殿下、緊急事態ってなんですか?
「お前は舞踏会には参加したことがあるのか?」
「いいえございません。あっでも大丈夫ですよ。一応ダンスはできますから。小さい頃ですけれど兄に教えてもらってよくダンスの練習で、交代で男女入れ替わってダンスをしていましたから、任せてください多分踊れると思います。ダメならリードお願いします」
「そっそうか…お前には兄がいるのか?」
「はい、上の兄は今はほとんど国外を回ってワイン販売やその他の商品の買い付けなどの仕事をしておりますので、ここ数年はあまりあっていませんけど」
「そうか」
「はい、でっ本題に戻りますよ。その緊急事態というのは、昨夜の時点では問題なかったんですよね。何もおっしゃっていらっしゃいませんでしたから。問題が起きたのは今朝なんですか?」
「そうなんだ…実は、ああ~やっぱり無理だ。思いだしただけでもかゆくなってきた~」
そういうなり体のあちこちをかき出した。
「でっ殿下? どうなさったんですか?」
「ラースお前から説明しろ」
ラファイルはあちこち体中をかきむしりながら目の前のラースに言った。
「はあ…仕方ありませんね。完結にいうとだな、今朝急に陛下が、殿下の婚約者を今夜の舞踏会で選べと言ってきたんだよ」
「はあ? なんですか急に、もしかして今日いらしている各国の王族の姫君の中から選べってことですか?」
「そうなんだ、こちら側には今朝報告が遅れてきたんだが、昨夜のうちに陛下が言っていたらしくてな。殿下の脱走さわぎで、知ったのが今朝だったんだ。まあ、近隣の王族の対応は早くてな。毎年若い独身の王女はあまり出席していなかったんだが、昨日の殿下を見た王族たちが目の色を変えて、娘を呼びよせていたらしくてな。夜までにぞくぞくと到着しているようだ。遠くから来ている王族たちは悔しがるほどでな」
「すごい人気者ですね。今までにも縁談とかなかったんですか?」
「あったさ、だけど向こうが嫌がってな、所詮男は見た目で判断されるようだな。痩せた途端このありさまだ。お前のせいだぞ! 頭が悪くてブサイクな王子は嫌だって縁談はほとんどきていなかったのに」
「なんですかそれ、殿下はわがままですけど、頭は悪くないですよね。ぽっちゃりでしたけど、ブサイクではありませんでしたし」
「わがままとはなんだ! いや今は聞き流してやる。まあ…緊急事態というのはそういうわけだ。僕を痩せさせたお前にも責任の一端はあるんだぞ!」
「申し訳ありませんね。しかしいい機会ではありませんか? 政略結婚ではなく、一応殿下が選べる立場なんですよね。一生独身というわけにはいかないんですし、この際偽物をしたてなくても、お相手探しをすればいいじゃないですか?」
「はあ? 僕はまだ17歳なんだぞ、結婚なんてまだごめんだ。それにわがまま放題の王女なんか僕の好みじゃないんだ。だいたい今回の花嫁選びにしても、きっと父上の気まぐれだろうし」
「気まぐれってなんですか?」
「跡継ぎ問題だよ」
シャナーの質問に答えたのはラースだった。
「跡継ぎですか?」
「そうだ」
「サフォンヌ家の跡継ぎは今はラファイル唯一人なのは知っているな」
「はい、陛下の妹君様のほとんどは他国に嫁がれていらっしゃいますし、殿下は一人っ子ですから」
「だが、王妃様はお体がお弱く未だに療養施設に入ってらっしゃるから陛下はもう一人お子様を儲けようと側室を毎年迎えているがこの十年の間に誰もご懐妊なさっていなくてな。今年も迎えるつもりらしかったのだが、急遽側室の募集を中止したようなのだ」
「つまり、陛下は子作りを止めて、殿下に任せるつもりってことですか?」
「そうなるな。そこで問題発生ってわけだ」
「? 普通に殿下が花嫁を探せば問題解決なんじゃないのですか? 殿下も一生独身を通したいとは思っていらっしゃっていないのですよね。 もしそうなら、嫁がれた陛下の妹君様たちの中の男子のお子さまのどなたかがお世継ぎとなることになりますよね」
「その通りだ」
「といいますと?」
「殿下自身に問題があるってことだ」
「つまり?」
「・・・」
何か言いにくいのか確信に触れるのを避けたいような感じだった。
もうすぐ王宮殿についてしまう。シャナーはだんだんイライラしてきた。
「はっきりおっしゃってください」
「さっき言っただろう」
ラファイルは少しすねている様子だった。ラファイルの代わりにラースが言った。
「女性アレルギーがあるんだ」
「はあ? 冗談じゃなかったんですか?」
(だって私女ですけど)
という心の声がでそうになるのを抑え込んだ。
「本当だ、だからラファイルの世話係や掃除係も全て男だろう」
そう言って、じっとシャナーを見つめるラースの視線を感じて、シャナーはどこまで知っているのだろうという素朴な想いにかられたが何も言わなかった。
「わかりました。このことが公になったらさすがにヤバイですね。あの陛下はご存じなんですか?」
「たぶんな」
「じゃあ陛下はそれをわかった上で花嫁選びをしろとおっしゃっているんですか?」
「そうだな、形式だけでも花嫁をめとれってことじゃないかな」
「はあ? 女を馬鹿にしてるんですか? それともただの飾りなんですか?」
「王族に生まれた定めだ」
「じゃあ、勝手に誰でもいいから選べばいいじゃないですか、双方それを理解した上で婚姻関係を望むのであれば、自分が危険をおかしてまで舞踏会に行く必要性はないですよね」
「・・・」
ラファイルはシャナーの言葉で黙りこんで視線をそらしてしまった。長い沈黙の後ポツリと言った。
「僕が嫌なんだ」
「カミール、実は今回お前に依頼したのは別の目的があるんだ。カミール、お前は隣の国に祖母が住んでいるらしいな」
「はい」
「ではロケリア王家の事は知っているか?」
「はっはい…嫌って程」
「嫌? どういうことだ」
「ここでお話しするような話ではありませんが、一部の王族は知っています」
「もしかしてビザンカ王女とも既に顔みしりなのか」
「ビアンカ…あのくそ王女!」
シャナーは右手をグーにしながら怒りのこもった声で叫んだ。
「ビアンカ王女を知っているのか?」
ラファイルとラースはシャナーの返事に驚いている様子だった。シャナーは怒りのこもった目で話し出した。
「はい、実は…あの女…家ビアンカ王女は、こともあろうにロケリアのおばあ様の屋敷に遊びにきていたお兄様にひとめぼれして、しつこくストーカー行為をしかけてきたんですよ。そりゃあしつこく、ロケリアから帰国しても屋敷に毎日のように押しかけてきて結婚を迫ったんですよ。おばあ様がどうなってもいいのか王家を敵にまわしていいのかとか脅しまがいな事までいいやがって…」
「やりかねないな…しかし、カミール、言葉の表現が下品になっているぞ」
「いいえ、あんなくそ女にはそれぐらいがちょうどいいんです。こっちが平民だからってしたてにでていたらドンドンつけあがって、困り果てたお兄様が激やせしてしまってみるも無残な姿に変貌してしまったんです。あの素敵だったお兄様が今や髪も髭も伸び放題で見るも影もない有様で、ああ~思い出しても腹が立つ、当時お兄様にはおばあ様の遠縁の家柄なんですけど婚約者がいたんですよ。すごく可憐で大人しい素敵な方が、なのにあのくそ女、その婚約者のお父様の家は破産に追い込んで、一家全員行方不明になってしまわれたんですよ。お兄様もずいぶん探されたみたいだけど、いまだに見つからないみたいで、ああ~思い出しても腹が立つ、まあお兄様の変貌をみたあのくそ女、もう用はないとかでお兄様をさんざんののしったあげく、別の男に乗り変えたみたいで我が家は平和になってきましたけど。人の家の家庭をぐちゃぐちゃにしておいて、今もノウノウと王女をしているなんて許せないんですよ。あ~ムカつく! もう二度と関わり合いたくもないです」
シャナーは右手を握りしめて最後の方は思い出しながら怒りに震えていた。
「だが、お前の祖母はロケリアに住んでいるんだろう。大丈夫なのか?」
「一応屋敷はまだありますが、それ以来、それまでは冬の間とかは屋敷に戻っていたんですけど、おばあ様も二度と王女の顔は見たくないと、死んだことにして今は偽名を名乗っているんです。今はおばあ様もほとんどそこには近づいていませんよ。ロケリアとフアマールズ王国との国境の山の中に住んでいるんです」
「なんかお前の家も大変だったんだな…あの女ならやりかねないな」
「ところであのくそ女今度はどんなことをやらかそうとしているのですか?」
「ああ、今夜お前にパートナーを頼んだ原因だ」
「?どういうことですか?」
「ああ、ロケリア国には国王夫妻を招待していたのだが、今朝、代理で来たと言って王女がやってきてな。朝からべったりなんだよ。悪いことに痩せてしまっていたからな。お前のせいで、元の体重のままだったら何も問題はなかったんだが、こう痩せてしまうとな」
チラリとシャナーを見て言った。
「あのでも、殿下は元々ずっと太っていたんじゃなかったのですか?」
「ああ、王女の目的は元々父上の側室だったようなのだが、毎年外れていたようだな。今年もそれのアピールにきたようだがこの通り僕を見つけてモーションをかけてきたんだ。あろうことか父上ににじり寄ってことわられると、さっそく僕の婚約者にしろって色々政治的圧力をかけてきたんだよ。ロケリア国は実質あの王女が政権を握っているみたいだからな。事実かなりやりてだって噂だしな。少々強引な所もあるようだが」
「ですが考えようによっては殿下があのくそ女の餌食になれば、平和になるってことですよね。そうしたら兄も安心して家に戻ってこれますよね。いい考えじゃ…フフフツ」
シャナーはラファイルに不気味な笑みを向けた。
「シャナー僕をあの女に差し出す気か?」
「でも殿下、悪い話ではないんじゃないですか? 王女は見かけだけは一級品じゃないですか」
「僕にも好みがあるんだ! あんな女タイプじゃない! お前は僕がどうなってもいいっていうのか?」
「あっ申し訳ありません。自分がかわいくて…」
シャナーは顔を近づけてきたラファイルに対して顔を背けた。
「お前は…」
何を言いかけて口ごもったラファイルの代わりにラースが質問した。
「ところで、そうなるともしかしてお前もビアンカ王女と面識があるのか?」
「はい、会ったことがあります一人ではありませんでしたけど」
そう、シャナーはカミールと一緒に会っていたのだ。
だから、今ここにいるのが本物の女であるシャナー・ラベリーだと言っても疑わないだろう。
事実そうなのだから。シャナーがそう言った後、ラースは考え込んでしまった。
その言葉を聞いたラファイルが聞き返した。
「じゃあ、お前の顔を見れば男だってビアンカ王女にばれるってことなのか?」
ラファイルの言葉に首を横に振りながら答えた。
「それは大丈夫だと思いますよ。だって自分には妹がいますから。あのくそ女が自分の顔を覚えていたとしてもこの姿をみてカミール・ラベリーとは思わないと思いますから。あったのは四年も前ですし。今日は念のため、名前もシャナー・ラベリーで通しますから。殿下今日はシャナーとお呼びくださいね」
「いっ妹がいるのか? 似ているのか?」
「はい、双子ですから」
「双子!」
驚いた顔をしているラファイルに比べて、ラースが納得がいったような顔をしたのをシャナーは見逃さなかった。
「ラース様何か?」
「あっ、いや…じゃあ、今日はそのお前の妹のシャナー嬢だということで紹介しよう。いいですね殿下」
「あっああそうだな。とにかくよろしく頼む、今朝、あの王女にまとわりつかれた所がかゆくて仕方ないんだ。夜もまとわりつかれたら死んでしまうかもしれないからな」
「それは大変ですね。痒い所を見せてください」
腕や首筋をかきむしりながらいうラファイルに顔を近づけた。
おそらく抱きつかれた時に手が首筋に触れたのだろう。赤く湿疹ができていた。
「確かに赤い湿疹ができていますね。ちょっと待ってください」
そういうと持っていた小さなバックから小さな小瓶を取り出すと、液体の何かをラファイルに塗りだした。
「なっ何を塗ったんだ? なんだか痛いぞ!」
「さわっては駄目ですよ、即効性のある塗り薬なんです。すぐにかゆみがおさまるはずですから」
「そっ、そうか」
「殿下、自分も全面的に協力いたします。よく考えたら、殿下があのくそ女の餌食になったらこの国が大変なことになりかねないですもんね。できれば関わり合いたくありませんけど、仕方ないですね全力で阻止しましょう」
シャナーはラファイルの腕にしがみつき顔を更に近づけた。
「よっよろしくたっ頼む」
ラファイルはまた真っ赤になりながら口ごもりながら言った。シャナーは笑顔で返した。
(あの女、覚悟しなさい! お兄様の恨み今日こそ晴らしてやるわ。私の大切なものをまた壊されてたまるもんですか!)
シャナーは気付いていなかった。
この時の心の声が実は声にでていたということに、その発言で更に顔が真っ赤になっているラファイルと、そんなことも全く気付く気配のないシャナーとを見比べながらラースは小さく笑うのだった。
そして安堵のため息をつくのだった。
「この分なら今夜の舞踏会はなんとかなりそうだな。別の意味で国際問題に発展しないか心配だが、そっちになったら俺の得意分野だ何とでもなるか…」




