シャナーを助けにいくぞ!
ターナ再び意識が戻ったのは温かいベッドの上だった。
そこには、忘れたくても忘れられない人物がいた。
「ターナ、大丈夫か!」
ターナはボーっとする意識が急に鮮明になって、必死で起き上がると叫んだ。
「シャナーがシャナーが大変なの。早く早く助けてあげて」
「シャナーならきっと丈夫だ、今城の騎士団が探してくれているから。シャナーは大丈夫だから、君が無事でよかった。探したんだぞ」
そう言って彼はターナに近づくと自分に引き寄せた
「ヴァルキリー…ここはどこ?」
ヴァルキリーが答えるより先に、同じ部屋にいたカカミールが先に答えた。
「ターナ久しぶりだね。ここは王宮領内にある今はサフェリアおばあ様が仕事で使っている館の中だよ。兄上、殿下に報告に行ってきます」
カミールは椅子から立ち上がると急いで部屋を飛び出して行った。
「王宮領内…じゃあ、シャナーのこと…」
「大丈夫だ、君がシャナーが誘拐されたことを知らせに来てくれたおかげで、誘拐されたことが分かって、騎士団の人達が捜索してくれている」
「よかった…でもどうしてあなたがここに?」
「おばあ様宛の積み荷があって急遽今日ファーマールズに立ち寄ることになったんだ。港で待ち合わせをしていたんだが予定より港に着くのが遅れてしまって、直接城に届けにきたらシャナーが行方不明になってるってさわぎになっていたから、しばらくここで待機していたんだ。城門で血塗れの女性が譫言を言ってるっていうんで殿下と一緒に行ったら君が倒れていたから心臓が止まるかと思ったよ。こんな傷でこの雪の中を歩くなんてもう少しで死ぬところだったんだぞ」
「私の命なんか、もうどうなってもいいの…私さえあの時シャナーをみて路地に逃げ込まなければシャナーは誘拐されずにすんだのに、あの時も私さえいなければお父様やお母さまも死ぬこともなかったのに、全部私のせいで、ああ私さえいなければ」
そう言ってターナは震えだした。
「君のせいでなんかあるもんか、君は悪くない。君を守り切れなかった僕が未熟だったからだ。大丈夫だ、シャナーは運が強いやつだから絶対無事戻ってくるさ」
ヴァルキリーはターナの側に腰をおろすと彼女の背中を何度も優しくさすりながら囁いた。その時扉をノックする音が聞こえた。
「意識が戻ったって聞いたんだが、少し話を聞かせてもらえないかな」
部屋に入って来たのはラファイルとラースだった。
「ターナ嬢、あなたがうわごとでおっしゃっていましたロケリアという言葉はどういう意味なのでしょうか? あなたのその怪我とシャナーの行方不明の関係性を聞かせていただきたいのだが」
「大丈夫か?」
まだ震えが止まらないターナを易しく抱き寄せながらたずねるヴァルキリーにターナは弱々しく頷いた。
「では、シャナー嬢とはどこであったのですか?」
ラファイルの代わりに後ろにいたラースが質問しだした。
「港です。私はあそこで夕方まで造花を売っているんです。そこにシャナーが声をかけてくれたんです。シャナーは王子様と婚約したって都で噂になっているのを聞いていたので、私のような者が知り合いだなんて知られたらシャナーに迷惑がかかると思って逃げたんです。でもシャナーが追いかけてきて、路地裏に来た時に、黒ずくめの男たち二人が突然現れて、短剣を突き付けてきたんです。男たちはシャナーの事をカミール・ラベリーだなって言ってました」
「シャナー・ラベリーではなく、カミール・ラベリーだと言ったのですか?」
「はい、シャナーはカミールの格好をしていましたから間違えたのだと思います」
「あなたは間違わなかったのですか?」
「声が違いますから」
「なるほど、それで?」
「それで逃げようとしたんですが、運悪く私の肩に男の持っていたナイフが刺さってしまい、私が動けなくなってしまったので、逃げられなくなってしまってシャナーが捕まってしまったんです。申し訳ありません。私のせいなんです。シャナー一人だったら逃げられたかもしれないのに」
ターナはそういうと泣き出してしまった。
「君が悪いんじゃない、いずれにしても奴らはカミールを誘拐する機会をうかがっていただろうからな。だけど、カミールを誘拐してどうするつもりなのか」
ヴァルキリーはターナをなだめるように言った。すると今度はラースが質問してきた。
「そういえば君はシャナー嬢の名前とロケリアと門の騎士に言ったそうですが、どうしてだか思い当たるふしがありますか?」
「私見たんです。背中を男たちにナイフを刺された時に目の前にいた女性を」
「女性?」
「はい、あの…あの人はロケリア国でいつもビアンカ王女と一緒にいた人でした」
「それは見間違いではありませんか?」
ラースが険しい顔つきでたずねた。
「間違いありません。いつもサフェリア様のお館にビアンカ王女様のお供で来ていた侍女の人でした。忘れたくても忘れません。あの人のあの冷たい顔、お父様を破産に追い込んだばかりかロケリアからの追放宣告書を持ってきて私に向かって笑ったあの顔は忘れません」
「わかった。話してくれてありがとう。邪魔をして悪かったな。ゆっくり休むといい、シャナーは必ず見つけて救出するから」
ラファイルはそういうと部屋を出て行こうとして不意に立ち止まりターナに向かってたずねた。
「そういえば、シャナーが連れていかれた場所に黒くて耳の部分が白い小さな犬はいなかったか?」
「いました。あの犬は確か…男たちに足蹴りされていましたが何度もシャナーを助けようとしていました。だけど馬車に連れ込まれそうになった時、自分からは向かうのを止めて、どこか建物の影に隠れてしまったんです。その後どこへいったのか、私すぐ少し意識を失ってしまったのでわかりません」
「そうか、ありがとう」
ラファイルはそれだけいうと、ラースと共に部屋をでた。
「ラースどう思う?」
「そうですね、まだ幼犬とはいえ、あのドリマーが簡単にシャナーの危機に自分の保身の為に隠れるとは思えませんね」
「そうだよな」
それからしばらくの間は騎士団からは何の連絡も入ってこなかった。
深夜になり雪は止むどころか吹雪のようになって捜索は難航しているのか、なんの手がかりも入ってこなかった。
「くそ!」
ラファイルは机を思いっきりたたいていまいましい雪を睨みつけた。
その時、館の中に一人の騎士が飛び込んできた。
「殿下! 大変です。ドリマーが戻ってきました!」
「何? それでドリマーは?」
「ワン!ワン!」
それと同時にドリマーがラファイルめがけて飛び込んできてラファイルに向かって唸り始めた。
「ヴゥーワン! ワン!」
ドリマーはラファイルのズボンを噛むとまるでついてこいと言わんばかりに放そうとしなかった。
「お前、シャナーの居場所を知っているのか?」
ラファイルはしゃがみ込むと、ドリマーに向かって言った。
ドリマーはついてこい!というかのように、また扉に向かってかけだした。
「よしラース、馬を用意させろ」
ラファイルがそういう前にラースは部屋をとびだしていた。
「僕も行きます」
「カミールお前は無理だ、外は雪だぞ」
「大丈夫です。殿下の後を馬車に乗って後でついていきますから、シャナーが見つかった後にけがをしていたら応急処置ができる人間も必要でしょ。馬車に必要なものは積み込んでいますから」
「そうか、じゃあ後からついてこい!」
「はい!」
ラファイルはコートを掴むと走りだした。その後をカミールも追った。
玄関にはサフェリアが立っていた。
「殿下、シャナーをよろしくお願いいたします」
サフェリアは頭をさげた。
「おまかせください。必ずシャナーを連れ戻して戻りますよ。疲労回復の薬を調合してお待ちになっていてください」
ラファイルは笑顔をサフェリアに向けると用意された馬にまたがり帽子を目深にかぶり、顔には雪除けの大きなマフラーを巻き付けた。
ラースのコートの前からドリマーの顔が覗かせていた。
そのドリマーにラファイルがまるで会話しているかのようにしゃべっていた。
そしてその言葉を理解しているかのようにドリマーが返事を返していた。




