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殿下!また女装ですか?

ラファイルの登場でカシスが用意していたサンドパンは空っぽになってしまった。

ほとんどをラファイルとベン騎士団長の二人が平らげたのだ。

ラファイルもお腹いっぱいになったのか横になって空を眺め始めた。


「なあカミール、こんな僕でも父上のような立派な王になれると思うか?」


突然、ラファイルがつぶやいた。


「どうしたのですか? 今日はやけに弱気な発言ですね」

「みんなコソコソ言っているのは知っているんだ。お前はどう思う?」


「そうですね。自分は国を治めるための心構えや帝王学など何も存知ませんが、殿下はまだ、努力というものをなさっていらっしゃいませんから、可能性はゼロではないと思います。まだ十七歳なんですから、これからの頑張り次第で可能性はあると思いますよ。天才も努力無くしてはただの人だと思いますから」


「お前にも目標が明確にあるのか?」


「そうですね…目標としている人ならいますよ。今は全然駄目駄目ですけど」


「そうか…やっぱり…ここでじゃ無理か?」

「え?」


「あっ、いや…なんでもない。ところで今夜お前暇か?」

「忙しいです」


「僕はまだ何も言っていないぞ」

「ですから忙しいと言っているんです」


嫌な予感しかしないシャナーは警戒心のアンテナが敏感に危険を察知した。


「実はな、また女装をしてほしいんだが」

「お断りします。休暇中ですので、拒否権はあるはずです」


そういうと顔を背け立ち上がった。

しかしその手を掴みながらラファイルはいっぽも引く気はなさそうな目で真剣な表情で話しを続けた。


「実はもう衣装は用意してあるんだ。母上の昔の衣装なんだが、借りて持ってきている。きっとお前に似合うはずなんだ。ドレスは一人で着れるよな、鬘も靴もそろっているぞ」


「耳掃除をなさってますか? いいですか? ぜったい い・や です。大体陛下主催の舞踏会ですよ。陛下をだますことになるじゃないですか、もしばれたらヤバイですよね」


シャナーは掴まれている手を振り払おうとしたがラファイルの手はほどけなかった。


「なんだ女装か? いいじゃないか。ばれなきゃいいことだし。お前さんなら似合うと思うがな」


カシスも何故か味方ではない様子だった。


「もう、カシスさんまで他人事だと思って…今回は絶対嫌ですからね」


(冗談じゃない、これ以上カミールの評判に傷を付けるわけにはいかないんだから、それに私までお父様に迷惑をかけるわけにはいかないんだから)


シャナーの決意はかわらなかった。だが相変わらずシャナーを掴んで離さないラファイルもまた真剣な表情を崩さず引き下がる気はなさそうだった。しばらくにらみ合いが続いた後、ラファイルが言った。


「お前の欲しかったグルグの花の種を探してやったじゃないか。僕のピンチなんだぞ、手伝ってくれてもいいじゃないか」


「そっ、それとこれとは別問題ですよ。大体自分が舞踏会に殿下と一緒に出席するのに何の意味があるんですか? パートナーならいくらでも立候補者がいるんじゃないんですか? 何も男の自分なんかが女装しなくても」


「ああ、お前には言っていなかったな。実はな、僕にはアレルギーがあるんだよ。女性アレルギーがな。普通に話したり挨拶程度のハグは大丈夫なんだが密着するダンスとなると湿疹がでて命にかかわるんだ」


シャナーは予想外の返答に一瞬戸惑ってしまった。


(アレルギー? いやいや、ここで軽く引き受けたらヤバイって)


シャナーは首を横にふり睨み返しながら言い返した。


「はあ? なんですかそれ? まっ、この際そのことは置いといて、殿下は舞踏会が初めてではないですよね。毎回どうなさっていたんですか?」


「ああ、一昨年まではそいつが女装してパートナーを務めていたんだ。去年は体調不良で辞退していたから、今年は今夜が初めてなんだよな。もうさすがにあの体系じゃあ女装はきついだろ? お前なら適任だろ。大体今からパートナーを探すのは無理があるしな、今回は緊急事態だしな」


そう言ったのはベン騎士団長だった。そしてそいつといったのはシャナーの横で寝息を立てているラースの事のようだった。


「緊急事態? そっそれより、えええ~ちょっと待ってください。たっ確かにラース様は美形ですけど、無理がありませんか? 殿下より身長が高いようですし。冗談ですよね」


「冗談? 本当だぞ。前回の舞踏会は直前で体調を崩したとかいう理由で欠席したんだ。その前は二年も前だしな。その時はラースは僕より背は小さかったんだ。今より華奢で可愛くてな鬘をかぶせたらかなりの美少女だったぞ」


シャナーは想像して妙に納得してしまった。


「というわけだ、俺も経験しているんだからお前も嫌とは言わせないぞ」

「ラース様? 起きていたんですか!」


「お前の叫び声でな。まあそういうわけだ、今回厄介な人物が急に出席することになってな。どうしても相手が必要になってきたんだ。引き受けてくれたらお前の望みをできる限り殿下の権限でかなえてやるから引き受けてくれないか?」

ラースは起き上がるとシャナーに頭をさげた。


「おいラース! なんでそこに僕がでてくるんだ」

「嫌がっているのはお前だろ?」

「そっそうだけど」


(なんか裏がありそうね。だいたい女性アレルギーなんてあるんだったら、とっくにヤバイ状況になってるはずじゃない、私女なんだし。だけど緊急事態ってのも気になるしな)


疑り深い顔でラファイルを睨みつけて渋っていたが、ある事を閃いた。


(そうだ、一度女装しているし、二度しても同じかな、もし私が本当の女だってバレたら、謝ればなんとかなるかな。さすがに死刑ってことにはならないよねえ。国外追放になったらおばあ様の所に戻れば済むことだしね。ああもう…やるしかないかな! お父様、ごめんなさい)


「わかりました。では条件が二つあります」


「二つ? なんだ?」


「一つ目は本当の事を教えてください。対策をたてますから」


「二つ目は植物を栽培できる温室を提供してください。できれば光の当たらない地下室みたいな空間もある建物が理想なんですけど」


「お前なあ、たかが女装ぐらいでその条件は高すぎないか?」


「そんな事はないと思います。もし女装だとばれた時、一生女装癖があるという噂を背負わないといけないリスクがあるんですよ。それに自分だけで罪が済めばいいですけれど、一家にも害が及びかねないですしね。女装とはいえ、招待もされていない自分が女装までして陛下主催の舞踏会に出席するんですからかなりのリスクがあると思うんですよ。前回とは危険度は桁違いですよ。ですからそれなりの報酬をいただかないとわりにあいません。たとえばこの館の隣の建物なんて何も使っていないようですよね。ちょうどその横の建物の裏側の庭に小さな温室みたいな全面ガラス張りの建物みたいなのがあるじゃないですか? 誰も使っていないようですけど」


「ああ…あそこか、確かにあるが、あそこは先代の王妃様が使われていた温室で、亡くなられてから誰も使っていないから今はどうなっているかわからないしな、陛下の許可が必要になってくるんだ」


「陛下の…じゃあ無理ですね。今回の件はあきらめてください」


ニヤリとした顔でシャナーは頭をさげた。


「わかったよ、僕が父上に頼んでみるよ。頼むカミール時間がないんだ。正直に説明するから手伝ってくれよ」


シャナーはいつもの軽いいたずらが目的ではなく、かなりこまっているという様子が感じられたため、腹をくくることにした。


(正直陛下の舞踏会でうそがばれたら、お父様たちに迷惑がかかるかもしれない。でもこんな真剣な殿下も初めてだし…なばれないように慎重にしなきゃ)


「…仕方ないですね。約束ですよ」

「わかった約束する」


シャナーは正直驚いていた、まさか許可がおりるなど思ってもみなかったからだ。


(ヤッター! あの温室って前から気になっていたのよね。この際カミールには悪いけど利用しない手はないわ。後半年しかいないけど、その間にあそこでグルグの種が開花しやすい環境を作れるかもしれないもの。光と影の場所を作ることができたら、ここから近いから水やりにもちょうどいいし、他の植物も育ててみたいし。でももしばれたら…ああどうしよう)


シャナーは不安と期待が入り乱れ、複雑な心境のシャナーだった。




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