あの子は誰?
ベンはラースがラファイルを肩に担ぎながらラファイル館に入って行くのを見送りながら、ため息をついていると、ふと木々が植えられている茂みの中から手招きする手が目についた。
ベンは首を傾げながら木陰に行くとそこには数日前に王宮殿に戻ったキャサリーヌ王妃とその侍女のマーグの二人がいた。
「王妃様! こんな所で何をしているのですか? 今日はビジュリア国からの大使がお見えになられる日ではありませんでしたか? 確か王妃様も同席せよと陛下が言っていませんでしたか?」
「あら~そんなこと言っていたかしら、私体調が悪くて~今まで陛下一人でこなしていたんだもの。私がいなくても大丈夫でしょ。私はビジュリアなんて興味ないもの。ああ~こっちの方がましかなって思っていたけど、側室選びも中止になっていて、やたらと陛下がべたべたしてくるし、それに、なんだか陛下の姪っ子のわがまま姫たちがうじゃうじゃいるし、戻ってくるんじゃなかったと思っていたのよ。でも面白いものを見ちゃったわ、ねえ、この屋敷では毎日こんな面白いことをしているの?」
キャサリーヌ王妃は目をキラキラさせながらベンに向かってたずねた。
「いえ…そんなことはありませんが」
「ねえ、ちょっと聞こえたんだけど、あなたさっきラファイルって言っていた気がするんだけど、あの子は誰?」
「え?」
ベンはキャサリーヌの言葉に驚き顔を凝視した。隣の侍女も同様な顔をしていた。
「キャサリーヌ様、誰って、さっきみた方の中にラファイル様がいらしたではありませんか。ほら、保養所で話した王子様と婚約者だという絵姿のお姿がそっくりでしたよ。それにさっきのお嬢様もそっくりでしたよ。あの方が殿下の婚約者様ですわよきっと」
「えっ?、あれ本当の話だったの? またまた冗談きついわよ~ 私の息子のラファイルはもっとこうぽっちゃりとしていたでしょ。なんだか雰囲気が陛下と似ているような気はするけど、そんなに急に痩せるものなの? ずっとぽっちゃりだったでしょ」
(本気で言ってるのかこの王妃)
ベンはマジかという顔をしながらふと気が付いた。
「そういえば王妃様はずっと保養所に行かれていたんでしたね」
「そうなのよ」
「それならに間違えても仕方ありませんね。実はさっき殿下を追いかけていたのは、殿下の婚約者候補の本命のシャナー・ラベリー嬢ですよ。彼女には殿下の世話係として入った彼女の双子の兄のカミールという青年がいるのですが、彼が世話係としてラファイル殿下の世話係を初めてから、アッという間に痩せてあのような体系になってきたんですよ。今では公務も真面目にこなしておりますし、本来なんでも器用にお出来になる殿下ですので、最近は剣術の方もかなりの腕前になっておりますよ」
「・・・」
驚きで言葉にならない様子の王妃をみて無理もないよと言いたげな顔をしながら付け足した。
「驚かれるのも無理はありませんね。我らも毎日みるみる変わっていく様子を見ていて信じられないぐらい驚いているんですから。それに加えて、実は数日前から、ラファイル様の隣の館に薬草使いのサフェリア・オーバルという方が引っ越しされてきたんですよ。もちろん陛下の許可を得ていますけどね。彼女の孫娘がさっきのシャナー嬢なんですよ。毎朝、何かと彼女に殿下がちょっかいを出すようでしてね。あのように朝から走り回っているんですよ」
「驚いたわ。まあ、あんなにイケメンになっていたなんて…じゃあさっきの会話は全部息子の話しなの? 私の息子は夜這いの癖があるの? ここの使用人は全員男よね。あの子ったら女性アレルギーがあったんじゃなかったかしら、もう治ったの? だから陛下の姪っ子たちがきているの?」
「いえ…自分はなんとも」
「ねえ、あなたもあの子の世話係をしていたことがあったでしょ? その時何かされたの?」
(何を期待しているんだこの王妃は…)
ベンは頭をかきながら、今にも屋敷に入ろうとしているラースとラファイル王子に視線をむけながら大きなため息をつきながらボソッといった。
「自分の時は確か…尻を一晩中撫で繰り回されましたな。まっ五歳の子どものしたことですけど」
「まあ、あなたのお尻はそんなに魅力的なの?」
「えっいいえ、そんな事はないと思いますが、あっ申し訳ありません。見回りの途中でしたのでこれで失礼します」
(あの王子にしてこの王妃ありってことだな)
ベンはそう思いながら王妃に頭をさげると、王妃の元を離れて行った。
それを見送りながらキャサリーヌ妃はくるりとむきを変えた。
「ねえマーグ、あの子どこかで会った気がしない?」
「いいえ、わたくしは存じませんが」
「おかしいわね、記憶力はいい方なんだけど、どこだったかしら」
「それよりも、どうなさるのですか? 本日のご予定は」
「そうね…都に行こうかと思っていたけど今日は止めておくわ」
「では、王宮殿に戻られますかキャサリーヌ様、今日は大人しく謁見に挑まれるのですか?」
「やあねえ、そんなの決まっているじゃない。もちろん行かないわよ。あんなのどうでもいいもの。それより、こっちの方をみている方が断然おもしろそうじゃない。もう一度息子を見たいし、ねえ、昔の陛下みたいだと思わない。やっぱり陛下の息子だったのね」
「キャサリーヌ様、その発言は誤解を招きかねますよ」
「あらそうかしら、でも大丈夫よ陛下がわたくしの初めての男性で唯一の男性だってことは陛下が一番ご存じだもの。ねえ、それよりさっき話していた寝相改革って何をするのかしら? 今夜なんだかおもしろいことがあるんじゃないかしら?」
「キャサリーヌ様? まさか…いけませんよ。王妃様が夜中に出歩くなど」
「あら、ここは王宮の敷地内じゃない、そうだわ、ソフィーに言って、今夜ベンを借りようかしら? それならいいでしょ」
「あの元々ベン様はほとんどラファイル様の館で寝起きされているようですよ」
「あらそうなの? じゃあ、隣のサフェリア・オーバル様にご挨拶に行こうかしら、今夜はあそこにとめてもらえばいいじゃない」
キャサリーヌ様はそういうとラファイル館の隣の館に向かって歩きだした。
「お待ちくださいませ。キャサリーヌ様、まずは王宮殿にお戻りになりませんと、勝手に決められては陛下のお怒りにふれます」
「お前は気にしすぎなのよ。じゃあ、お前が王宮殿に戻って私の着替えとか夜の準備をして持ってきてちょうだい。そのついでにあそこに泊まることになったっていえばいいじゃない。適当に体調が悪くなってきたからサフェリア様の治療を受けるとかなんとかいっときなさい」
それだけいうとキャサリーヌはスタスタと一人で歩いて行ってしまった。
侍女のマーグは大きくため息をつくと、キャサリーヌの後を追って今はサフェリア館となった館へと入って行った。




