お父様が重傷?
その日もシャナーは朝早くに目覚め、いつものようにドリマーの散歩をラファイルと共にこなし、温室の手入れにいそしんでいた。
「カミール、どうしてもっと可愛い花とか育てないんだ? 何だかわからない草ばかり植えてるじゃないか。こんなものを育てて楽しいか?」
ラファイルはジョーロでその草達に水を注ぎこみながら隣で新しい薬草の苗を植えているシャナーにたずねた。
「殿下、これはただの草ではありませんよ。人々の健康におおいに役立つ宝物たちなんですから、この温室の温かさと栄養と適度の水分を与えて、より栄養価の高い薬草に育つんですよ。それらの種を収穫してよりいい薬草に育てるんです」
「そんなもんなのか…」
「はい、おばあ様の山荘にも温室があるんですが、ここより大きくないし、何より、地下があるのが最強なんですよ」
「そうなのか?」
「はい、グルグの苗は小さい頃は光を好むのですが、ある程度成長すると地下のようなジメジメとした場所を好むようになるんです。ここの地下は光とりの窓があって夜の内は空気の入れ替えもできますし最強なんですよ」
シャナーは鼻歌混じりに返事をしながら、次々と薬草を植えていった。
シャナーはこの二人の時間がけっこう気に入っていた。いつまでも続けばいいと思えるほどに
「カミールはいるか?」
ラースが温室に何やら紙を持って入ってきた。
「はーいここです」
温室の入り口からは見えない位置にいたシャナーは顔を上げて返事を返した。
「お前に急ぎの伝言が門番から届いているぞ面会人が来ているようだぞ」
「えっ、面会人ですか? こんな早朝にですか?」
シャン―は急いでラースからその紙を受け取ると、急に青ざめた。
そこには、ラベリー家からの伝言が書かれていた。
様子がおかしいシャナーにラファイルが側に駆け寄りその紙を奪い取ると、中にはシャナーの父であるヒューダ・ラベリーが馬車の事故にあい重傷とあった。
「どうして…」
シャナーはフラフラと出口へと向かった。
「カミールどこに行くんだ?」
「申し訳ありません。お休みをいただきます」
シャナーはそれだけを言うのが精いっぱいだった。
カミールが落馬したと聞いた時も心臓が止まってしまうのではないかと思うぐらい驚いた。今度はお父様まで…。
(早く戻らなきゃ)
シャナーはその事だけで頭がいっぱいになった。するとラファイルがシャナーの側まで駆け寄るときびきびした口調でラースに言った。
「ラース、馬車の用意を至急させろ、シャレードまでなら夕方にはつけるはずだ。それからこの手紙は誰が届けにきたんだ?」
「早馬でラベリー家の使用人が届けにきていたそうだ。至急カミールも戻れるのか返答を聞きたいと中央門でカミールの返答待っているそうだ」
「わかった、お前も一緒にこい! その使用人が本当にラベリー家の使用人ならカミールがみればわかるだろう。この手紙が本当なら、そいつも乗せてラベリー家に向かおう」
「ちょっとと待てラファイル! お前が行く必要はないだろう」
「うるさい! 一人で行かせたら無事にたどリつけたのか気になるだろうが。カミール、僕が一緒について行ってやるから気をしっかりもて!」
シャナーは遠くなる意識の中でそんな声を聞いた気がしたが返答しようとするが声にならず意識が遠のいてしまった。
再び意識が戻ったシャナーが目を開けると、目の前に心配そうののぞき込んでいるラファイルの顔が目に入った。
「おっ気が付いたか? もう少し寝ていてもいいんだぞ、安心しろ、父上に命の危険はないようだぞ。今、ラベリー家に向かっているから夕方にはつくはずだ」
「父上?…ラベリー家…」
シャナーはボーっとする頭でラファイルの言葉を繰り返してようやく意識を失う直前のことが蘇ってきた。
慌てて起き上がると、なんと馬車の座席に横たえられていて頭は殿下のひざの上にのせられていたのだ。
「でっ殿下! 申し訳ありません」
「急に起き上がたりして大丈夫なのか? もう少し横になっていてもいいんだぞ」
「とっとんでもありません。あっあのここは?」
「今、馬車でラベリー家のあるシャレード地方に向かっている所だ。もうすぐ都を抜けるあたりだ」
「おっお嬢…あっいえカミール様、大丈夫ですか?」
シャナーはラファイルしか視界に入っていなかったがその声に横を振り向いた。
すると、向かい合わせの席にはラースともう一人、ラベリー家に代々仕えてくれている執事のガースが心配そうにこっちをみていた。
「ガースじゃない、あなたが直々に教えに来てくれたの?」
「はい、旦那様には伝えるなといわれていたのですが、ヴァルキリー様がカミール様にも一度お戻りになれるようならお戻りいただけないか聞いてきてくれといわれましたので、わたくしが代表でお迎えに出向いた次第であります」
「そう、遠くまでお疲れ様。それでお父様の容体は?」
「はい、それが馬車が何者かの馬車に追突され馬車ごと川に転落した時に、頭部と肩を強打されまして、幸い、命に別状はないのですがあちこち出血がありまして、今は安静にしております」
「そう…よかったわ。だけど、犯人はつかまったの?」
「いいえ、それがまだ…ですがここ最近、仕事の面でもトラブルが続いているご様子で、旦那様はずっと得意先を駆け回っていたご様子でした」
「トラブル? もしかして」
シャナーはそこまで言いかけてはっとした。
「殿下! そういえばどうして一緒に乗っているのですか? ラース様まで」
毎日見ている二人なので、最初はなんの違和感も感じなかったが、よくよく考えてみればラベリー家に向かっている馬車の中にこの二人がいるのはおかしい。
「どうしてかって、お前が心配だからに決まっているだろ。それにその執事に聞いた話だと、この間の一件がからんでいそうだしな。きちんと詫びも入れておかないといけないと思ってな」
「殿下とラース様のお二人も抜けられては執務が滞ってしまうのではありませんか?」
「心配ない、ベンとジースに任せてきたからな。あの二人は何気に何でもこなすからなあっちの心配は必要ないぞ、こっちの方が重要そうだからな。あっそれと、温室の朝の水遣りとドリマーの世話も押し付けてきたから心配するな」
「ですが殿下が来られては…」
「なんだカミール、僕が一緒にラベリー家に行くと何か不都合なことがあるのか?」
「そっそんな事は…ねっねえところでガース、あっあの…カミ、いえシャ、シャナーは元気?」
「あっ、はっはい、最近ようやく元気になられていらっしゃいましたよ。ただ、旦那様がお怪我をなされたと知った時はお倒れになられましたけど、シャナー様は大丈夫だと思いますよ。きちんとシャナー様のお部屋で毎日過ごされていますから」
「そっそうよかったわ。あの子まで何かあったらどうしようかと思ったわ。だけど…」
シャナーはチラリとラファイルの方を見た。ラファイルは何やら考え事をしている様子でシャナーの視線には気づいていない様子だった。
「きちんと調べないと何とも言えないが、ロケリア国がからんできているかもしれないな」
「殿下もそう思いますか?」
「ああ」
ラファイルとラースは何か引っかかることがあると確証があるのか険しい顔で頷きあった。
「あのロケリア国がどうかなさいましたか?」
二人の会話を聞いて執事が聞き返してきた。
「あっいや、まだ確証がないがラベリー家に到着したら、ご長男のヴァルキリー殿と話しができるか?」
ラファイルはそれ以上は何も執事には返答しなかったが、執事はしつこく聞こうとせず、聞かれたことのみを答えた。
「はい、しばらく屋敷の方に滞在なさるとおしゃっておりましたので大丈夫かと」
「殿下、ではラベリー家に到着しましたらこの間の件はヴァルキリー殿に詳細をご説明を先にしておきますので、殿下はヒューダ殿のご体調がよければ先にご挨拶をなさってきてくださいませ」
「わかった。そっちはお前にまかせたぞ」
シャナーは急に顔つきがかわったラファイルをみて驚きを隠せなかった。
いつもおちゃらけているラファイルしかみていないシャナーにとって初めてみる真剣な顔をしているラファイルだった。




