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じゃあ乾杯といこうじゃないか

「勘違いされては困るな。僕はお前たちに選択肢をやろうって提案をしてやっているんだ。お願いをしているわけじゃない」


ラファイルは目の前の地下牢にいれられているシャナー誘拐犯の囚人二人に向かって話しかけていた。


囚人二人は顔を背けて返事をしなかった。


「まっ僕はどっちでもいいんだけどね。このまま死刑になるのを選ぶもよし、お金を手に入れて一芝居うって国外追放になるもよし」


「私に雇い主を裏切れって言っているのかい?」


「お前は元々裏稼業が専門なんだろ? 簡単じゃないのか? 僕の宝物に怖い思いをさせたお前なんか死刑にした方がいいって言っているんだけどね。僕の宝物が可哀そうだって言ってきかないんだよね」


「フン!あんな男女に同情されたんじゃ、私も落ちぶれたもんだね」


‶ガッシャーン″


その言葉を聞いた瞬間ラファイルの足が鉄格子を蹴りつけた。


「言葉に気を付けた方がいいぞ」


冷淡に言い放つラファイルをすぐ後ろで見ていた護衛の騎士たちは背筋が寒くなるのを感じた。

ラファイルはおそらく本心を言っているのだろうと。

優しいだけでは一国の王にはなれないのだ。時には冷酷にならなければいけない時もある。


「難しいことは言っていないだろう。ロケリアに戻ったら、カミール・ラベリーが地下牢で凍死してしまったので証拠隠滅をしてきましたって言ってくれればいいんだよ。あっそれと、ラファイル王子は秘密裏に既にシャナー・ラベリーと婚姻しておりましたって付け加えておいてくれ」


「そんなでたらめ調べればすぐわかるだろ!」


「そうだよなあ。僕もそう言ったんだけどね、僕のシャナーがいうんだよ、ビアンカ王女みたいな性格の人には嫌われて相手にされなくなる方法しかないっていうんだよ。だけど、僕みたいに完璧な人間には難しいだろ。だから少し事実を曲げて報告してやったらあきらめるんじゃないかと思ってね。カミールは僕にとっては仕事を代わりにしてくれる有能な世話係なんでね、取られると困るしね。シャナーとは近いうちに婚礼の儀式をする予定だから問題ないしね」


「はあ?」

「何か言ったか?」

「・・・」


「まっとにかく、囁いてほしいんだよ。ビアンカ王女ともあろう人が、誰かのお古として輿入れする屈辱を味わってでもファーマールズ王国に嫁ぎたいのですかってね。まっ、父上の側室を狙っていたみたいだから、それも全然気にしないんだろうけど、立場的にどうかなってね。誰かのお古なんかでいいのかってね。簡単なことだろ。お前たちがいくらもらったのかしらないけど、うまくビアンカ王女に囁いてくれさえすれば、前金で五千ファーマル金貨、成功報酬で後五千ファーマル金貨をやろうじゃないか、その金でどこの国に行こうと自由だよ」


「一億ファーマル金貨だって!」


「そうだよ、僕の一年間の小遣いがパーだよ、だけどまっこれがうまく言ったら、僕と本当に結婚してくれるっていうしさ、安いもんだよ。まっ一晩ゆっくり考えるといいよ。もうすぐ仲間があの館に戻ってくるんだろ、仲間がここに合流してから結論を出してくれたらいいから」


ラファイルはそういうと、騎士たちを引き連れて地下牢を出て行った。


「どうするんですか姉さん」


ラファイルが去ってから何も発せずずっと考え込んでいたトリアだったが、ようやく決心したのか突然笑い出した。


「あっはははは。参ったねぇ…この私も年貢の納め時がきたってことかねえ」

「姉さん、じゃあ」


「金を貰ってとんずらするに決まってんだろ。私はビアンカ王女に忠誠なんか誓っていないからね」


「ですが嘘だとばれたら」

「その時はその時さっ、どうせここにいても死ぬんならね」

「たかが、ガキを一人誘拐しただけで死罪なんて聞いたことがねえですぜ」


「お前が間違わなければね。私たちはあの王子の地雷を踏んじまったんだよ。あの目はマジな目だったしね、ここにはサフェリア・オーバルがいるんだ、彼女の孫を誘拐したんだからね、彼女を本気で怒らせてるしね、当然私らはここで死刑になる前に餓死か毒殺されかねないだろうね」


「はあ…雪さえ降らなかったら、今頃酒屋でたらふく酒でも飲んでたんだろうけどな」

「フン、過去をグチグチいったところで状況は何も変わりゃあしないさ」


トリアはそう言って備え付けの冷たいベッドに横になると薄暗い天井を見上げた。


「よくわかっているじゃないか、さすがロケリアの馬鹿王女の後始末屋を長年引き受けてきた侍女だけの事はあるね」


二人が振り向くと鉄格子の前には噂をしていたサフェリア・オーバル本人と、孫娘の誘拐した本人のシャナー・ラベリーが立っていた。

どうやら騎士たちはいないようだった。


「今回は孫娘が世話になったようだね」


笑顔の裏にある不気味さで、さすがのトリアもベッドの上から起き上がり二人をみた。


「なっなんの用だい、私らを毒殺しにきたのかい」


トリアはシャナーが両手で抱えるように持っている大きな瓶に視線を向けながら言った。


「おかしなことをいうねえ、王宮内部の地下牢に毒を堂々と持って入ってきたりしやしないよ。するなら無味無臭の奴を食べ物にたらしてやるさ」

「じゃあそいつはなんだい?」


トリアはシャナーが持っている瓶を指さして言った。


「ああ、これかい、これは礼だよ。シャナーがどうしてもお礼がしたいっていうもんだからね」

「礼だって? あんた頭おかしいんじゃないのかい?」


トリアに言葉を聞いてサフェリアが笑い出した。


「はっははは、確かにね、私もそう言ったんだよ」


そういうサフェリアに向かってシャナーが真面目な顔で反論した。


「いいえおばあ様、私は正常です。だって、総合的にみて、今回の事件は我が家にとって幸せをもたらしてくれたんだからお礼をいうのは当然だと思うわ。ちょっと殿下は私のいうことを聞いてくださらなかったからこんな所に入っていただくことになってしまったけど」


「あれを説得するのは無理だね。ラースが言うように提案を飲む方が得策だろうね」


「でも、そうすると、この人たちに危険がおよぶじゃないですか」

「お前ねぇ、お前を誘拐したんだよこいつらは!」

「わかってるわ。だけど私は無事だったし、それに…ああとにかくまずは私お礼をいいたかったのよ。あの、私を誘拐してくださってありがとうございました。今回の事件のおかげで、お兄様のあんな笑顔久しぶりにみました」


シャナーはそういうと大きく頭をさげた。


「はあ? あんた頭大丈夫かい? 私はあんたを誘拐しようとした人間だよ、ロケリアに連れて行っていたら、あんたビアンカ王女に何されていたかわからないんだよ。変な毒の開発をさせていたみたいだしね」


「そうだったんですね。よかったあ助かって! でも、それはそれとしてですね。私が怖かった体験とお兄様の笑顔を天秤にかけたらやっぱり、お兄様の笑顔の方が重かったんですよ。だからお礼にと思って、おばあ様特製のお酒を持ってきたんですよ」


「まっまさか酒だとか言って私らを毒殺しようってのかい?」


トリアの質問に答えたのはサフェリアだった。


「まさか、わざわざ自分の手を汚して毒殺なんかしなくてもこのままここにいたら死刑になるってのにそんな無駄な事は私はしない主義でね」


「だけど、恨みがあるんだろ? ラベリー家の長男の婚約者の家を破産に追い込んだのだって私だしね。すぐにでも殺したいと思うんじゃないのかい?」


「私はね、過ぎたことをほり返して恨み節をいう趣味はないし、自分が良けりゃあそれでいいって人間なんだよ。今好きな研究をし放題でね、最高に幸せだから結果オーライさ。ターナの両親のことは危険を察知できなかったあの人らにも落ち度があったんだよ。だけど、ターナの事はまだ未成年だったしね可哀そうでね。ずっと行方不明のままだったから気になっていたんだよ」


「ターナ…もしかして、あの時港にいた」


トリアは今になってようやく、シャナーを誘拐しようとした時に一緒にいたみすぼらしいいで立ちの女の事を思い出した。


「そうなんです。彼女だったんです。あなた方が私を誘拐してくれたおかげでターナが私の危険を知らせに王宮に知らせに行ってくれて、お兄様はターナに会うことができたんです。あの時じゃなかったら全てうまくいかなかったんです。幸いターナもおばあ様の毒消し薬のおかげでケガだけで済んだし、もうあの嬉しそうなお兄様の顔を見たら、恨みなんてすっとんじゃったわ」


「それりゃあよかったよ。私も最後にいい事が出来て死んでいけるってもんだ。よし、私はトリア・ビナンシー、飲んでやろうじゃないか!」


トリアはそういうとベッドから立ち上がると鉄格子の前までくると、その場に胡坐をかいて座ると右手を鉄格子の中から突き出した。


「あっ姉さん! 止めた方がいいぜ、王子の提案をのめば俺達自由になれるんだ! 何も今ここで死ぬ選択をしなくても」


「うるさいね! 私はね、いつだって命はって生きてるんだ! 色んな奴を貶めてきたけどね、こういう生き方しかできなかったんだ。私は今飲みたいんだよ。それで死ぬんだったら本望だね」


「いい心がけだね。よし、私のとっておきの美酒を飲ませてやろうじゃないか」


トリアはそういうと、手に持っていたかごの中から、グラスを二つ取り出すと、シャナーにその酒を注がせ、酒が注がれた一つのグラスを鉄格子の間越しに手渡した。


「じゃあ乾杯といこうじゃないか、これからの未来に」


「フン、私にゃあ未来なんかないけどね、じゃあ地獄に乾杯だな」


そう言ってトリアはその酒を受け取ると一気にその酒を飲み干した。



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