呪い屋ビシュア③
ビシュアをのせた馬車は都を通り抜け、城門へと戻ってきた。
「なんだかドキドキするねえ、こんな格好でよかったのかい」
自分の着ている派手なドレスを気にしながらビシュアは言った。
「大丈夫ですわ。そのドレス素敵ですもの」
「おやサフェリア、この国の王妃様とは気が合いそうだね」
「調子にのるんじゃないよ。お前さん自分の歳を考えたら恥ずかしくないのかい?」
「何言ってるんだい、この歳になったからこそ派手なドレスで自分自身を引き締めているんじゃないのか」
ビシュアは隣に座っているサフェリアに向かって言い返した。
するとキャサリーヌ妃がビシュアにむかって言った。
「ビシュア様のおっしゃる通りですわ。そういえばサフェリア様、あの館にはルーテン様のドレスがそのままあるでしょう。あのドレスはわたくしが譲り受けたものなんです。陛下には処分してもいいって言われていたんですけれど、ドレスには何も罪はないものね。どうしたらいいのか決めかねていたのよ。あなたが着て下さればルーテン様もお喜びになると思いますわ」
「そうは言ってもねえ、私には派手過ぎてね」
「そうなんですね、わたくしではサイズが合わないのだけれど、どなたにでもお譲りするわけにはまいりませんし。強制はできませんね」
キャサリーヌ妃は大げさにため息をついて見せた。
「あっあの…もっもしかして、ルーテン様というのは先の国王陛下の奥方様のことですよね。ということは元王妃様が着ておられたドレスってことですかい? なんてもったいないことをいってるんだいサフェリア。そんなチャンスを断るなんて!」
二人の話を聞いていたビシュアが隣に座っているサフェリアの耳に小声で言った。。
その言葉を聞いたサフェリアが何か閃いたのか目の前のキャサリーヌ妃に視線をちらりと向けてからビシュアに向かって言った。
「そうだよ、せっかく王宮内に入ったんだから、ルーテン様のドレスを先に見に来るかい。先に王宮殿に行ってもし、陛下の機嫌を損なってしまったらすぐに追い出されてしまうかもしれないし、ねえ王妃様」
「えっ、そっそうね…その方がいいかもしれないわ。わたくし陛下には何も告げずにビシュア様をおつれしてしまったのですから。先に参りますか?」
「えっいいんですか?」
「ええ、もうルーテン様はいらっしゃいませんから一着ぐらい無くなっても誰も何もいいませんわ」
「そっそんなこと…えらいになってきたぞ…」
ビシュアの顔がニヤケ顔になってブツブツ言いだしたのをサフェリアとキャサリーヌ妃はにんまりとした顔で頷き合った。
その後、馬車はラファイル館の前に到着した。
「ここかい? 何やらすごい荷物が外にでているようだけど」
「いいえ、この館の隣なのだけれど、隣に行く前に息子の館の呪い札が他にもないかみていただきたいのです」
「私をだましたのかい?」
「とんでもない、今、他にも呪い札がないか全て探そうとしているんです。ビシュア様、どうか専門知識のあるあなたの目で呪い関係のしろものが他にどのようなものがあるのかわたくし共に教えていただけませんか、ただとは申しません。ええ、ルーテン様のドレスを好きなだけお持ち帰りいただいてもかまいませんから」
「そんなことを約束してもいいのかい? 全部というかもしれないよ」
「ルーテン様のドレスは全てわたくしに頂いたもの。ルーテン様のお子様は陛下のみですので、男の陛下にはドレスなど全く興味はございませんしね。どうですそれでは足りませんか?」
「全てのドレスかい? そんなにたくさんもらっても置く場所がないしね。二・三着で十分だよ」
「ビシュア、じゃあこうしたらいいじゃないか、気に入ったドレスを三着持って帰って、別のドレスが着たくなったら、いつでも私を訪ねてきたらいいじゃないか」
「そうですわ、わたくしから門番に伝えておきますわよ」
「いっいつでも出入り自由? それは損をするじゃないか」
「ビシュア、お前さん、どこまで業突く張りなんだい」
「ばかいうんじゃないよ、損をするのはお前さんらの方じゃないか」
ビシュアはそういうとニヤリとした。
「ふん、話は決まった。じゃあ、とっとと済まして私のドレスを見に行こうかね」
ビシュアはそういうと馬車から降り、ラファイル館の玄関前に降り立った。
ちょうどその時シャナーが大きな本を数冊両手に抱えて外に出てきていた。
サフェリアとキャサリン王妃の姿をみたシャナーが駆け寄った。
カミールが既にきていた。シャナーは別の知らない女性がいる事を見かけて頭をさげた。
「カミール、シャナー、こいつは私の古い知り合いの呪い屋ビシュアだ、この館に密かに置かれた呪い札の類を見つけてくれるそうだ」
「ああ、お前さんらがサフェリアの孫かい? 確かに若い頃のサフェリアに似ているね。サフェリアより数倍可愛いけどね」
「ビシュア様、よくぞお越しくださいました」
カミールとシャナーはそれぞれビシュアに挨拶をしていると、呪い屋が来たと報告を受け、館の中にいたラファイルが館からかけてきてビシュアに近づいた。
「ようこそおいでくだされた。我らでは呪い札とやらは全てを見つけるのが不可能ですので、どうかお力添えをお願いいたします」
ラファイルがそういうとビシュアは軽く会釈した。
その後、ビシュアが呪いがかけられていると指摘した物を一ヵ所に集めるとゆうに百を超えていた。
「まあ、良くも悪くもこんなにたくさん集まったもんだね」
「しかし、これは一階部分だけです。本日は一階部分しかできませんが明日以降の二階部分も含めますとさらに数が増えるかと」
ラースがそういうとビシュアはあきれて言った。
「王族って稼業も大変だね」
目の前の呪いがかかっているとビシュアが指摘した物には様々な物があった。
一件すると普通の本や置物壁掛けや布などあった。
しかしビシュア曰く、見た目にはわからないように呪いの呪文や絵を刻む方法が世界にはたくさんあるらしかった。
「本当にすごい数ね、こんなにあるなんて…そうだわ。ここにこれだけあるということは、王宮殿にもあるのかしら?」
キャサリーヌ妃が目の前に大量に積まれた呪いがかかった物の山を見ながら呟くと、サフェリアがさらりと言ってのけた。
「ここに比べて舞踏会やら国の要人なんかも数多いし出入りも多いからね」
「そう」
「あのビシュア様? これらの呪いがかかったものというのはどのくらいの間効力を維持しているのですか?」
「目的を達成するまでってのもあるし、自然に効力を無くすものもあるし、まっ色々だね」
ビシュアは集まった呪いのかかった物の山に持ってきていた鞄の中から聖水と何か粉のような物をまくと呪文を唱え始めた。すると青白い炎が立ちのぼりその後真っ赤な火が空高く舞い上がった。
「王妃様」
キャサリーヌ王妃はその光景を目の当たりにして何かを考えていたのかすぐに返事を返せずにいた。すぐ後ろに立っていたマーグがキャサリーヌ妃に耳打ちした。
「キャサリーヌ様!」
「えっ、あっビシュア様、何かしら?」
「何ね…ここの館の呪い掃除明日もするんだったら、また明日も来てもいいかい?」
「えっ、もっもちろんですわ」
「そうかい、ついでだから王宮殿内もみてやってもいいよ。追加の鑑定料なんか取らないからさ」
「ビシュア! あんたどうしたんだい? あんたの口から金にならない仕事を引き受けるなんて言葉を聞く日がこようとはね」
「なっなんだいサフェリア、わたしゃそこまで業突く張りじゃないよ。ただ、呪いを生業にしてきた身としてはそろそろ呪いの解除もしていった方がいいんじゃないかって思ったんだよ。人を不幸にばかりして人生終わらせるのも寝ざめが悪いからね」
「ビシュア様!ありがとうございます」
そう言ってシャナーはビシュアに抱き着いた。
「たったいしたことじゃないよ。それよりさっきから気になっていたんだけどね。その犬どこで拾ったんだい?」
シャナーの足元でお座りをしながら大きなあくびをしているドリマーを指さしながら言った。
「えっ? ドリマーのことですか? この子は王宮内の犬の訓練所で生まれた子なんです。この子だけぬけ出して茂みでうずくまっていたのを見つけたんです。私たちの言葉が理解できるのかとてもお利巧なんですよ」
「そのようだね。お前さんを気に入ってるみたいだね。めったい生まれない貴重な犬だよ」
「貴重な犬とはどういう意味でしょうか?」
シャナーの隣にいつの間にか来て立っていたラファイルがドリマーを見下ろしながらたずねた。
「ああ、それりゃあ、守り犬だね」
「守り犬?」
「この世界にはね、邪をかみ砕く力を持って生まれる犬がいるっていう噂を聞いたことがあるんだよ。守り犬は一族を繁栄に導くって言われているんだよ。めったに人に仕えたりしないって聞くけどね」
「邪ですか?」
「色んな呪いを受けてきているあんたは多少の抵抗力と毒などに幼い頃から慣れさせられて育っているだろうから多少の抗体はあるだろうけどね。長い年月の間に自然と邪の気を吸い込んでいたってわけだ。体は何ともないと思っていても体の中にたまっていく病邪の力が正気を上回って病気になってしまうことだってあるんだよ。だけどその犬はそれの邪を蹴散らす力を持っているってわけだ。本来人間に忠誠を誓ったりしないらしいから、よほど気に入られたってことだね」
「でも、殿下とドリマーは仲はあまり良くないんですよ。毎朝、散歩にはなぜか殿下を誘いに行きますけど、いつも殿下を見ると唸ってますし」
「あっははは、そりゃあそうだろよ。邪はそいつの大好物だからね。夜中に大量に体の中に取り入れちまった邪をそいつが食べていたんだから、だけど人間もそうだろうけど、いくら大好物な食べ物があっても多すぎると食べたくなくなるだろ。それと同じさ」
「ドリマー! お前、いい奴だな」
ラファイルがしゃがみ込みこんでドリマーを自分の方に抱きしめるとドリマーは全力で嫌がる仕草をみせ、シャナーの方に飛び込んだ。シャンナーがドリマーを受けとめると、シャナーの腕の中でラファイルに向かって唸り声をたてた。
「殿下の事は好きでも嫌いでもないようだね。その犬にとって主はその子であって殿下は単なる大好物をくれる人間に過ぎないってわけだ」
「なんだよドリマー…僕はお前の事好きなんだぞ、シャナーの次だけどな」
ラファイルのその言葉にまるで同意するかのようにすかさずドリマーがラファイルに向かってワン! と大きな声をだした。
「ドリマー私も大好きよ、これからもよろしくね」
シャナーは自分の腕の中にいるドリマーの頭をやさしく撫でた。
「シャナー! 僕は?」
「あら、もちろん殿下も大好きですよ」
シャンナーはそういうと殿下の頬に軽くキスをした。その瞬間満足げなラファイルの笑顔があった。
「さて、どうやらこの館は大丈夫そうだねえ。そうだ、ビシュア、今夜私の館に泊まっていくかい? ドレスで埋まった部屋しか空き部屋はないから、少し片づけないとベッドがつかえないけどね」
「えっ、そっそんなことをしてもいいのかい?」
「あら名案ですわね。そうすれば明日は早朝から王宮殿に先に来ていただけば王宮殿で朝食を食べましょうよ。ここのチェックは午後からでもできるでしょ。どうせ荷物を全部運びだしてからでないとできないんだし」
「おっ王宮殿で朝食…」
ビシュアは驚きと感激で言葉にならない様子だった。
その後、夕食は外でバーベキューをラファイル館で働いている全員で行った。
その夜はビシュアはサフェリア館で大好きなドレスに囲まれながら一夜が過ぎた。




