邪魔者は誰だ?
翌日、呪い屋ビシュアは王宮殿に招待され朝食を食べた後、ラファイル館ほど程徹底的ではないが、舞踏会を開いた大広間や王と王妃の部屋を中心に彼女を案内し、ここからもかなりの数の呪い札や呪いの置物が出てきた。
その全てを集め昨日した呪い返しをし、夕刻ビシュアは三着の衣装をもらい受けご機嫌で自分の家へと帰って行った。
ここはロケリア国、王城のビアンカ・アシュア王女の職務室。
ビアンカ王女は早朝から仕事をこなしながら書類に目を通していた。
「ビアンカ様! 大変でございます」
「どうしたの?」
ビアンカは書類に目を通しながら、青い顔をして入ってきた黒いフードを羽織った初老の男に向かって言った。
「実は、呪いをかけておりました呪い札全てが燃え尽きてしまっておりました」
「燃え尽きた? どういうことか説明しなさい」
「はい、恐らくファーマールズ王宮殿に仕掛けてきた呪いを全て燃やされてしまったようです」
「つまり、全部バレたっていいたいの?」
「こちらの札が全て燃えるということは、呪い屋によって呪い返しされたかと」
「どいつもこいつも役立たずばかりね。ラベリーの家長の暗殺にも失敗するし、トリアはいる?」
「はい、ここにおります」
開け放たれた部屋の扉の前に侍女のトリアが立っていた。
「至急、この間の殺し屋を呼んでちょうだい」
ビアンカ王女は机の引き出しから、金貨がたくさん詰まった袋を取り出すと机の上にのせ、トリアを自分の前まで手招きし小声で囁いた。
「ビアンカ様、殺し屋を呼んでどうなさるおつもりなのですか?」
「呪いは全て駄目になったのなら、ちんたら待つのを止めにするのよ。王と王妃の中を裂いて呪いが持続すれば世継ぎがラファイル王子一人のまま、そのラファイル王子に嫁げばファーマールズ王国を操ることができるというのに、忌々しいラベリー一族が私の邪魔をするなんて許さないわ。王子自身に掛けられていた呪いは全く効いていないみたいだしね。こうなったら実力行使しかないわね。サフェリア・オーバルも生きていたらしいし、このわたくしをコケにしてこのままですまさないわ。トリアいいこと、確かラベリー家には次男がいたわよね。体が弱い」
「はい、報告書によりますと、現在はラファイル王子の世話係として同じ館に住んでいるようです」
「そう、王宮内部で誘拐は難しいでしょうから都にでた時を狙いなさい。確か、ラファイル王子とその婚約者だとかいう小娘の似顔絵があったわよね。次男とそん女は双子だったはずだから同じ顔だからすぐわかるわ。いい事、殺すんじゃないわよ。生け捕りにするのよ」
「かしこまりました」
トリアはその金貨の入った袋を受け取るとビアンカ王女に一礼して部屋を出ていってしまった。
「あのビアンカ様、もう新しい呪い札はよろしいのでしょうか?」
「簡単に見つけられる呪い札はもうよいわ。それよりも、薬の研究はどうなの?」
「はい、後少しでございます」
「早く完成させなさい。わたくしの奴隷に喜んでなる媚薬をね」
ビアンカは不気味な笑みを浮かべた。
ビアンカ王女がラファイル王子獲得の画策をしている頃、当人はというと、幸せ真っ只中にいた。
「シャナー、どうして僕らは散歩しているんだ?」
「殿下、健康維持には毎日の積み重ねの運動が大切なんですよ」
「もう運動しなくても大丈夫なんじゃないか? ドリマーもそう思うだろう。僕から邪がでないんだったら僕を散歩に連れ出す必要性もないだろ?」
「ワン!」
もうお前が来る必要はないぞとでも言うかのように、シャナーの側によりシャナーの足元にまとわりついた。
「ほら、ドリマーもそうだって言ってるよ。温室の内装も完成するんだろう? あそこで僕が運びこませたベンチで話でもしようよ」
「殿下! そんなことだからリバウンドするんですよ。最近少しお腹周りにお肉ついてきていますよ。ドリマーも頑張って殿下を引っ張ってあげて、帰ったら少しだけ地下室に貯まった毒だし草の邪を食べさせてあげるから」
「ワン!」
ドリマーは嬉しそうに尻尾を振りながら、勢いよくラファイルを引っ張り始めた。
「毒だし草なんかあるのか?」
「おばあ様に聞いたら、地下室で育てている草が放つ陰の胞子も人間が放つ邪と似ているんですって、だからドリマーに食べさせてあげたらいいんじゃないかって。今まで鉢とか花壇を踏み荒らされちゃいけないと思って温室にいれていなかったんだけど、昨日の朝、ビシュアさんに見てもらったらよく似ているって教えてもらったから、試しに入れてみたら地下室に入った途端大喜びだったのよ」
「コイツは入った後は地下室って何か変わるのか?」
「見た目にはわからないですけど、よどんだ空気が浄化されている気がしたんです」
「そうか…まあコイツも植物もいいならいいづくしだな。だけど僕にもご褒美がほしいな」
「ご褒美ですか? 殿下は何をなさったのですか?」
「ええ~二日間頑張ったじゃないか!」
ラファイルが膨れている顔をみてシャナーは小さく笑った。
「何がおかしいんだ?」
「いえ何も、そうですね、殿下にしては頑張ってくれましたよね。じゃあ、朝食が終わったら一緒に図書館の整理をやりませんか? 楽しいですよ。実は図書室の中の本棚を移動したらその奥に扉があって、その中からたくさんの植物に関する秘蔵書がたくさんでてきたんですよ。片づける暇がなかったんで、図書室の本はそのまま図書室に積みあがったままなんですよね」
「どっどうして僕が今日もしないといけないんだ? 明日からまた公務があるんだぞ、ゆっくりできるのは今日だけなんだぞ、今日ぐらい一緒にゆっくりしたっていいんじゃないか?」
「でも殿下…私は本に囲まれている方が好きですし、今朝もすでにラースさんはじめ皆さん片づけを開始しているみたいですし、図書室は私の担当なんですよね。殿下が手伝って下さるなら助かるんですけど」
「図書室の担当は他にいないのか?」
「いいえ、私が暇をみてゆっくり片づけるつもりで私からもうしでたんですよ。ラースさんも慌てる必要もないっていってくださってますから。以前は整理整頓されていなかったので、この際、本を分類ごとに仕分けようかと思っているんです。カミールも時間ができたら手伝ってくれるっていってたけど、今日は忙しいみたいだから今日は私一人の予定なんです」
「…邪魔者はいないのか」
ラファイルはブツブツ独り言を言った。
「何かおっしゃいましたか?」
「なんでもないよ、わかった。じゃあ、朝食を食べたら図書室に行くよ」
「ありがとうございます殿下」
シャナーはそういうとラファイルがドリマーの首輪に繋がっている紐を持っていない側の腕に自分の腕をからませて並んで歩き始めた。
ラファイルは顔を赤らめてしばらく無言になった。
当のシャナーも同様に…。




