呪い屋ビシュア②
都の外れの可愛い雑貨屋の前で馬車は止まった。
「ついたようだね」
サフェリアがそういうと、先に馬車から降り立った。
「おや、相変わらずいつ来ても派手な店だね」
サフェリアはピンクの外観に所せましと並べられている様々な異国の小物が並べられている店を見ながら言った。
「あら? 素敵なお店ですわね。ここが呪い屋ですの?」
サフェリアの後から王妃が馬車から降り、興味深げに店をキョロキョロ、見渡して言った。
「フードを深くかぶってくださいよ。最初からばれると足元をみられるからね。この店はあの子の趣味の店だよ。まっ本業を隠すためのカモフラージュみたいなもんだろうけどね。あの子歳がいもなく若い子が大好きでね。若い子の好きそうな物を並べているつもりなんだろうけど、こんな都の端っこに店を出してたってそうそう客なんか来るもんかね」
「そうね…こんなお店なら都の中央通りにはたくさんあるものね」
「そういうこうことだ。さて交渉にいどむとするかね。可愛い孫の為だ。王妃様はしばらくの間フードを深くかぶって私に後ろにいておくれ」
「了解しましたわ」
サフェリアは王妃がフードをさらに深く被ったのを見届けて店に入った。
店の中に入ると、客は一人もおらず、所せましと無造作に置かれている置物を避けながら店の奥に進んで行った。
レジの所までくると、大きな呼び鈴が置かれていた。
サフェリアはその呼び鈴を力まかせに数回振った。
すると、店中に響くような鈴の音が鳴り響いた。
しばらくすると、真っ赤なドレスに銀色の長い髪をきれいに結い上げている初老の女性が怪訝そうに奥から顔を出した。
「誰だいうるさいね。一回ならせば聞こえるよ」
そう言って客を睨みつけたが、客の顔をみて表情を一変させた。
「なんだい、久々に客がきたかと思ったらお前さんかい、冷やかしなら帰っておくれ!」
「おや、冷たい言いぐさだねビシュア。今日は客を連れてきてやったんだけどね、仕方ないね、他を当たることにするよ」
サフェリアはそういうとむきを変えて店を出ようとした。それをみたビシュアが慌てて引き留めた。
「ちょっとまっておくれ、なんだい、それならそうと最初にいえばいいじゃないか。長い付き合いだろ? お前さんが死んだって噂を聞いていたから驚いただけだよ。なんだいこの国にいたのかい? まっお前さんのことだからそう簡単にはくたばらないとは思っていたけどね。さあ奥に入りな。どうせ置物を買いに来たんじゃないんだろ」
ビシュアはくるりと踵を返すと、レジの奥に通じている部屋へ消えて行った。
「まったくビシュアは相変わらずだね」
サフェリアは軽くため息をつくとビシュアの後について奥の部屋に入って行った。
サフェリアの後についてキャサリーヌとマーグが奥の部屋に入ると、真っ先に目に留まったのは部屋の中央に黒のレースがかけられた丸いテーブルの上の大きな水晶玉だった。
部屋に入りぐるりと見渡すと、扉がある側の壁には天井までびっしりと本が埋まっていた。
反対側の壁にはさらに部屋があるようだったが真っ暗でどうなっているのかみえなかった。
右側の壁には窓があったが、今は閉じられていて、全体的に薄い紫のレースのカーテンがかけられていたが昼間だというのに、薄暗く不気味な印象さえ感じられた。
「ほら、突っ立っていないでそこの椅子にお座り」
「じゃあお言葉に甘えて」
「でっ依頼ってなんだい? 報酬はたっぷり払ってくれるんだろうね」
「それはあんたの腕次第だね。あんたの腕がなまっているかもしれないからね」
「いうじゃないか。報酬の話は後回しにして要件を聞こうじゃないか」
「実はこれなんだが、お前さんなら呪いの抗力をなしにできるんじゃないかと思ってね」
サフェリアはそういうと持っていた鞄の中からラファイルの部屋から見つかった呪い札をテーブルの上に置いた。
ビシュアはそれを手に取ると、遮断されたカーテンを開きその呪い札を太陽の光にかざした。
「こいつは強力な呪いだね、へたくそな呪い解除をしてるようだけど、だけど完璧じゃないね。私ならこんな腑抜けた呪い札は作らないね」
「そりゃあそうだろうよ。あんたは世界最強の呪い屋だからね」
「おや、お前さんが私の事をそんな風にいうなんてどういう風の吹き回しだい。私をおだててただで呪い解除をさせようって魂胆なら諦めな。私はただでは仕事はしない主義だよ」
ビシュアは手に持っていた札を机の上に放り投げて言った。
「おや私はそんなせこい人間じゃないよ。それの完璧な呪い返しをしてくれるのなら報酬はお前さんが一番望む望みをかなえてあげようって思ったんだけどね、まあできないってんなら他をあたるさ、呪い屋はお前さんだけじゃないからね」
そう言ってビシュアが放り投げた呪い札をサフェリアがとろうとしたその時、ビシュアがもう一度その札を手に掴んだ。
「なっなんだい。できないって言っていないだろ。あたしはただ働きはしないって言っているんだよ」
「私はお前さんの手口はよーく知ってるんでね。相手が出せるお金で呪いの質も調整しているんだろ」
「ふん! 私は損をしたくないだけさ」
「私がそんなせこいことをすると思っているのかい?」
「歳をとると人間も変わるからね」
「仕方ないね。その呪い札が見つかったのはこの国の王子の部屋からだよ」
「この国のって、寝ぼけたことを言うんじゃないよ。この国の王子っていったら一人しかいないじゃないか、何でそんなすごい王族とお前さんがつながってるんだい。私をからかうだけなら帰っておくれ!」
ビシュアは持っていた呪い札を床に放り投げて言い放った。
すると、サフェリアの後ろにいたキャサリーヌ王妃がその呪い札を拾い上げると、フードをはがし、ビシュアの前に進み出た。
「ビシュア様、申し遅れました。わたくし、キャサリーヌ・サフォンヌと申します。この国の王妃をしておりますの。この顔に見覚えはありませんでしょうか?」
笑顔でいうキャリーヌ王妃に驚いたような顔をしたビシュアが茫然と立ち尽くしているとサフェリアが突然笑い出した。
「あっははは、なんだい鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、さすがのあんたでも驚いただろ。正真正銘の王妃様だよ」
「あっああ、みっみたことあるよその顔は、だけど…納得いかないね。ロケリア人のただの薬草使いのお前さんがなんでこの国の王妃様と知り合いなんだい」
「聞きたいかい? じゃあまずはこの呪い札を呪い返ししてくれないかい。二度としかけてこれないぐらいに、徹底的にね」
「はあ…仕方ないね。本当に本物なんだろうね」
「ああ、お前さんじゃあるまいし、私が嘘をついたことあるかい?」
「わかったよ」
ビシュアはそういうと奥の部屋から大きな皿と何かの薬品の入った瓶と硯箱を持ってくるとテーブルの上に置き、持ってきた皿の上に呪い札を置くように指示し、その置かれた呪い札の上に紫色の粉を振り返ると、筆で何かまじないのような文字を書き入れると呪文を唱え始めた。
しばらく唱えて気合を入れると、その呪い札が急に燃えだし炎となり燃え尽きてしまった。
「ふう…無事呪いを返しておいたよ。少なくとも、これで呪い札を作った呪い屋には呪いが失敗に終わったことが伝わったはずだよ」
「ねえ、そんなもので本当に呪いが解除されたの?」
「ああ、こういうたちの悪い呪い札は燃やすに限るからね。但し素人が変な呪い返しの呪文なんか唱えちまってるせいで、変な状態になっていたけどね」
「ふん、だからお前さんのところに持ってきたんだろ。呪いがかかった状態で持ち運ぶのは危険だったからね」
「それはわかっていたのかい、まっいい判断だね」
ビシュアは燃え尽きた呪い札に聖水をかけ奥の部屋に片付けた。
その様子を眺めながらキャサリーヌ王妃がポツリとつぶやいた。
「あの子ったらいったい誰に恨まれているのかしら?」
「王族なんてのは、多かれ少なかれ逆恨みが多いんじゃないかい。本人に心当たりがなくてもね。妬みの温床だろ」
サフェリアがいうと、キャサリーヌ王妃はくすりとして頷いた。
「確かに」
「そうじゃ、ビシュアお前さん、私の家に遊びにこないかい? 今のお礼にね」
奥の部屋から出てきたビシュアに向かってサフェリアが言うと、ビシュアは急に不機嫌になった。
「はあ? なに寝ぼけたことを言っているんだ。まさか呪い返しの料金を踏み倒すつもりじゃないだろうね」
「何、提案をしてやっただけじゃないか」
「はあ?」
「お金がいいならお金で支払ってやるけど、お前さんが行きたがっていた場所に招待してやろうっていうんじゃないか」
「私が行きたがっている場所って何を言ってるんだい?」
「だから言葉の通りだよ、私が今住んでいるのは王宮領内だからね。お前さん昔からよく言っていたじゃないか、王宮に入ってみたいってね。そのために呪い屋を始めたんだろ? 王族から呪いの依頼を受ける為にね、今がそのチャンスだって言ってるんだよ」
「おっ王宮領内だって! 嘘を言うんじゃないよ。そう簡単に王族が入れてくれるわけないじゃないか、今までだって」
「どうして嘘をいう必要があるんだい? お前さんが知っている他国の王族と一緒にしない方がいいと思うよ」
ビシュアはサフェリアを凝視した後、キャサリーヌ王妃に視線を向けた。
「あら、本当ですわよ。ここだけの話ですけれど、サフェリア様は今、息子の住む館の隣の館に住まわれているんですのよ。ファーマルズ金貨でよろしければ今ここでお支払いいたしますけれど、もし、ビシュア様がよろしければ、王宮領内に見学にいらっしゃいませんか? そのお礼としては少なすぎますでしょうか?」
ビシュアは信じられないというような顔をして首を横に振った。
「まあ、よかったわ。実は、わたくし、もしあなたがよろしければ個人的にご相談がありましたの。息子の件以外にもいろいろお話しを聞きたいこともありますし。ではビシュア様さえよろしければ今からいかがですか?」
「いっ今からで?」
ビシュアは完全に舞い上がっている様子だった。
「ビシュア、どうするんだい?」
「いっ行くに決まっているだろ。こんなチャンス逃してたまるもんかい」
「そうかい、それはよかったよ。じゃあ王妃急いで戻るとしますか?」
「そうね。じゃあ参りましょう。 ビシュア様」
キャサリーヌ王妃はにっこりと笑顔をビシュアに向けると、再びフードを被りマーグを従えて部屋を先にでて行った。




