寝相改革と呪い②
執務室では新たに椅子が運び込まれ、サフェリアを取り囲むように椅子が集められサフェリアが話し始めるのをみな待った。
「さて、何から話そうかねえ、私も呪いの類は専門外だからね。詳しくはしらないんだよ」
「あのおばあ様、ではどうして呪いだと思ったのですか?」
「何ね、ここにきてからお前さんがカミールの部屋に乗り込んでいく日を思い出していると晴れている日がほとんどだなと思ったんだよ」
「そう言えばそうかも。雨が降っていたり曇りの日は確かに殿下は大人しく自分の部屋で寝ていたような…えっもしかして、おばあ様が言っていた満月が影響しているの?」
「たぶんね、満月というより月の光が影響しているんだろうね」
「あのサフェリア様、その呪い札というものは最近殿下の部屋に仕込まれたものではないということでしょうか?」
「おそらくね、まああの天蓋付きの布はいつ交換しているんだい?」
「一年に一度都の布地を扱う工房に依頼して、カーテンと同様に全て交換しておりますが」
「交換作業もさせているのかい?」
「はい、自分が知る限り殿下があの部屋を使うようになる以前からだと思いますが」
ラースの返答に黙って聞いていたキャリーヌが言い出した。
「それもしかしたら、陛下の異母妹の誰かの仕業かもしれないわね」
「キャサリーヌ様? どうしてそう思われるのですか?」
「だって、ラファイルの次の王位継承権を持つ人間って言ったら陛下の六人いる妹の方々の男子のお子様でしょ。皆様他国の王家に嫁がれておりますが。どなたも第二第三王子にばかりで、どなたもご自分の息子が国王になられる方がいらっしゃらなかったはずですわ。しかもその中でラファイルに嫁がせられる女の子がいない方が三人いますわ。その方々のお子さんはお一方ずついますから、王位継承権を持つ男子は三人いる事になりますわ。自国で王になれないのなら、この国の王になる可能性があるならば自分が疑われずに合法的に王になるための画策をしていてもおかしくないものね」
「そんなに王になるっていいものなのかしら? 大変そうだと思うけどな」
シャナーはポツリとつぶやいた。
「僕も同感です。僕がもう少し体力があったら自由に好きな所にいって自分の才能だけで人生を試す生き方の方が憧れます」
カミールがいった言葉にサフェリアがいった。
「人間はないものねだりをよくするからね」
「あのカミール、さっき言っていたでしょ。あなた殿下が夜中に入ってきた時起きていたことの方が多いんでしょ。どうしてすぐに大きな声を出さなかったの?」
「それは…」
「おそらくだけど、夜中に叫んでもきっと誰も気が付かれなかったんだろうね。違うかい?」
「おばあ様の言う通りです。最初の時は叫んでみたんです。でもなんていうか声が出ないんです。金縛りにあっているみたいに、ようやく声が出るようになるのが夜明け前なんです」
「もしかしたら、坊やにかかった眠りの催眠がこの館全体のあちこちにかかっているかもしれないね。今まで何度も世話係が入れ替わっていたのもそれが原因なんじゃないのかい?」
「ご推察の通りです。全て殿下が世話係の部屋に夜中に入ってきてどんなに大きい声を出してもピクリとも動かず覆いかぶさるように眠り続けられたら、普通の人間はおかしくなるだろうね。たとえ男同士でもね」
「あれ? もしかして私だけなの? 気が付かなかったの」
シャナーはどんなに思い返してみてもラファイルが朝自分の部屋のベッドで一緒に寝ていた時も入ってきた時の記憶はなかった。
首を傾げていると、カミールが言った。
「シャナーは一端眠りにつくと朝まで起きないもんね」
「ええ~なんか私かなり鈍感みたいじゃないカミール」
シャナーはカミールに文句を言っていたがそんなシャナーを見ながらサフェリアはラースに気になっていることを質問してみた。
「ところでこの屋敷にはどうして使用人は全て男なんだい?」
「それは殿下には女性が側に近寄られると体中がかゆくなったりするアレルギーがでるからです」
「アレルギー? そんなものがあるのかい?」
「私も最初は信じられなかったのよ。だけど、女性があの子に触れると、触れられた部分がかゆくなるのよね。十年前だったかしら、マテンが止めてからここに住むようになったのは? それからじゃなかったかしら?」
「そうです」
ラースが頷いた。
「王妃様も触るとかゆくなるのですかな?」
「どうかしら、ずっと触っていないから、でもマテンは大丈夫よね」
「はい、毎年会いにいかれておりますが、かゆがるような仕草は致しておりません」
「じゃあ、人によるってことですか? 私もがさわっても殿下はかゆがらないですし」
「そりゃあそうだよ。シャナーは僕の一部だからね。母上もマテンも僕の大切な人だからかゆくなるはずないだろ」
執務室のドアの前に立っていたのはラファイル本人だった。
「ラファイル殿下!」
執務室にいた一同は皆驚きの顔を向ける中、ラファイルの後ろにいたベンが頭をかきながら言い訳をし始めた。
「すまん、何で部屋にいるのか聞かれてつい答えちまった」
「みんなこんな夜中に何をしているんだい?」
「何ってお前さんの寝相改革の反省会をしていたんだよ。お前さんは覚えてえていないだろうけど、さっきもかなり暴れたんだよ」
「またご冗談を…サフェリア様、僕は寝相は悪くないですよ。僕の部屋が時々夜中になると居心地が悪くなる時があるから移動しているだけなんですから」
「お前さん自覚しているっていうのかい?」
「サフェリア様、その通りですよ。何が原因かは僕にもわからないですけれど。母上もお久しぶりです」
ラファイルはキャサリーヌに近づくと自分からキャサリーヌにハグをした。そして隣にいたシャナーとサフェリアにもハグをした。
「お前さん私に触っても平気なのかい?」
「当然ですよ。だってあなたはシャナーの祖母ですから」
「わからないね、女性のアレルギーがあるのならシャナーは元々カミールとは一卵性の双子だから、当てはまらないとは思ったんだが私は別なんじゃないのかい?」
「そうですね、僕も理屈はわからないですけど、自分でも感覚で分かるんですよ。触れられると体が拒否反応が出る人間と出ない人間がね」
「便利な体だね」
「それほどでも」
「じゃあ、私が特別に体の改善薬を処方してあげるよ」
「そんなことができるんですか?」
「そうだね、できないかもしれないが体質改善はできると思うよ。呪い札を徹底的に排除すればね。まあ呪い事態はあまり効いていなかったようだし、シャナーの出現でこの札をしこみ続けている犯人の思惑は失敗に終わるんだろうけどね」
「あの…犯人とは? 呪い札とはなんですか?」
「ああお前さんのベッドに体を弱くさせる呪いがずっと置かれていたんだよ。月が出る日に作動するようにね」
「…」
その言葉を聞いたラファイルは驚いた顔をしたが、どこか納得したような顔をして言った。
「その様子だと薄々気づいていたって感じだね」
「えっ? 殿下? 呪いがかけられているって気づいていたんですか?」
「そんな事はないよ。ただ、晴れた日は夜は寝ても疲れが取れないなとは思っていたんだ」
「あの…だから殿下は昼寝を色んな所でなさるのですか?」
「う~ん、別に深い意味はないけどなんとなく」
「あっははは、なんとなくかい! いいねその言葉、お前さんは強運の持ち主ってことだね。人生を勝ち抜くには運も味方につけないといけないからね」
「あの…サフェリア様? その呪い札はどうするのですの?」
キャサリーヌが呪い札を入れているバッグを指さしながらたずねた。
「ああ、これかい、私は呪いは専門外だからね、確かこの国の都の外れに古い友達に呪い屋をしてる奴がいるからね。明日にでも持っていって処分してもらってくるつもりですよ」
「呪い屋などという仕事があるんですか?」
「ああ、世の中には色んな仕事があるからね」
「あのおばあ様、その呪い札が無くなったのなら殿下が夜中に苦しむことは無くなるってことですか?」
シャナーが聞くとサフェリアは首を振りながら答えた。
「それはわからないね。この館自体がなんか陰気臭いしね。一度館全体の掃除をした方がいいかもしれないね」
「あの大掃除ということでしょうか?」
「簡単にいうとそうだね。全ての荷物を館の外に出して厄払いの聖水をふりかける作業だよ。大仕事になるだろうけどね、やって損はないと思うよ。後はここにある荷物の確認は、そうだね、殿下が嫌な感じがしなければ何も問題ないってことで、殿下自身が呪い探知機の役目を果たせばいいと思うよ」
「ええ~サフェリア様他の人間ではダメなのですか? この館自体にも料理人や騎士たちがかなり寝泊まりしていますし、全ての荷物を全部僕がチェックするのは効率が悪いように思うんですけど」
「な~に難しく考える必要がないよ。ほらここに立ってごらん」
そう言ってサフェリアがラファイルを呼び寄せるとバッグに入れていた呪い札を取り出しそれをラファイルの手に付けてみた。
すると電気が走ったかのようにとっさにラファイルはその札を払いのけた
「なっなんですかそれはすごく嫌な感じがするんですけど」
「そうだろうね。お前さんをじわじわ弱らせる呪いがかかっている札だからね」
「もしかして、そんなものが僕の部屋にあったってことですか?」
「そうだね、ずっとね。ただ、高い位置にあって、普段生活している分には影響はなかったみたいだね。おそらく月が輝く日に窓から入った月の光が何かを通して天蓋付きの布に反射してお前さんの体に呪いが降り注いでいたんだろうね。それをお前さんは本能で察知して夜中に別の部屋に寝に行くっていう行為になったってとこだろうね」
ラファイルは少し驚いていた様子だったがどこかモヤモヤが解決してスッキリした様子だった。
「ラース、明日早速、館中の荷物を外に出すぞ!」
「はあ? 明日なんて無理ですよ。公務もあるんですから」
「あらラース、公務なら任せて、明日から三日間あなたがすべき公務は全て陛下に押し付けてあげるわ」
にっこり笑っていうキャサリーヌにラースはただ頷くしかできなかった。
おそらくやるといったら陛下に押し付けることができる方なのだろうと思うラースだった。
「マーグ忙しくなってきたわね。じゃあ、そうと決まればもう帰りましょ」
「あの王妃様、その…この館の清掃を見学なされるおつもりなのではないですよね」
「あら、もちろんだわ。手伝うわよ。小さい荷物ならわたくしにだってもてるもの」
キャサリーヌはやる気満々で言った。
「王妃様、いけませんわ。陛下に知られましたら禁止させられるに決まってますわ。それに無理な運
動をしてはお体に触りますわ」
マーグはいつになく必死に止めにかかっていた。
なぜなら彼女はすると言ったら聞かない性格だからだ。
「王妃様、大掃除なんて疲れることは男たちにまかせて、明日よかったら護衛の騎士数人と馬車を貸してもらえないかね」
「といいますと、もしかして、わたくしもその呪い師の方の所に同行させていただけるのかしら?」
「ああ、ちと偏屈な所があってね。私一人だと口を割らない恐れがあるからね。権力のある王妃様の力をお借りしたいと思ってね」
「あらおもしろそうですわね。でもわたくしの息子に呪いをかけていたかも知れない呪い札を制作したかも知れない方なのでしょ。わたくしが行っても大丈夫なのかしら?」
「たぶんね、依頼主が誰に使うのかはまったく気にしない主義だからねあの子は、だけど、お金にはがめつくてね。できれば少し出してもらえるとありがたいんだけどね」
「あら簡単なことですわ。では明日、あらもう今日ですわね。朝食を済ませましたら、隣の館に馬車をつけますわ」
「それは助かるね。そうだ、シャナーお前さんも一緒にくるかい?」
「いいんですか?」
「シャナーが行くなら僕も行くぞ」
「すまないが殿下は遠慮しておくれ、あの子はナイーブでね、男嫌いなんだよ。仕方ないね、シャナーは留守番をしておくれ。ここの大掃除の監視を頼んだよ」
「わかりました」
シャナーは残念そうに了承したがラファイルは丸まる三日間もずっとシャナーと一緒に過ごせるとわかって満足げにほほ笑むのだった。
全ては夜明けから実行に移すことになった。忙しい一日が始まろうとしていた。




