ヤバイです
その日の夕方、予定通りにラベリー家に到着したラファイル達より早く早馬で知らせが届いていたこともあり、玄関には重傷を負って静養中のはずの家長のヒューダ・ラベリーや、長男ヴァルキリー、そしてシャナーの格好をしたカミールが出迎えていた。
「これはこれは殿下自らおこし頂きまして誠に恐縮にございます」
「ヒューダ殿、外に出てきていて大丈夫なのか?」
「包帯ばかりでお見苦しく申し訳ありません。ほとんど擦り傷だけで、骨折しているのは足だけでございます。この度は、長男が先走ってしまい、カミールに連絡を入れてしまい、わざわざ殿下にまでこのような場所にお越しいただくような事態になってしまい申し訳ありません」
「いやいや、こちらも少々話しておきたいこともあったからな。しかし久しぶりに長距の馬車移動で少々疲れてしまった。申し訳ないのだが、今夜はここで宿泊させてはもらえぬか?」
「はっ、このような田舎の屋敷でよろしければごゆるりとおくつろぎくださいませ。至急部屋の用意をさせますので。ひとまず客間にお入りくださいませ」
「父上、作業着のまま来てしまったので先に着替えてきてもよろしいでしょうか?」
「ああ、シャナー、お前も部屋に戻っていてもいいぞ」
「はいお父様」
そう言ってヒューダは車いすのまま先に応接室を案内すべく館の中に入って行った。
そのすぐ後をヴァルキリーが続き、ラファイルとラースがその後に続いた。
それを送った二人だったが、ラファイルはシャナーの姿をしたカミールをちらりと見ただけで、そのまま通り過ぎて行った。
あれだけシャナーに会いたい素振りを見せていたラファイルのそっけない態度に違和感を覚えたシャナーだったが、深くは考えないようにした。何はともあれ意外と元気そうでほっと胸をなでおろした。
玄関で二人きりになったシャナーは感心したようにカミールの周りをグルグル回り始めた。
「シャナー、やっぱり変かな?」
「うううん、すっごくかわいいよ。私より女らしいかもしれない」
「そっそうかな。なんだか複雑な心境だよ。シャナーもよく似合ってるよ」
二人は久々の再会を喜びあった。
(お父様も元気そうだし、カミールも大丈夫そうだし、よかったあ。だけど、じゃあどうしてお兄様ったら戻ってこいなんていうんだろ?)
シャナーはカミールの部屋に行き服を着替えて部屋を出ようとしたその時、部屋の前にカミールが立っていた。
「ねえシャナー、今日はここに泊まるんだろ?」
「そうだけど、じゃあ…その間、その…夜は入れ替わってもいいかな」
「えっ?どうしたの?」
「実はさっ、今日は満月なんだよね」
何か言いたげにモジモジしだすカミールにシャナーはピンときた。
「あっそっか、この部屋ってベッドのすぐ横の窓から空がみれるんだったわね。カミール月をみるの大好きだもんね。いいよ。そうだ。久しぶりに一緒に寝ようよ」
「僕はいいけど、でも殿下も来ているし大丈夫かな」
「大丈夫よ、客間は二階でしょ。またすぐに都へ戻ると思うし、いろいろ今までのこと話したいし」
「そうだね、じゃあ一緒に寝ようか。今夜はスーパームーンなんだよ。月がいつもより大きく見えるんだよ」
「そうなの、楽しみね」
二人は笑いながら応接室に向かった。
その夜はさしてお互い何も重要な話をするというような話題にはならなかった。
夕食を食べながらとりとめもない会話で終了した。
そして早々に寝室に引き上げて行った。
ただ、ラースとヴァルキリーの二人は深夜まで何かを話しあっていたようであった。
その夜は遅くまでシャナーはカミールとスーパームーンを眺めながら、長い時間互いの七か月間の事を報告し合った。
本来あるべき格好のままで
「ふぁあ~そっか今日は早起きしなくてよかったんだ。習慣って怖いわねえ~」
シャナーはそうブツブツ言ってもう一度二度寝しようとした瞬間違和感に気が付いた。
カミールのベッドは本来かなり大きく二人並んで寝ても余裕の広さがあった。
カミールが窓に近い壁際の方に寝ており、シャナーはその横に並んで寝ていたはずなのにもう一つ布団の中に膨らみがある。
シャナーが勢いよくめくってみると、そこにはラファイルが気持ちよさげに眠っているのだ。
「殿下!」
静寂な早朝に大きな怒鳴り声が響いた。
その声に驚いたカミールが飛び起きた。
「シャナーどうしたの? 大きな声を出して」
カミールが眠そうに目をこすりながら起き上がり隣に寝ているラファイルを見て思わず声を出した。
「うわっ! どっどうして殿下がここにいるんだ!」
「殿下! 起きてください、どうしてここで寝ているんですか!」
「シャナーまずいって」
カミールが必死でラファイルをゆすって起こそうとしているのを静止した。
「離してよカミール、この人はいつもこうなんだから、よりにもよってこんな所にまで寝ぼけて寝にくるなんて、何かあったらどうする気なのかしら、自覚がたりないんだから。今日は騎士もいないっていうのに」
「だからまずいって、服服」
カミールがしきりに服を指さしていうその先を見ると、昨夜レースがフリフリのピンクのナイトウエアを着て寝ていたのをすっかり忘れていたのだ。
ヤバイと気づいた時には遅かった。
「ふぁあ~おはようカミール、今日はすごくかわいいの着ているね」
その言葉に真っ赤になってまた怒鳴ってしまった。
「でっ殿下! どうしてここにいるんですか?」
「あれ? カミールが二人いる」
どうやらまだ寝ぼけているようだった。
「どうしてって、夜中に寝付けなくてな、窓を開けていたら上からお前の声が聞こえたんでな、この上がカミールの部屋か~って思いながらまた寝たまでは覚えているんだけど…どうやってここに来たのかは覚えていないな。それよりどうしてそんな可愛いかっこをしているんだ?」
「なっ何を言っているんですか? わっ私はシャナーですよ。ねっカミール」
「そっそうですよ殿下、僕がカミールですよ」
とっさにシャナーは殿下の掴んでいたパジャマを離して、カミールの横に移動してとぼけようとしたが、ラファイルが疑り深い顔をして二人を見比べている。
「確かに良く似ているけど、やっぱり違うんだな。僕が知っているカミールはお前だ!」
そう言って指さしたのはシャナーの方だった。
「そっそんなわけがないですよ。殿下」
「いいや間違いない」
ラファイはがんとして譲ろうとはしなかった。シャナーはあきらめて開き直ることにした。
「なんだ、ばれちゃいましたか、これ自分の趣味なんですよ。シャナーと一緒に寝る時はナイトウエアを入れ替えて寝るんですよ。起きた時に使用人を驚かせる為に。ハハハ」
顔が引きつるのを覚えた。
「そうか、でっどうしてカミールが女になっているんだ?」
「えっ?」
そう言われて改めて自分の姿を眺めてみると、胸の辺りまでボタンが外れていて、いつもはさらしを巻いている胸が何もしない状態でナイトウエアを着て寝た為に、ラファイルからシャナーの胸が丸見え状態になっていたのだ、その胸は明らかに大きくはないが女性特有のふくらみがあったのだ。
シャナーは両手で胸を押さえながら、立ち上がり部屋の扉を押し開こうとすると、さわぎを聞きつけた使用人やらヴァルキリーまでもが駆けつけてきていた。
そう、シャナーの誤算は窓を全開にして眠ってしまっていたことだった。
「シャナーなんだこの騒ぎは」
「おっお兄様!」
半分パニックになりながら後ずさりしようとするが、後ろを振り向くと殿下が答えを求めてシャナーの返答を待っている。
カミールも硬直して失神寸前のように青い顔をしていた。




