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僕が好きなのはシャナーだけだ!

再び意識が戻るとシャナーは温かい清潔な毛布にくるまれており、しっかりとラファイルの膝に上に抱きかかえられていた。

驚いて起き上がろうともがくがラファイルの腕はびくともしなかった。


「ラッラファイル様、あっあの…」

「気が付いたかいシャナー、痛い所はないかい?」

「えっはっはい大丈夫みたいです」

「そうか、よかった」


ラファイルはそういうとシャナーをそっと起こし自分の隣に座らせた。

だが、ラファイルはシャナーを自分の肩に寄りかかるようにしながら心配そうにシャナーの顔をのぞき込んできた。

シャナーは顔を赤らめながら、自分は助かったんだと胸をなでおろしていた。

その瞬間頭にドリマーのことが横切った。


「あっドリマーは?」

「ああ、そこに寝てるぞ、さっき餌をがっついたら寝ちまったみたいだ」


ラファイルはシャナーとは反対側の自分の足元で寝ているドリマーに視線をおとして言った。


「よかった」


「こいつはたいした犬だぞ、雪の中来た道を覚えていて、僕を呼びにきたんだからな」


「ドリマー疲れたでしょうね。私を追いかけてきて私を見つけてくれたんだものね。帰ったらご褒美あげなきゃ」


「今はいらないと思うよ。さっき高級肉をたらふく食べたばかりだからな」


「そうなの?」


「うん、おばあ様が持っていけって持たせてくれたんだ。今回の一番の功労者だからね」


シャナーの目の前に座っていたカミールが気持ちよさげに寝ているドリマーを見ながら言った。


「だけど、たいした犬だよ。ちょうど捜索していた騎士たちが都の外れで、馬車の上に黒い小さな犬がのっている馬車を見かけたっていう目撃者を見つけていたから、シャナーが誘拐されたかもしれないという可能性も浮上していたんだ。捜索はかなり難航しそうだったんだけどな、こいつのおかげで、すんなり見つけることができたんだ」


「ドリマーも無事でよかったわ。あの殿下、城に戻る前に立ち寄りたい場所があるんですけど」


シャナーはもう一つ気がかりなことがあった。

おそらく自分のせいでケガをしたターナのことが気になっていたのだ。


「どこにいきたいんだ? お前の兄だったらサフェリア館にいるぞ」

「いえ港なんですけど、人を探したいんです。私のせいでケガをしているはずなんです」


シャナーは真剣な顔で言った。


「ターナのことを言っているなら大丈夫だよシャナー」


ラファイルの代わりに答えたのは目の前に座っていたカミールだった。


「カミールどうしてターナの事を知っているの?」


「ターナがシャナーが誘拐されたって知らせに来てくれたんだよ。門で倒れてしまったから、今はおばあ様の館でヴァルキリー兄さんが看病しているよ。かなり出血があったみたいだけど、安静にしていたら大丈夫だって医師が言っていたよ。少し栄養失調気味だったから、兄さんが今後は付きっきりで看病するんじゃないかな」


「そう…よかった、本当によかったわ」


「シャナー! よかったじゃないよ。もう少しで君は凍死するかもしれなかったんだぞ。シャナーを見つけた時氷みたいに冷たかったんだから、だいたい僕に相談もしないで都にいくからそうなるんだよ。シャナーの側を離れた騎士たちも責任は重大だから減俸だな」


「そんなこと止めてください殿下。あの時、私が勝手な行動をとったのがいけないのですから」


「だけどね、事実君は誘拐されたんだから、これからは今までのように気軽に出歩くことは禁止だよ。君は自分が思っているほど強くないんだからな。シャナーにもしものことがあったら僕の心臓がもたないよ。今回も誘拐されたって聞いた時は心臓がえぐり取られるんじゃないかって思ったんだからな」


「ごめんなさい」


ラファイルはもう一度シャナーを自分に引き寄せた。


「ラファイル様」


二人が見つめあっている瞬間に咳払いが響いた。


「おほん、二人きりでいちゃつきたいのはわかりますが、シャナー嬢、今のうちに少々確認をさせてもらってもよろしいでしょうか?」


そう、この馬車にはカミール以外にもう一人別の人間が乗り込んでいた。


「あっすみません」


シャナーが座り直し斜め目の前の人物に向き直ろうとすると、ラファイルが静止した。


「おいラース、犯人は確保したんだし今すぐしなくてもいいだろ。シャナーは疲れているんだし」


「ですが事が重大ですし、早急に対策を講じなければ」

「私は大丈夫です」


ラースは頷くと質問を始めた。


「まず最初に、ターナさんが証言していたのですが、犯人の目的はカミールでまちがいないですか?」


「はい、私も確かに聞きました」

「それで犯人の目的は何なのか聞きましたか?」


「いえ、それは何も、馬車の中では私の他はロケリア国のビアンカ王女の侍女をしていた人によく似た女の人と男の人が一人いましたけど、何も会話をしていなかったので、吹雪のせいで目的地に行けないからアジトにひとまず変更するとか話していた気がしますけど」


「馬車の中に男もいたのですか?」

「はい、港で私を襲ってきたのは男二人組でしたから」


「すると、もう一人いたことになるのか…殿下、もしかしたら、今回の主犯には報告しに行っている人間がいるかもしれませんね。あの館には二人しかいなかったですし」


「そうだな。まあいいじゃないか。シャナーを無事取り戻せた事だし、あの侍女が口を割るとは思えないが、何を企んでカミールを誘拐しようとしたのかしらないが、僕なら金輪際ロケリア国とは取引しないしね」


「殿下、証拠がない以上一方的に外交を中止させるのはいい案とはいえませんよ。戦争にでもなると治安が悪化しますし、得策ではありませんよ。シャナー嬢との婚姻はまだ正式に諸外国には発表していないのですから。ラベリー商会とロケリア国の取引上のいざこざで片付けられればそれでおしまいですよ」


「彼女なら平気でとぼけるだろうな。僕が国王になったらそんな奴とは絶対取引はしないけどな」


「そんな大きな態度をとれるような器になってくれることを願っていますよ殿下」

「まさせろ!」


「あの殿下、私…殿下にお願いがあるんです」

「なんだ? 僕にできることならなんでも聞いてやるぞ」


「私、今回自分がどんなに無力なのかということを思い知ったんです。犯人が誰なのかわかっても私にはどうすることもできません。今回は私だったからよかったものの、もし誘拐されたのがカミール本人だったら、あの寒い地下牢でカミールが閉じ込められていたらあぶなかったかもしれないし、お父様に続いてカミールまで危険が及んでくると、保養所にいるお母様の身にも危険が及ぶかもしれませんし、お兄様やラベリー商会の皆様の身の安全も危険にさらされるのであれば、私は今の生活を考えなおした方がいいんじゃないかと思うんです。あのもし、殿下と私の婚約が原因ならですけれど。あのような人には何を言っても無駄なような気がしますし…姿を消すしか方法はない気がするんです」


「ちょっと待て! それは何か? 僕との婚約を止めると言っているのか?」


「最悪そうなるかもしれません。私は家族の誰かを犠牲にしてまで自分一人が幸せになろうとは思いません。悔しいけど…家族やラベリー商会の人たちが犠牲になるかもしれないなら私…」


シャナーがそう言った瞬間、ラファイルが急に険しい顔つきになって叫んだ。


「僕が好きなのはシャナーだけだ! 僕はシャナーと結婚できないなら誰ともしない。ましてやビアンカなんかと何が起きても結婚したりするもんか! 僕はそんなに頼りにならないか?」


「でも殿下、戦争とかになったら大変だし」

「でもじゃない!」


悲しみに似た怒りのような表情のラファイルがシャナーを見つめた。


「そうですね。このままというわけにはいきませんね。幸い、明日も雪が降りそうですし、犯人がカミール・ラベリーを目的地に運ぶのは当分できなさそうだしね。作戦を立てるのにはまだ時間はたっぷりありますよ」


ラースが突然考え込むようにつぶやいた。


「作戦?」


シャナーがいぶかしげにラースを見ると、ラースは珍しく微笑み返した。そしてラースも笑顔を返していた。


「シャナー、僕はもうそんなにやわじゃないよ。それに、お母さまなら大丈夫だよ。お父様がけがをしたとわかって、シャナーがラベリー家にきた翌日戻ってきたんだよ。シャナーには言うなっていっていたけどね。今はラベリー家で父さんと仲良く過ごしているんだよ。それにあれからずっと騎士の人たちも数人住み込みで護衛してくれているみたいだしね。兄さんは船の上だったし、ラベリー商会の船乗りはタフで普通の人間より強いから大丈夫だよ。一番気を付けないといけなかったのはシャナーだったんだよ」


「もしかして殿下が…」


シャナーは驚いてラファイルを見た。


「当たり前だろ、君の家族はもう僕の家族も同然なんだから。だから僕の元から去るなんか考えちゃ駄目だよ。君がいなくなったら僕は公務なんかしないで君を捜す旅にでるからな」


「殿下、それはおやめくださいね。今日の分の公務だって貯まっているんですからね、戻ったら仕事ですよ」


「はあ? 今日ぐらいいいじゃないか。せっかくシャナーを無事連れ戻せたんだし、疲れたし」

「駄目ですよ」

「鬼かお前は!」


抗議するラファイルにラースはそっぽを向いてしまった。

シャナーはそんな二人のやり取りを見て噴出した。


「あっははは、殿下、私も殿下以外の人となんか結婚は嫌です!」


シャナーはラファイルに飛びつくと、ラファイルの頬にキスをした。

ラファイルは真っ赤になってギュッとシャナーを抱きしめた。


その時馬車が大きく揺れて、眠っていたドリマーが目を覚まし、シャナーが目覚めているのをしると、ラファイルが抱きしめているその間めがけて飛び込んで二人の間に割り込むと、シャナーの顔をペロペ舐めだした。


「くすぐったいわドリマー!」

シャナーをのせた馬車は雪が舞う中、王宮領内へと戻って行った。


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