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悪魔って・・・ジェルド伯父様のこと?

その知らせは突然もたらされた。


「シャナー、今いい?」


珍しく午前中にカミールが手紙を持ってサフェリア館にやってきた。ちょうど庭に出ていたシャナーが出迎えた。


「あらカミール午前中に来るなんて珍しいわね」


「うん、今殿下は朝食中だから、今のうちにと思ってね。さっき急ぎの手紙が届いたんだけど、ジェルド伯父様が訪ねてきたって書いていたから、緊急事態なのかもしれないと思ってね。シャナーだったら、母上の裏手紙の読み方知っているかなと思って」


「お母さまの裏手紙の読み方? 知っているけれど、どうしてあなたに書く手紙にそんな面倒なことするのかしら、何かトラブルでも起きたのかしら」


「さあわからないけど。無事僕の所に届かないで、別の人に読まれたくなかったんじゃないかな」


カミールはそう言いながら手紙をシャナーに見せた。


「ジェルド伯父様ってお母様のお兄様の名前よね、私一度会ったことあるけど、それがどうかしたのかしら? 私もう亡くなっているのだと思ってたわ」


「僕は覚えてないんだよね」


「仕方ないわよ。あなた小さい頃は病気ばっかりして熱ばかりだしてたんだから、記憶もあいまいでしょ」


シャナーが来た手紙に目を通すと、別段怪しい内容は書かれていなかった。

ありふれた内容で元気にしているかだとか普段の両親の生活の様子などが書かれているだけだった。

だけどその手紙に仕込まれている裏手紙、つまり手紙の文章の中の文字に他人が分からないように細工をして伝えたい相手にだけ重要な文章を伝えるラベリー家独特の方法だった。そこには短く警告文が書かれていた。


『ジェルドの悪だくみに巻き込まれないようにしなさい。あの子は危険よ!』


「悪だくみってどういう意味なんだろうね」


「う~ん、でもいつもお母様の勘ってよく当たるからシャナー気をつけなよ。きっとこれシャナーにもいっている手紙だと思うんだ」


「あらどうして? 宛名はあなた宛てになってるじゃない」


「ここ見てよ僕宛のはずなのに、僕の名前の後結構空いてるだろ。これシャナーにも言ってるんだよ」


「そう…でもそう言えば、ジェルド伯父様が前に来た時、カミールを勝手に外に連れだそうとして、カミールと間違って私を連れだして、お母様と大喧嘩したのよね」


「そうだったかな?」


「そうよ、途中で私の方だって知ったんだけど、結局一日遊んで館に戻ったらすごい騒ぎになってて、お母様と伯父様大喧嘩したんだから、その後すぐまた旅にでちゃったみたいだけど、お母様そのあとすごいあなたにべったりだったんだから、伯父様に誘拐されるって言って」


「そうだっけ、なんかごめんシャナーばかり僕の代わりさせちゃって」


「いいよ。あなたの命の方が大切じゃない。私なんだかんだ言って運いい方だから、何とかなってるし。でももしかして、伯父様またあなたのこと何かしようと戻ってきたのかしら?」


「それは困るよ、僕はこの国を出るつもりはないしね。今の仕事楽しいし」


「そうよ、カミールに辞められるとラファイルが困るしね。わかったわ、私が何とかするわ。おばあ様の所にも朝一番にお兄様から手紙が来ていたみたいだから、おばあ様にそれとなく聞いてみるわ」


「頼んだよ」


カミールはそういうとすぐに館に戻って行った。

シャナーは手にしている手紙を読み返して嫌な予感にさいなまれていた。

シャナーはさっそくその手紙を懐に入れてサフェリアの元に行った。

サフェリアは珍しく温室にいた。


「おばあ様」


シャナーが声をかけるとちょうど手紙を読んでいるところだったようだ。

顔を上げてシャナー一人だと確認すると大きくため息をついてみせた。


「悪魔が戻ってきたっていう最悪の知らせだよ」


「悪魔って…もしかしてジェルド伯父様のこと? お母様からもカミール宛に今朝手紙が届いたって見せに来てくれたわ」


「そうかい、先にあの子の所に行ったんだね」


「でも、おじい様が亡くなられた時もどこにいるのか連絡がつかなかったんですよね。まだ生きてらしたんですか? 私てっきり亡くなっているのだとばかり…」


「死んだも同然だよ。冒険がしたいとか言って家を飛び出したきり何年も連絡一つよこさず世界中を放浪している馬鹿息子なんだからね。たまに戻ってくれば金の無心か、この前来た時は病弱なカミールを強引に連れ出そうとしたしね」


「カミールってある意味すごいよね。人気者で私を欲しいなんて言ってくれる人いないのに」


「おや、一人いるじゃないか。貪欲までにお前さんを求める所有欲の塊がね」

サフェリアは孫の顔をモゾ着込みながらニヤリとした顔で言った。


「あっ、おばあ様は殿下の事を言っているんですか? 殿下はまた別ですよ。私がいいたいのは…まあいいですけど、それにしてもおばあ様、私も一度昔会っただけですけど、そんなに悪い人には見えなかった記憶があるんですけど、なんていうか純粋に自分の思いに忠実に生きている人なんだと思うんですよね。私を間違って連れ出した時だって、ごめんって謝ってくれたし、許されることじゃないと思うけど」


「ああ、あの子は小さい頃から何を考えているか理解できない子だったしね。自分の欲望の為だけに生きてるんだよ。ずっと姿を消していてくれたらいいものを、また何を企んでいるのやら、金の無心なら相手にするなってヴァルキリーにきつく言ってやらなきゃね」


「カミールの誘拐じゃないですよね。お金に困っているのなら少しぐらい出してあげてもいいんじゃない、ロケリアの屋敷を手放したお金そのまま残してあるんでしょ」


「そうだけどね。まあ、いい歳になったカミールを無理やり連れだすなんて馬鹿な考えはないと思うけどね、ただの里帰りじゃない事は確かだろうね。私を探して何を企んでいるのやら」


「でも伯父様はおばあ様が今ここにいる事を知っているのですか?」


「さあね、どうせロケリアに久々に戻ったら、屋敷が無くなっていたもんだから、ラベリー家に行ったんだろうね。ヒューダにもマリーにも一応ジェルドが来ても私の居場所を知らせるなといっているけどね。大体の事情を知っているヴァルキリーがこうも慌てた様子の伝言を届けに来たってことは何かよほどの問題を持ち込んだのかもしれないね。ちょっと面倒だけど会いに行ってみようかと思っているところなんだよ、だから今日は一日留守にするよ」


「えっ? ここに呼ばないんですか?」

「呼ぶわけないだろ。私の安住の地を荒らされてたまるもんかい」

「あの…おばあ様、私もついて行っちゃ駄目?」


「やめた方がいいと思うけどね、根掘り葉掘り殿下のこと聞かれるよ。それにお前を何かに悪用されかねないしね」


「聞かれて困ること私まだ何も知らないから大丈夫よ、それに伯父様がもしまだカミールを狙っているなら止めるように言いたいし」


「なんだいやけに積極的だね。カミールは今回は関係ないみたいだよ。それよりもお前さんの今の立場の方が面倒になるかもしれないよ。お前さんがしゃしゃり出てくるとついてくる人物がいるからね」


「そうだよ、僕という婚約者がいるのに他の男に会いたいなんて容認できないな」


シャナーは驚いて振り向くと温室の入り口にはいつの間にかラファイルが立っていた。

その後ろにカミールも立っていた。


「殿下! 朝食中ではなかったんですか?」


「もう食べたよ。それに今日は午前中はラースがいないから仕事はないしね。カミールがこっちに行くのが見えたから問いただしたんだ」


「ごめん、見られていたみたいで」


カミールは頭をかきながら言った。


「本当ですか?」


「シャナー、僕はいつだって本当のことしか言っていないじゃないか。さっき父上からラースだけ呼び出しがあったんだよ」


「ラース様に? それで殿下は呼ばれなかったんですか?」

「ああ、僕は全くあてにされていないみたいだな。あははは」


「笑い事ではありませんよ。悔しくないんですか? 頼りにされていないことに対して怒りはわかないんですか?」


「何も、いったところで実際問題僕に対処できることなんてないだろうしね。それで誰に会いに行く話をしていたんだい?」


「はあ…」

「シャナー、お前も大変だね」


サフェリアはシャナーの肩に手を置くと、先に部屋を出て行ってしまった。


「おばあ様!」


「安心おし、行くのは午後からだよ。そうだね、殿下も一緒に行くかい? 私の馬鹿息子が久しぶりに姿を現したみたいでね、会いにいくんだけど、どうせあの馬鹿のことだから都に既にいるならシャナーと殿下のことは調べてるんだろうしね。直接あってもめごとにまきこむなってくぎを刺した方がいいかもしれないからね」


「サフェリア様には息子さんがいらしたのですか?」


さすがのラファイルも驚いた顔をしていた。


「ああ、十五歳で家出したっきり十年に一度ぐらいの頻度しか戻ってこない馬鹿息子だけどね一人いるんだよ」


「おや、それはご挨拶しておかないといけないな。ぜひご同行いたしますよ」


「そうかい、じゃあ頼んだよ。私はちと自分の部屋にこもるからね、昼食の用意ができたら呼びに来ておくれ、食べたら出発するから。手紙には都のヴァルキリーの屋敷にいるらしいから夜には戻れると思うけど、そのつもりで周りには言っておいておくれ」


サフェリアはそういうと、部屋を出て行ってしまった。



その後昼食を食べた二人はラファイルの用意した馬車で共に出かけて行った。

カミールも誘ったが留守番をかって出た。


「どうして? 伯父様に会えるの次はいつになるか分からないんだよカミール」


「そっそうなんだけど、ラースさんが急ぎの仕事とか持って戻ってきたら一人で大変だろ、殿下が出かけたことを知らせる人間もいるしね。伯父さんによろしく言っといてよ。僕が行っても伯父様の役にたてそうなこともないしね」


「わかった。僕が代わりにきちんとお前の有能ぶりを話しておくよ。お前は僕にとってなくてはならない重要な人間だってことをね。じゃあラースによろしくな」


「はい、気を付けていってらっしゃいませ」


そういうと、カミールはラファイルに向かって一礼した。

今回はラースがいない為すんなりシャナーと外出できることにご機嫌のラファイルは頷いた。


「ちなみに…やはりお前も来るのかトリア?」


当然の事のように馬車に最後に乗り込んできたトリアに向かって言った。


「私はサフェリア様の護衛に行くのです。都は何が起きるかわかりませんから、騎士の護衛がつくとはいえここの騎士たちは信用できませんから」

「ワン!」


「お前がいうと説得力があるな。まあいいか、ドリマー、お前も当然のことのようについてくるんだな。まっシャナーは僕が守るから安心していいぞ」


いつの間にか足元に乗り込んで顔を見上げているドリマーにも向かってラファイルはいったが、右手はシャナーの肩にまわしていた。


「まあ殿下、それは逆です。殿下に何か不審者が近づきそうになったら私が盾になりますから、みてください。短剣もほらここに仕込んできたんです」


そういうとシャナーが突然、ドレスの裾をめくりあげて太ももに装着されていたナイフを仕込んだホルスターを見せた。

ラファイルは真っ赤になって言葉がでてこないようだった。


「これシャナー、結婚前の女が男の前でドレスをまくり上げるなどはしたない」

シャナーの目の前に座っていたサフェリアが言った。


「あっごめんなさい」


シャナーは慌ててドレスの裾をもとに戻した。


「シャナー様、そんなドレスではナイフを取り出す前にやられてしまいますよ。まあ、牢屋に閉じ込められた後でなら何か役にたてそうですけど、ご安心ください、いざとなればシャナー様もお守りいたしますから」


そう言って、どこにしまっていたのか、すぐにトリアの指に五本の細いナイフがでてきた。


「ありがとう。トリアがいれば安心だね。ねっラファイル様」


「そっそうだな、よろしく頼むよ」


「私は殿下をお守りするのは不本意ですが、お二人の今の生活を維持するのに必要なのであるのは明白なので、仕方ありませんね。三人まとめてお任せくださいませ」


少し引き気味言ったラファイルに対してトリアは小さくため息をついた。

ラファイルは顔を引きつらせたが、敵にするには厄介な人物だが、彼女は完全に今は味方のようなので何かある時は大丈夫だろうと思うラファイルだった。


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