さあ、舞踏会へ行くぞ!
馬車は王宮殿の手前の木陰で停止した。
「カミール、ここから宮殿内に密かに潜り込むぞ」
「わかりました」
シャナーはドレスの裾を持ち上げ馬車から降りようとすると、先に降りていたラファイルが右手を差し出していた。
シャナーは左手をラファイルが差し出した手に添えると右手でドレスを持ち上げるとゆっくりと馬車から降りた。
その後ラファイルと共に宮殿内へと入って行った。
ラファイルが宮殿の中に入ると、慌ただしく行き来していた宮殿の使用人たちが驚いたような顔でラファイルとその後ろにいるシャナーを見たが何も言わず頭をさげ、ラファイルに通路を開けた。
「カミール、あっシャナーだったな。シャナーお前は僕から離れるな」
「了解しました」
シャナーはそういうとラファイルのすぐ後ろを歩きながら、少しうつむき加減でなるべく使用人と目を合わせないようにラファイルについて行った。
しばらく通路を歩くと、通路の向こうからにぎやかな人々の声と音楽が流れる音が聞こえてきた。
シャナーは久しぶりにはく靴で足元がふらついて歩くのに必死だった。
すると、いつのまにかラファイルが隣に立っていて、シャナーの腰に手をあてていた。
「大丈夫か? 僕が支えているから、ゆっくり落ち着いて歩けよ」
「申し訳ありません。このような女性用の靴には慣れていなくて」
「それもそうだな」
そう言って今まで見たこともないような笑顔をシャナーに向けた。
「じゃあ行くぞ、今夜のお前は最高に可愛いからな、注目の的になりそうだ。僕は鼻が高いよ。父上に先に挨拶に行くけど、ラベリー家の名前を出しても大丈夫か?」
「はい、この舞踏会が終わったら父には手紙を出しておきますので、おそらく妹は大丈夫だと思います」
(本人がやってるんだもんね)
シャナーは心の中で付け足した。
「でも殿下…このような舞踏会で、王族でもない一般人が殿下と一緒に参加しても本当に大丈夫なんでしょうか?」
「心配無用だ。お前は僕の婚約者候補者なのだからな」
ラファイルは落ち着きを払っていうが、シャナーの心臓は今にも破裂しそうなぐらい緊張していた。
ラファイルは公言どおりシャナーをさり気なくリードするかのように、シャナーの腰に手をあててシャナーにあわせてゆっくりと歩きながら舞踏会が開かれている大広間へと入って行った。
中では既に多くの近隣諸国の貴族や王族が集まっていてそれぞれに会話をして談笑していたが、ラファイルが姿を現すと、一斉に話すのを止め、ラファイルと共に歩いているシャナーへと視線を向け始めた。
ラファイルはそんな周りをお構いなしに、父であるハルイ国王の前までシャナーを伴い向かった。
ラファイルはハルイ国王が座っている玉座の前までくると、シャナーから離れ、一礼した。
シャナーも頭をさげたままの姿勢をとった。
「おお~ラファイルか! 噂は本当だったんだな。誰かと思ったぞ、それで、後ろにいるのは誰じゃ」
「お久ぶりです父上、彼女はシャナー・ラベリーと言います。僕が今一番愛している女性ですよ。まだ好評はしておりませんが婚約者候補の一番に上がっている女性ですよ」
ラファイルがそう紹介すると、シャナーはゆっくり顔を上げると、真っすぐにハルイ国王を向据えると、再び軽く会釈した後、自己紹介をした。
「陛下、お初にお目にかかります。シャナー・ラベリーと申します」
シャナーはそういうと、また視線を床に落とした。
「ラベリーとな、はて? どこかで聞いた名だな、今日の招待客リストにあったかな?」
「いえ、父上の急なご命令で、急遽呼び寄せました」
「何命令とな、そうか、すまなかったな、お前に想っている相手がいたとは知らなかったのでな。シャナーとか申したなもう一度顔を上げよ」
ハルイ国王の言葉でシャナーはゆっくりと顔を上げた。ハルイ国王はシャナーの顔を見るなり首を傾げた。
「そなた…どこかで会ったことはないか?」
「いいえ、初めてでございます陛下」
「そうかの?」
「父上、父上は多分僕の世話係のカミール・ラベリーと勘違いなさっているのですよ。彼は彼女の双子の兄ですから」
「カミール・ラベリーとな…おおそうじゃ、そうかあのラベリー家のご息女か、ラースからうわさは聞いておるぞ、とても優秀だそうじゃないか、ところで兄のカミールはここにきているのか?」
「いえ、僕の館の留守番に当たっておりますので来ていませんよ」
「そうか残念だな、しかしよく似ておるな、まあ、そなたの方がかわいいがな」
「父上、そんな目で僕のシャナーを見ないでくださいね。父上の側室には絶対させませんからね」
「わっははは、これはまいった。お前の口からそんな言葉を聞くとはな。そうか悪かったな、しかし、今宵はお前の花嫁候補を募集しようと多くの王女方に集まってもらったんだがな、無駄足をさせてしまったな。お前もそういう相手がいるなら早くもうせばよかろうに」
「父上が突然口走ったからでしょう。僕は彼女しか眼中にありませんからね。他の王女様方の相手は無理ですからね」
「そう申すな、今宵は舞踏会、そなたも一人に決めず、色んな女性と話すとよいぞ。婚姻は我が国の国益にも左右するものだからな」
「お言葉ですが、僕は国の為に自分を売ることはいたしません。国の為と申されるのでしたら、どうぞ父上がなさってください。まだまだお若いのですから。では失礼します」
ラファイルはそういうと、シャナーの手を掴むとスタスタと父王から離れて歩きだした。
シャナーはハルイ国王に一礼するとラファイルの後をついて行った。
「ラファイルも申すようになったではないか、よほど良い世話係がついたようだな。ラベリー家はたいしたものよのう。そう言えば、ラベリー商会が台風の影響で危ないという噂だったがどうなった?」
ハルイ国王は人ごみに紛れて行ってしまった息子を見送りながら側に仕えている側近に小声で話かけた。
「はい、今はすでに持ち直したもようです」
「そうか、確か長男が後を継いでいるらしいな。子どもが多いというのはうらやましいものよのう」
「しかし陛下、そのままにしておいてよろしいのですか?」
「なんのことだ?」
「ビアンカ王女様の件でございますよ」
「ああ放っておけ、彼女があやつに興味を抱いてしまったのだから、わしにはどうすることもできまい。わしは彼女の要望通り、多くの王家の王女を呼ぶように手配したしの、その上で、ラファイルにモーションをかけて自分が選ばれる自信があるともうしたのだからな。わしは彼女にラファイルに既に決まった相手がいるのかとは聞かれておらんしな。ラファイルがあの彼女をどう追い払うか見ものよのう。あのシャナーとか申した娘、この余を目の前にしてもびくつきもせず堂々としておったしな、こんな場に参加する度胸といい、ラファイルも女を見る目は確かなようだな。この際、本人がいいのであれば文句も言えまい。それより、王妃はどうしておるのだ?」
「はっ、お戻りになられるとは聞いておりませんが」
「そうか…いい加減独り寝にはあきたしのう…この際あやつを早く結婚させるしかあるまいな」
「しかし、王妃様が素直にお戻りになってくださいますでしょうか?」
「そのために、側室の抽選を今年は断ったではないか」
「そうでございますが、王妃様に伝わりますかどうか?」
「そうだな…彼女は気まぐれだからのう…そこがまた可愛いのだが」
「陛下、そんなに思われていらっしゃるのでしたら、ご自分から会いに行かれてはいかがですか?」
「簡単にもうすでないわ。しかし、我が息子がうらやましいのう。みよあのにやけた顔を、あんな顔をするラファイルは初めてじゃな」
ハルイ国王は全てを見通しているかのように面白そうな笑みを浮かべて二人が何やら会話しながら歩いている姿をため息交じりに見送った。




