寝相改革と呪い①
満月が輝きを増した夜更け、木々が風によって葉が擦れる音と波の音が辺りに響く真夜中、ラファイル館の地下の食堂には数人の影があった。
「そろそろ月の光があの部屋に差し込む時間帯だ。良いか、お主たち二人はあの坊やが起き上がらないように抑え込むんだ。シャナーとカミールの二人はその間に部屋のどこかにあるはずの呪い札か、呪いがかかった置物を探し出すんだ。坊やに淡い光線のようなものが月明りの光を帯びて呪文の文字が浮かびあがっているはずだからね」
サフェリアは二人の孫と目の前にいるラースとベン騎士団長の二人に向かって言った。
「わかりました。おばあ様は何をするのですか?」
「私か? 呪い返しのまじないをするんだよ。けっこう長い間呪いを受け続けていたようだしね。かなり強力だと思うからね」
「ねえ~、私は何をしたらいいかしら?」
サフェリアの言葉で四人が頷いていざラファイルの寝ている寝室に行こうとしていると、突然背後から王妃の言葉が聞こえてきた。
驚いたシャナーが手に持っていたランプを声がした方角に視線を向けるとそこには王宮殿に戻ったはずのキャサリーヌ王妃と侍女のマーグが立っていたのだ。
「王妃様! どうしてここにいらっしゃるのですか? 夕方お戻りになられたのではなかったのですか?」
「あら、戻ったわよ。戻って、さっき部屋からぬけ出してきたのよ。今夜面白そうなことがあるって聞いたから。でっ? 私は何をしたらいいかしら?」
ワクワクしているような顔で五人にもう一度同じ言葉を投げかけた。
「王妃様…そのような事をされては大宮殿で大ごとになっているかもしれないではありませんか?」
「あら大丈夫よ。ちゃ~んとラフアイルの所に行ってるって書置きしてきたもの」
「はあ~またそんな勝手なことを」
「だって仕方ないでしょ。隣の館にわたくしが眠れる場所がないっていわれたら、夜中出てくるしかないじゃない」
「マーグ、お前がついていながら止められなかったのか?」
ラースは王妃の後ろにいた侍女のマーグに向かって言った。
「もちろんお止めいたしましたよ。ですが、王妃様はぬけ出す名人ですから。下手に反対すると、知らない間にどこかに姿をくらまされるんですよ。大丈夫ですわ。ここまで騎士数人に送らせましたので。騎士たちには王妃様が大切な忘れ物をしたからということで、今も外で待機してもらっております」
「きちまったものは仕方ないね。だけどこのまま騎士たちを外で待たせておくってのもねえ」
サフェリアがそういうとベンがすぐに言った。
「王妃様、王宮殿にお戻りのさいは自分がお送りいたしますのでご安心ください。少しお待ちください」
そういうと、ベンはすぐに食堂を出ると外に出て、立っている騎士たちに戻るように指示を出すとすぐに戻ってきた。
「よし、じゃあ急ごうかね。そろそろ起き出す時間だからね。王妃様もシャナーと一緒に呪いを発している何かを探しておくれ。大丈夫、関係ない人間には術は効かないはずだからね」
「わかったわ」
キャサリーヌがそう返事をすると、サフェリアは軽く頷いた。
そうして七人は静まり返った館中をラファイルの部屋をめざして歩き出した。
ラファイルの部屋の前まで来ると、部屋の外にはアンドレアが見張りとして立っていた。
部屋の中からうめき声のような声が聞こえていた。
「どうやら、やはり満月が影響しているようだね」
「満月?」
「説明は後じゃ、良いか、坊やが起き出す前に抑え込むんだよ」
「了解しました」
ベンとラースは袖をまくり上げ、部屋のドアのノブをまわした。
中に入ると、殿下の体に何かがのしかかっているような影のようなものがまとわりついているように見えた。
その時ラファイルがもがきながら起き上がろうとしている最中だった。
二人はすぐにベッドに駆け寄ると二人がかりでラファイルを抑え込んだ。
意識はないようだがすごい力で暴れだした。
外で見張りをしていたアンドレアも駆け寄り、三人係でラファイルを抑え込んだ。
「何ぼさぼさしてるんだい、早く探すんだよ、呪いが作動している時は、文字が浮かび上がっているはずだからね。早くしないと、坊やの精神力がもたないよ」
「はい!」
茫然としながらその光景を見ていたシャナーとカミールにサフェリアの声が突き刺さった。
二人は急いで部屋の中に入って、呪い札を捜しに取りかかった。
その間にサフェリアは暴れているラファイルに近づくと、額にまじないを書いた紙を張り付けると、呪文のような言葉を繰り返し唱え始めた。どれだけ続いただろうか、ふとシャナーが天蓋付きのベッドの上を見上げると、左端の角が何か光るものを見つけた。
「あれ! 何か光ってる!」
そういうなりベッドによじ登るとそれに触れようとした。
「駄目だ…届かない」
「シャナーこれを使いなよ」
そう言ってカミールが持ってきたのは掃除用のモップだった。
シャナーはそのモップの先を持って光るものにモップの先で何度もつついた。
すると、それが突然下にハラハラと落ちてきた。シャナーはそれを拾おうとした時サフェリアが叫んだ。
「触るんじゃないよ!」
サフェリアは唱えていた呪文を止め、肩にかけていた小さなバッグからハンカチを取り出すとそれを通してまだ光を放っている鏡のようなものをつまんで、そのバッグの中に押し込んだ。
すると、今まで暴れていたラファイルが急に大人しくなり寝息を立て始めた。
「おばあ様、殿下はもう大丈夫なんでしょうか?」
「そうだね、とりあえずその札を外さないでおこう。念のため朝まで監視は必要だろうけどね。まっ、もしまだ呪いがあるようだったら、坊やの好きな場所に行かせておやり、この坊やたいしたもんだよ。これだけの強い呪いを無意識にはねのけて呪いが発動していない部屋まで行って寝るんだからね」
「あの…おばあ様」
シャナーは聞きたいことが山ほどあった。
「説明は別の場所でしてあげるよ、王妃様も聞きたそうだしね」
そう言ってサフェリアはベッドの横で息子の寝顔をチラチラみながらも、何か言いたそうにしているキャサリーヌをみて言った。
「サフェリア様、ではあちらの執務室をお使いください。殿下の監視は我々でいたしますから」
ラースがいうとベンがベッドから降り、肩をまわしながら言った。
「殿下の見張りは俺とアンドレアでしとくからお前はサフェリア様の話を聞いておいてくれ、今後の事もあるしな」
「了解、では王妃様、サフェリア様ご案内いたします。あっカミールは自分の部屋で寝ていいぞ。ここに数日毎日殿下と一緒に寝ていたってことはずっと寝ていないんだろう」
ベンが言うとカミールは首を横に振った。
「えっ?そうなの?」
「うん、でも大丈夫です。僕も気になるし」
「そうかい、じゃあ話を聞いたらお前は寝るんだよ」
「わかりましたおばあ様」
サフェリアは頷き、廊下にでて既に待っているラースの後について執務室に向かった。




