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ラファイル様を連れてきて!

誘拐されたシャナーは馬車の中で体を縛られ足元に転がされたまま、どこに向かっているのか全く分かっていなかった。

ただ馬車に打ち付けてくる雪の音と馬車の音だけを聞いていた。


「おい、降りろ!」


突然馬車が止まり扉が開いた。

男がシャナーを立たせるとナイフを突きつけて馬車から降りるように促した。

シャナーは大人しく従うことにした。

体が縄で縛られ、口も布でふさがれていた為叫んで助けを呼ぶこともできそうになかった。

シャナーが外に出ると、外は吹雪がふき荒れていて視界はほぼゼロにちかかった。


「まったく、どうして私がこんな目に合わないといけないのかねえ、今頃は城で寝ているはずなのにまったくお前たちのドジのせいで私までこんな所まで来る羽目になるんじゃないか」


一緒に馬車の中に乗っていたトリアはブツブツ文句を言いながら降りてきた。


「仕方ないじゃないっすか、俺達顔を知らねえんですから。あんな絵姿だけじゃわからねえですよ。大体ああいうもんは美化して書いてるのがほとんどだっていうじゃねえですか」


「あれはよくかけているって教えてあげただろ? まっ今回は私が出てきたから成功できたけどね」

「すいやせん姉さん」


犯人たちの会話を聞きながらシャナーは辺りを見渡したが、既に暗くなっていたのと吹雪でここがどこなのかわからなかった。

しかし都から離れ郊外であることだけは確かだった。

シャナーは馬車から降りるとそのまま家の中に連れていかれ、地下室のようなところに入れられた。


そこは天井付近に空気とり用に小さな鉄格子の柵のようなものがあるようで、そこから冷たい冷気と共に雪が吹き込んできて身も凍えるようだった。

コートを着ているとはいえかなりの寒さだった。

ろうそくもない真っ暗な中シャナーは体力温存の為に壁にもたれうずくまった。


<ターナ大丈夫かしら、ああ…神様どうかターナが無事でありますように〉

シャナーは神に祈った。そしてしばらく誘拐されてからの事を考え始めた。


〈そういえばあの女の人、ビアンカ王女にいつもついて来ていた側近の人に似ていた気がするんだよね。ということはビアンカ王女がからんでいるってことだよね。私をカミールだと間違っているみたいだけど、今度は何を企んでいるんだろう。だけど、もしカミールが今日出かけていたら、こんなとこに一晩も閉じ込められていたらカミールの心臓がもたないよね。私もヤバイかも>


シャナーはそんなことを考えながらなるべく寝ないようにいろんな事を考えながら震えながら寒さに耐えていた。


シャナーを誘拐した男二人は館に入るとすぐにシャナーを地下牢に入れた後姿を消して監視する気がないようなので、シャナーはなんとか体をよじりながら縄をほどこうと心みたが、どうしても縄は外すことができなかった。

だが、口に巻かれていた布を何度も噛んだり壁に顔を付けているうちに、少し緩みなんとかは外すことができた。

もうかなり遅い時間のはずだ。

どれだけここに閉じ込められていたのかわからなかったが、体の感覚が次第に麻痺してきているのが感じられた。


「はあ…しゃべることができても一人じゃ縄をほどくこともできないなあ…ここはどこなんだろう。どうしよう」


シャナーはそう独り言をいいながらふき込んでくる雪を見上げていると、風の音にまざって小さな鳴き声が聞こえてきた。


「ワンワンワン!」


その鳴き声は次第に大きくなっていった。


「ドリマーなの?」


外のどこかに通じている地下牢の高い位置の小さな空気穴から、黒い何かがうごめく気配があった。


「ドリマー! あなた私を追いかけてきてくれていたの?」

「ワン!」


ドリマーは何とか鉄格子を噛み切ろうとは歯を立てて鉄格子にかみついている音が聞こえた。


「やめなさいドリマー! あなたの歯が折れちゃうわ。それよりお願い、ラファイル様をここに連れてきて! できる?」


シャナーの声が理解したのか、必死で鉄格子を噛んでいたのをピタリと止めると、ドリマーの姿が消えてしまった。


「お願い、ドリマー…ああ神様、ドリマーが無事殿下の所にたどりつけますように。雪を降らせないで」


吹き込んでくる雪と風に凍えながらシャナーは祈りを続けた。



その頃、シャナーを誘拐した三人は、館の中の暖炉をつけた温かい部屋の一室にいた。


「くそーなんでこんなに寒いんだよー」

「お前がもたもたしてるから吹雪になってロケリアに戻れなくなっちまったんだろ」

「なんだよ俺のせいだってのか? こんな吹雪になるなんて思わねえじゃねえか!」


「喧嘩はおやめ! 言い争いをしても状況は変わらないんだよ、ここの鍵を持ってきておいて正解だったね。予定が変更になったってあんた達のどちらかがビアンカ様に報告に行っておくれ」


トリアは腕組みしながらイライラしたように部屋の中を動き回った。


「はあ? 姉さん正気でいってんのか? この吹雪の中、整備された道を通るのならまだしも、この先は山だぜ、あの峠を行けっていうのか?」


「はあ? 歩いてならいけない事はないだろ。今回は私が出張ってきているんだからね。雪が降ったからって失敗しましたなんて思われたくないんだよ。到着が遅れるって知らせてくれればいいから、この雪が落ち着くまで待たないといけなくなっちまったんだから。まったくこれだから馬車はいやなんだよ。出発は明日の昼過ぎにならないと無理だろ。崖から落ちてあの世行きなんてなりたくないからね。今から行ってもお前一人ならお昼までには戻ってこれるだろ」


「はあ? 鬼か! 寝る時間ねえじゃねえか! 計画は成功してるんだから、いちいち報告に行かなくてもいいだろ! それによ、もし追っ手がきたらどうするんですかい? あの時の女が城にチクってるかもしれねえだろ」


「心配症だねぇ。あの女に刺したナイフには毒が仕込んであったんだろ。今頃死んでるさ。たかが城に仕えている召使が一人いなくなったってあんなみすぼらしい女が城にいいに行った所で真に受けて捜索するとも思えないしね。あんた一人がいてもいなくても一緒だよ。いいからお行き!」


睨みつけるように言い放つトリアに男は何も反論できず頭をさげて出て行った。


「まったくどいつもこいつも役立たずだね。私なら確実に心臓を狙ってたけどね」


窓の雪を見ながら不気味な笑みを浮かべるトリアだった。


「じゃあ、俺は先に寝させてもらうぜ」


もう一人があくびをしながら部屋を出て行こうとした時、トリアは振り向きもせず男に言い放った。


「寝る前に大切な商品が生きてるか確認してきなよ。この雪で死なれちゃ私の沽券にかかわるからね」


「へいへい、しかし、あの王女様もたいした極悪人だと思っていたけど、姉さんほどの比じゃないね」


「おや、褒め言葉として受け取っておいてやるよ。私も出世しただろ。今じゃロケリア国の王女の側近だからね。きれいごとだけじゃ成り上がっていけないのさ。お貴族様や王家の人間を相手にする時は裏も表も信用第一だからね。これ以上失敗は許されないんだからね」


「へいへい、しかし姉さん、なんであの一家に固執するんだい姫さんは」


「知るもんかい、変なプライドってやつなんじゃないのかい。王族ってのは私らの影の人間の苦労もしらないで、欲しいものはなんでも手に入るって思ってるんじゃないのかい。目障りな人間も容赦なく葬り去れと命令するしね。まっ私らは大金がはいればなんだってするけどね」


「その通りだ。ところで姉さんはいつまでロケリアの王女さんの侍女をやるつもりなんだい? そろそろ別の国にいかねえのかい?」


「そうだねえ、ビアンカ様は頭が切れるし気前がいいからね、あの国の王族をやってるうちは続けるさ」


「なるほどね。じゃあ俺は寝させてもらうぜ、ここの地下牢じゃあ監視もいらねえだろ」


「そうだね、私も寝るとするよ」


そうして夜がふけていき、やがて犯人が寝入った頃、雪は止み、雪が少し積もった都に通じる真っ直ぐな道に小さな犬の足跡が延々と続いていた。




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