回し蹴りで和解?
シャナー達を乗せた馬車は王宮領内をでて、都に入り港にほど近い、ヴァルキリーとターナが住んでいるラベリー家の別邸に到着すると、門の前には使用人二人が立っており、サフェリアを含めラファイル王子も同行していると知ると、慌ただしく一人が屋敷内に到着の連絡を入れるべく屋敷の中に戻って行った。
玄関の前で馬車が待機していると、慌てた様子でヴァルキリーとターナが中から飛び出てきた。
「殿下までお越しくださったとは、お出迎えが遅くなり申し訳ありません」
「いや、僕はただシャナーの伯父上にご挨拶に来ただけだよ。シャナーの親戚にあたる人には一通り会っておきたいなと思っていたからな」
そう言ったラファイルに対してヴァルキリーは少々慌てた顔をした。
「いや、あの殿下、実はかなりヤバイ状況になっておりまして」
「なんだいヴァルキリー、あいつは人殺しでもやって逃げてきたのかい?」
ヴァルキリーの態度をみたサフェリアはラファイルの後から馬車にでてきてヴァルキリー向かって言った。
「おばあ様、それはさすがの伯父様でもないんじゃないですか?」
馬車をおりながらいうシャナーにヴァルキリーとターナは顔を見合わせた。
「えっマジで人殺しなのお兄様?」
「いや、人殺しじゃなくて誘拐だな」
シャナーの言葉に対してヴァルキリーがはっした言葉に四人は顔を見合わせた。
「はあ? 家出をしたまま行方をくらまして戻ってきたと思ったら誘拐とは…」
サフェリアが大きくため息をつきながらあきれ顔で言った。
「それなら私に連絡するまでもなく騎士団にでも突き出せばいいじゃないのかい、そしたら誘拐した人間の国に突き出すかしてくれるんじゃなのかい?」
「おばあ様、仮にもあなたの息子ですよ」
ヴァルキリーはあっけに取られて言ったが、サフェリアは平然としていたというより、予想していた通りの最悪の事態にあきれ返っていた。
「あのサフェリア様、実はそうもいかない事態でして」
ヴァルキリーの代わりにターナの真相を話そうとしたその時、聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。
「もしかして、母さんがきたのかヴァルキリー」
馬車の到着の音がして館のすぐ横の庭園から姿を現したのはサフェリアの息子のジェルドだった。
ジェルドはサフェリアを見つけると満面の笑みで両手を広げてサフェリアに近づいてきた。
ジェルドがサフェリアを抱擁しようとしたその瞬間、サフェリアはジェルドの頭を手のひらではたいた。
「お前って子はどれだけ親不幸したら気がすむんだい」
「なんだよ母さんいきなり、久しぶりの再会じゃないか」
「何が久しぶりだい? お前この国に来た時は既にリンドは病で寝込んでいたのをマリーから聞いていたんだろ、ここまで来ていてなんでロケリアに顔を出さなかったんだい」
「なんだそんな昔のことを言ってるのか」
「昔だって! ああそうだねほんの十年だね。お前さんが家出したのは二十年以上前だからね。そういや、貸した金はできたのかい? 十五年前戻ってきたと思ったら、金を貸せとか言って家の中の金貨を全部持ち逃げした泥棒が! 倍にして返してくれるんなら息子と認めてやるよ」
「母さん、そんな金とっくにあるわけないだろ」
「この親不孝者、金もないんだったら一生戻ってくるな。その方が清々するわ!」
「おっおばあ様、まあこんな外ではなんですから、中で話しましょう。さっ殿下もおはいりください」
そういうとヴァルキリーがサフェリアやラファイルを中に誘導しようとした。
その時サフェリアにトリアが近づき耳打ちした。
「申し訳ありません。やはり私は外でお待ちしております」
トリアはヴァルキリーの家にターナが一緒に住んでいることを知らなかったようだった。
「ああ、大丈夫だよ。ヴァルキリーにもターナにもお前さんを雇うことにしたことは伝えているから、馬鹿息子が何をしでかしたのか知らないけど、元プロのお前さんの意見も聞きたいしね一緒に来ておくれ」
「しかし…」
「じゃあこうしようじゃないか」
そういうなり、玄関の扉の前でみんなが入るのを待っていたターナの前に行くとサフェリアがターナに向かって言った。
「ターナ、実は最近入った私の弟子がね、あんたに謝罪したいって言ってるんだけど受け入れてくれるかい?」
「謝罪ですか?」
ターナは何のことを言っているのか見当もつかない様子で首を傾げたがずっとサフェリアの後ろに立っていてうつむいていたトリアの顔をみた瞬間全てを理解した様子だった。
「あっあなたは…そうですか、ヴァルキリーから新しくサフェリア様の弟子になられたというのはあなたでしたか。まさかとは思っていたのですが本当だったのですね」
「あっあのご両親の事、あなたのけがの事申し訳ありませんでした」
そう言って土下座したトリアにターナはトリアの肩にそっと手をあてて笑顔で話しかけた。
「頭をあげてください。もういいですよ」
「しかし…」
「私、ここにきて思ったんですよ。誰かを恨んでも大切な人は生き返らないし、誰かを恨み続けている自分が嫌になったんです。ですからもう恨むのを止めることにしたんです。あなたのことも、ビアンカ王女様の事も、だって私今とても幸せなのだから。ですからこれからは、サフェリア様とシャナー様のことよろしくお願いいたします。きっとシャナー様これからも立場上色んな人に狙われたり逆恨みされたりがあると思うんです。ですからどうか近くで守ってあげてくださいませ」
「・・・わかりました。私の命に代えてお守りすることを誓います」
「お願いしますね」
ターナはトリアを立ち上がらせようとしたその時、先に歩いて中に入っていたジェルドが引き返してきた。
「あんたターナさんだっけ、本当にそれでいいのか?」
「えっ?」
「ちょっとジェルド、余計な波風は立てないでおくれ」
サフェリアが止めに入ったがジェルドが構わすターナに話かけた。
「だってよ、親の仇なんだろ、もういいよなんて腹の底からなんか思えねえだろ。この人があんたに何したのか知らねえけどよ、けじめのつけ方ってのはある程度の痛みは必要なんじゃねえのか?」
「そうよね伯父様、私も同感だわ」
「これシャナーお前さんまで何を言うんだい」
「だって私ですら、最初にトリアさんが訪ねてきた時に頬を叩いてしまいましたもの。ターナお姉さまなら百発でも効かないぐらいのことされたもの。たとえ命令だったとしてもね」
「ターナ様、あなたの気がすむまで殴るなりさすなりしていただいて構いません」
そう言って自分の隠し持っているナイフを一つ差し出した。
「私は…」
「シャナーお前と一緒にするな」
ヴァルキリーも戻ってきてターナの肩に手をあてて言った。
すると、シャナーの隣にいたラファイルが二人に向かって言った。
「僕の意見を言わせてもらうなら、蹴りを一発ぐらいおみまいしてもいいと思うよ、今後の為にね。二度と会わないんだったらこのままでもいいだろうけど、そうもいかないだろうしね。僕もトリアのような裏のことを知り尽くしている女性がシャナーの側に仕えてくれると安心だから失いたくないしね。僕はシャナーの考えに賛成だよ」
ラファイルの言葉を聞いたターナはしばらく考えてから答えた。
「わかりました。亡くなった両親のために、トリア様お覚悟を、歯を食いしばってくださいませ。皆様少し離れてくださいませ」
そういうと、ターナはヴァルキリーから離れると、立って頭をさげているトリアと少し距離をとると、長いドレスの両すそを持ちあがると、勢いよくトリアの脇腹のあたりに回し蹴りをくらわせた。
「あらなんだかスッとしましたわ。トリアさん、これでおあいことしましょう」
そう言って笑顔でトリアに手を差し出した。トリアの目には涙が一滴こぼれていた。
「ありがとうございます」
そういうとだされたターナの手に自分の手を差し出した。
その様子をみていたラファイルがヴァルキリーの耳元で囁いた。
「ヴァルキリー、お前の奥方も怒らすとすごそうだな。あの回し蹴りはかなり痛いぞ」
「そうですね、気をつけますよ。しかしシャナーも負けてはいませんよ。シャンーの方が執念深いですからね、殿下も気を付けたほうがいいですよ」
「気をつけるよ」
「さあさあ、もう気がすんだろ、本題にはいろうじゃないか」
サフェリアがそう言おうとした時、一緒に馬車からおりたはずのドリマーの姿が見えないことにシャナーが気が付いた。
「ドリマー行くよ」
シャナーが声をかけた瞬間、離れた所でキャンっというドリマーの鳴き声が聞こえた。
シャナーは鳴き声のした馬車とは離れた庭園の方角に視線をむけると、そこには三歳ぐらいの小さな女の子が立っていて、ドリマーのしっぽをしっかり握っていたのだ。
さすがのドリマーも幼い子どもだということで噛みつかずもがいて何とか離れようとしている様子だった。
シャナーが声をかけようとすると女の子は突然ドリマーのしっぽを放すと目を輝かせながら、まっさきにジェルドに向かってかけていき、ジェルドに向かって言った。
「パパ、ターナお姉ちゃますご~い。私も大きくなったらあんなことできるかな」
「マデリ―ヌ、あれは必殺技だからね、よほどのことがないとしちゃいけないんだよ」
「うんわかった。パパがママ以外の女の人にウインクしていたらパパのお腹にしてあげる」
「こりゃまいったな。パパはそんなことしないぞ」
茫然としている四人に向かってジェルドはその幼い女の子を抱き上げると笑顔で言った。
「俺の娘だ。もうすぐ四歳になる」
「はあ? 娘だってぇ~!」
サフェリアの叫び声が空高く辺りに響いた。




