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ピクニックはいい気持ち

シャナーは残りの休日の一日をラファイルがとってきたグルグの種を鉢植えに蒔いたり、収穫した薬草の乾燥する段取りをしたりして館でのんびり過ごした。

お昼にはカシスと館の裏庭にシートをひいてお弁当を食べながらカシスの昔の旅の話を聞いた。


「あの、ところでカシスさん、二人だけなのにどうしてこんなに量が多いのですか」


シャナーは目の前に置かれているいろんな種類のサンドパンに視線を向けながらたずねた。


「なあ~に、来客が来るかもしれないと思ってね」

「来客ですか? この館って普段でも来客なんかきたことありませんよね」


そう言って首を傾げているシャナーにカシスはほほ笑むだけで誰が来るとは言わなかった。

しかし、その答えはすぐにわかった。


「あ~やっぱりだ! お前らだけでうまそうなサンドパンを食べてるなんてずるいぞ!」


声の主はラファイルだった。

昨夜、残の一日はシャナーはラファイルにもう森には行かず大人しく館で留守番をしていると話していたので、さすがに今夜の舞踏会の準備で来ないだろうと思っていただけに食べかけのサンドパンを落としそうになった。

驚いて固まっているシャナーの横にどかっと腰をおろしたラファイルは早速サンドパンを手に取り食べ始めた。


「カシス、これはうまいな! いつもと味が違わないか?」

「おわかりですか? ケーキ用の生クリームや果物が余っていたので挟んでみたんですよ」

「ケーキよりいいな。今日は朝から愛想笑いばかりしていたからなちょうど甘いものが食べたかったんだ」


ラファイルはおいしそうに勢いよくサンドパンを口にほうばり続けた。


「あっあの殿下! またぬけ出してきたのですか?」


「カミール、僕が何度も同じことをすると思うのか? 今度はきちんとぬけ出す前にラースに声をかけたぞ、黙ってぬけ出してきたんじゃないからな。あいつらもすぐにくるはずだぞ、こっちに用事もあるしな」


「そうでしたか、学習しているんですね。偉いですね殿下!」


そう言ったシャナーに口にいっぱいいれて膨らんでいる顔のまま、シャナーをじっとみてもごもご言った。


「おっお前は、はにか? ほくをはかにしているのか?」


「殿下、口にものを入れながらしゃべるのはやめて下さい、お行儀が悪いですよ。何を言ってるのは全然わからないじゃないですか」


シャナーに言われてラファイルは口に入れたものを飲み込むと言い直した。


「お前は僕を馬鹿にしているのかって言ったんだ」


「いいえとんでもありません。少しおバカだなと思うふしもございますが、記憶力もよろしいようですし、学問も既に習得なさっておりますし、とても優秀なお方だと思っていますよ。ただ…」


「ただなんだ…」


「人間的には少し人に対する配慮に欠けるふしがある気はしますけど」

「僕はまだ王子だからこのぐらいでいいんだ」


「いいえ、ゆくゆくはこの国の王となられるのですよ。いつまでもこのままではいい王様にはなれませんよ」


それを聞いたラファイルがじっとシャナーの顔を見ながらポツリと言った。


「じゃあ、いい王になれるようにお前が指導してくれればいいじゃないか」


ラファイルの言葉にいいですよと言いかけた言葉を飲み込んだ。

自分は後半年で出て行く人間なのだ、軽はずみなことは言ってはいけないのだ。


(私は男として殿下におつかえしているんだ。後半年したら二度と会うことも、こうして並んで一緒に食べることもないんだろうな。なんだろう…このモヤモヤとした気持ちは…せいせいするはずなのに)


シャナーはそんな事を考えていると、ラファイルは再び口にたくさん放りこんだまま、無言で残り少なくなっている生クリーム入りのサンドパンをシャナーの目の前に差し出した。シャナーはそれを素直に受け取ると、並んで食べ始めた。


(まあいいか…今は食べよ。ここで食事なんかもうできないかもしれないもんね)


目の前に広がる青い海を眺めながらシャナーはもくもくと食べることに専念した。

そうこうしていると、いつの間にか、後ろにラースとベン騎士団長の二人が立っていた。


「殿下! いい加減早くしないと時間がありませんよ」


「お前はせっかちだな…心配しなくてもご婦人がたのおしゃべりはきっと舞踏会まで続くって、そんな所に立ってないでお前も食えよ、どうせ何も食べてないんだろ」


そう言ってまだ半分以上残っている別のサンドパンをラースに差し出した。


「そうか、じゃあ遠慮なく」


そう言ってそのサンドパンを受け取ったのはベン騎士団長だった。

ラースと違ってベン騎士団長は遠慮なくずかずかとラースをすり抜け、カシスが座っている隣にドカッと座り、ラファイル同様にガツガツ食べ始めた。


「おいベン! 僕はお前には進めていないぞ! お前は朝、王宮殿の地下食堂で食べてるんだろ」


「おいおい、俺だけ邪魔もの扱いかあ? あんなの食べた内にはいるかよ。たく! 王族ってやつはしょうもないことで文句ばかり言いやがって、朝からこの俺様が使い走りみたいな事で宮殿内を走りどうしだったんだからな」


「ベン騎士団長もラース様もお疲れ様です。あの~、殿下はこの通りまだ動きそうにありませんし、そこに立ってる時間がもったいないですよ。舞踏会の間もどうせ何も食べられないでしょうし、ラース様も食べられるうちに食べておきませんと体がもちませんよ。昨夜もどうせどなたかのせいでほとんど寝ていらしていないんでしょ。少し食べたらお昼寝してはいかがですか? ここなら誰にも見られませんし、ほんの少しのうたた寝でも体の疲れはずいぶんとれるものですよ。体の疲労にきく薬膳茶もありますから」


シャナーは建物にもたれるようにして立ったままのラースに向かって予備用のシートを隣に敷きながら自分の横に置いてあった瓶から薬膳茶をカップに注ぎ込みながら言った。


「そうだぞ、舞踏会で居眠りなんかしてみろ、後々うるさいぞ」

シャナーとラファイルの言葉にしばらく考えていたラースだったが思い直したのか、シャナーが敷いたシートの上に腰をおろした。


「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらおうかな。殿下が食べ終わったら起こしてくれ」


ラースはサンドパンを三個受け取り、軽く食べると、シャナーから薬膳茶を受け取り一気に飲み干すと、両手を頭にしき目を閉じた。

その瞬間にもう規則正しい寝息が聞こえてきた。


「ラース様、かなりお疲れだったんですね」


「そうだな。あいつは一人で全部完璧にしようとする悪い癖があるからな。もう一人そいつみたいな奴がいればいいんだけどな」


(ラース様ってカミールと似ている気がするんだよね…きっとラース様と気が合うと思うんだけどな。無理だよなぁやっぱり…入れ替わりなんか)


シャナーは隣で寝息を立てているラースを眺めていると、急にラファイルの顔が目の前近づいてきていた。


「わっ、ビックリした! 殿下、急に顔を近づけないでください。心臓に悪いですから」

「なんだよ、どうしてラースには薬膳茶をやって僕にはないんだ。僕も疲れているんだぞ!」

「いいんですか? 苦いですよこのお茶」


シャナーはドキドキする心臓の音を抑え込もうとしながら薬膳茶を注ごうとした。


「あっやっぱりいい。僕はミルクで十分だ」


そう言って砂糖たっぷりのミルクを慌てて口にした。


(こんな日がまたあればいいのにな)


そう…そうやってシャナーの休日は穏やかに終わるはずだった。この瞬間まではそう信じて疑いもしないシャナーだった。




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