったのはどうしてだい?」
相変わらず睨みつけていたサフェリアがたずねた。
「それは」
どう返答すべきか答え兼ねている様子だった。
「それはわたくしが父から追われているからですわ」
一同がジェルドの隣にいる女性に注目した。
どうやら、ヴァルキリーも彼女が何者かはまだ知らない様子だった。
「ああ~! もしかして!」
そう叫んだのはラファイルだった。
「どうかしましたか? ラファイル様?」
隣にいたラファイルにシャナーがたずねると、ラファイルはジェルドの隣にいる女性をじっと見つめ答えた。
「君、もしかしてトルシャベル王国のルコッテ王女じゃないか?」
ラファイルの言葉でその場にいたサフェリア同様シャナーやヴァルキリーまでもが驚きの声を上げた。
「馬鹿だとは思っていたが、王女様に手をだしてしまったっていうのかい! よりにもよってブベルデン王の娘に しかも子どもまで…この馬鹿息子! はあ…頭が痛くなってきたよ。それでこの国に逃げてきたってわけかい?」
「他に思いつかなくてよ、なんとかロケリアにたどりついたと思ったら、屋敷も売られていて母さんは死んだっていうし、あの時は目の前が真っ白になったよ」
「よくここまで無事にたどり着いたもんだね」
「ああ、隣に住んでいたジャルマン爺さんにお金を借りたんだ。というわけで、後で返しておいてくれよ」
「お前というやつは…」
サフェリアが殴りかかしそうになるところをシャナーとトリアが必死で抑え込んだ。
「おっおばあ様、今は我慢してください。伯父様もお二人の身の安全を考えてのことだと思いますし」
「そうですよサフェリア様、とりあえず彼女の言い分を聞きましょうよ。なぜトルシャベルから他の国に密航しようとしていたのか?」
その言葉にもう一度座り直したサフェリアが今度は彼女に向き直りたずねた。
「正直に話してくれるかい? この行き当たりばったりのろくでなしの男のどこにほれて子どもまでつくったのか? それともいやいやなのか。ことと次第によったら手助けできることがあるかもしれないからね。トルシャベルの国王は知らない相手じゃないしね。ファーマールズ王国の王子もいる事だし、どうしてもどこかに逃げたいのなら逃がしてあげられるかもしれないよ」
そういうと突然、ジェルドに抱っこされていた娘のマデリーヌが叫んだ。
「パパは偉い人でしゅ。私のパパは世界一の冒険家なんだもの。それに私のばあばは世界一の薬師だってパパ言ってたもん。だからパパはすごいんだもん」
その言葉にジェルドが動揺していた。
「わかったから、もういいよマデリーヌ」
マデリーヌの頭を撫でながらジェルドがいうと、隣にいたルコッテが一歩前に歩みより頭をさげてから話し始めた。
「申し訳ありません。こちらにご迷惑がかかるのは重々承知しておりました。ですが、このままですと父に連れ戻されてしまいます。わたくしはあんな冷たい王宮になど戻りたくありません。私は飾り人形でしかありませんでした。国の為に政略結婚をさせられそうになって逃げたんです。私は自分の選んだ人と生きたかったんです。国の為には王族の義務として恋愛などというものは諦めなければならないと教えられ、頭ではわかっていたんです。でもどうしてもいやだったんです」
「だけどね…どうしてこの男なんだい? もっと若くていい男が国にもたくさんいただろうに」
「いえ、ジェルド様といると楽しいんです。今まで知らなかった世界を見ることができて、生きていると実感がもてたんです。でもどこにいても父はあきらめないでしょう。ですから、私がお願いしたんです。ジェルド様のお名前を聞いた時思い出したんです。お母様のサフェリア・オーバル様が昔、父の命の恩人だったということを、ですから父に彼のことを話せば許してくれるのではと手紙をだしたんです。そしたら、多くの騎士たちがやってきてすぐに別れて戻ってこいという手紙を見せられて、無理やりに国に連れ戻されそうになったんです。それで着の身着のままジェルド様と共に何とか逃げ出してここまできたんです」
「あんたの気持ちはわからないでもないが、王様の反応は当然の反応だろうね。私でも反対していただろうからね。だけど子どもまで作ってしまっているなら話は変わってくるさ」
「そうだね、僕もシャナー以外の人と結婚なんか命令されたら、国を捨ててると思うな」
「でも殿下、殿下は無理ですよきっと」
「シャナー何が無理なんだ。僕はやると言ったらやるぞ!」
「いえ、国外逃亡をしたとしても生きていけないと言ってるんですよ」
「シャナー、僕を馬鹿にしているのか?」
「いいえ現実を申し上げているだけですよ。大丈夫です。私頑張りますから。両陛下に認めていただけるような女性になれるように」
「シャナー」
二人が見つめだしたところで突然の来客者が訪れた。
その顔を見てルコッテ王女が青ざめていた。
サフェリアも同様に驚いている様子だった。
なんと突然の来客者はラースともう一人、いるはずのないトルシャベルの国王ブベルデン王その人だったのだ。
「ラースなんでお前がここにいるんだ!」
「それはこちらのセリフですよ殿下!」




