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どうして殿下がいらっしゃるんですか?

シャナーはその後塔の中に連れていかれ、椅子に座らされた。

後から追ってきたカシスもシャナーを心配してシャナーのすぐ横に立って心配そうに見守っていたが、数人の騎士たちに周り囲まれ、あまり広くもない見張り塔の中はギュウギュウ状態で逃げようにも入り口にも騎士が立ち完全に拘束されていた。


逃げる理由もないのだが、どうしてこんな事態になってしまったのかいまだにどんなに考えても理解できなかった。

いろいろ考えを巡らせていると勢いよく扉が開き、慌てた様子のラースとベン騎士団長が飛び込んできた。


「やっとみつかったか」


「ラース様、ベン騎士団長様、あの…これはいったいどういうことでしょうか?」


「ああ驚かせてしまったな、緊急事態がおきてしまってな、詳しい説明をする時間がなかったんでとりあえずお前の確保を命令してもらったんだ。悪かったな。せっかくの休日なのにな」


いつも冷静なラースの様子が心なしか取り乱しているようにも見えた。


「いえ、でっ何か緊急事態が起きたのですか? まさか殿下の身に何か」

「実はな、殿下が王宮殿を脱そうしたんだ」

「えええ~脱走? どうしてですか?」

「すまん、俺の判断ミスだ!」


ラースがカミールに向かって頭をさげながら言った。


「それはどういうことですか?」


「さすがに今回は逃げないだろうと思ってな、お前がカシス料理長と森へ行った事をつい話してしまってな。念のため監視を強化させていたんだが、隙をつかれて部屋から逃げられたんだ」


「あの…もしかして殿下は森へ来てるってことですか? 自分に何か御用があったんでしょうか?」


シャナーはどうして殿下が森にきていて、それに対して自分が拘束されているのかがまったく理解できていなかったが、ラースもベン騎士団長もラファイルが森に向かった理由が理解できているようだった。カシスさえも、わかっていないのはシャナーと全く状況を理解できていない普段のラファイルをしらない陛下直属の騎士たちだけだった。


「理由は単純だな」


「ベン騎士団長、それはどんな理由なんですか? 明日も大切なご公務があるんですよね。そんな大切な夜に出歩くなんて、殿下は何を考えているんでしょうか?」


「たぶん本能のまま生きてるんだろうな」

ベン騎士団長は両腕を前で組んで言った。


「本能ですか?」

ベン騎士団長の言葉を繰り返したがどうも理解できないシャナーは首をかしげていた。

そんなシャナーにベン騎士団長が付け加えた。


「自分がこんなにしんどいめにあってるのにカミールは森に行って遊んでいる。自分も行きたい…なんていう具合の単純明快な理由なんじゃないのか」


「なんですかそれは! 大体今日の休暇をくださったのは殿下ですよね。それに自分が森へ行こうと決めたのは今日の朝の事で誰も知らないはずですよね」


「ああそのことなら、森へ向かう二人の姿を見かけたと報告を聞いていたんでな。殿下の場合は思惑がはずれたんだろうね」


ベン騎士団長はサラリと言ったが、この広い王宮領内、召使の二人の行動も把握しているのかこの人はと、驚きの表情を向けるシャナーにニヤリとした顔をするベンと視線があい慌てて下を向いてしまった。


(私やっぱりこの人苦手だな…なんだろう女だってことも全部バレている気がするんだよね。ソフィー様の夫だしな…だけどまったく人騒がせな人なんだから殿下は、そんなに森へ行きたいなら何も今日じゃなくてもいいのに、わがままなんだから。森なんかにきて殿下は何をするつもりだったんだろう。殿下の思惑ってどういうことかしら)


 シャナーがぼんやり考えているとベン騎士団長が顔色を変えて騎士たちに指示をだした。


「それより、まずはあの脳内花畑を確保しない事にはな。俺達も早く王宮殿に戻って通常の警備をしないといけないしな。おい、お前らいいか、あのバカでもさすがに西側ルートには行っていないと思うから中央の道からこっち側までの間でカミールが東の塔の辺りでおいしいもんを食いながら野宿しているらしいって大声でいいながら歩き回ってこい! 俺達の動きを警戒して隠れているが目的のカミールのいるここには姿を見せるはずだからな」


「あの、そんな単純なわなにかかるんですか? 自分は餌なんですか?」


シャナーはあきれ返って反論した。さすがの殿下もそこまでは馬鹿ではないはずだ。



しかし、馬鹿だったようだ。単純がつくほどに…。


ベン騎士団長の作戦にのることにしたカミールは当初の目的とは違ってきたがカシスと共に、東の塔の前で小枝を集めてきて、火をおこし、東の塔にあった鍋でカシスと共にキノコ汁を作って殿下が姿を現すのを待っていた。


もちろん、ラースやベン騎士団長は塔の中に隠れていたが、塔の前にはカシスと二人だけで暖をとっていた。

しばらく何も起らなかったが、獲物はすぐにわなに近づいてきた。



「やっやあ! こっこんな所であうなんてぐっ偶然だな」


茂みの中から出てきたのは髪に枯れ葉をたくさんつけたラファイルだった。


「でっ殿下⁈」

「殿下どうしてこちらにいらっしゃるんですか? もしかしてお一人でいらしたんですか?」


「もちろんだ。ぬけだすのが大変だったんだぞ!」


「なっ何をしているんですか! 明日はパーティ―があるんですよ。各国の王族の方々もぞくぞくときていらっしゃるんですよ。こんなところに来ている場合ではないでしょう」


つい声を荒げてしまった。

ここで逃げられたらもともこもないというのに感情がおさえられなかった。


「いい加減にしてください。子どもじゃないんですよ。大勢の方に迷惑をかけて」


「僕が夜に何をしようと僕の自由だろ。騎士の奴らが何をしようと僕には関係ないね。だいたいお前が面白そうな事をしているって聞いて王宮殿でおちおち寝てられるか、そっそれにだ、ちゃんと出迎えの挨拶はやり遂げたんだカミール、今日僕は頑張ったんだぞ!」


「はあ? 当たり前じゃないですか。陛下主催のパーティーなんですよ。いいですか! 王子であるあなたは招待客を接待する義務があるんですよ。お客様方がもうお休みの時間帯だとしても、何かあればすぐに駆けつけなくてはいけないお立場なんですよ。早く今すぐ戻ってください」


シャナーは立ち上がり、そばまで近づいてきたラファイルに向かって厳しい顔つきで睨みつけながら言った。


「嫌だ! お前も一緒に王宮殿に来るっていうなら戻ってもいいけどな」


「はああ?」


「小さい子どもじゃないんですから、自分が行ったところで何になるっていうんですか? 使用人が殿下と並んでパーティ―に出席なんてできませんよ。それにお忘れですか? 自分は今休暇中なんですよ。この仕事をしてから初めての丸まる二日間の休暇なんですよ。どうして仕事に戻らなくてはいけないんですか! 自分にだって休みが欲しいんです。殿下がどこで何をしようと自由ですけれど、今は自分は休暇中ですので、じゃまはしないでください。休みの間まで殿下のお世話は嫌です」

「・・・」


ラファイルは頭の葉も払おうともせず、ムスッとした顔でじっとシャナーの顔をみながら、くるりと向きを変えてスタスタと歩きだした。


「おい、待てラファイル!」


ラースが扉から飛び出し、ラファイルをつまもうとした時、ラファイルがラースとベン騎士団長に気付き、すごい形相で再び森の中に走り去ってしまったのだ。

騎士たちも後を追いかけ森の中に消えて行ってしまった。


「ああ~どうしてあんな事をいっちゃったんだろ。どうしよう、せっかく姿をみせたのに…でも殿下もどうしてこんな事をするんだろう。こんな森に来たって殿下の好きな事何もないのに、ああ~またやっちゃった…このまま殿下が捕まらなかったら私の責任だぁ~どうしよう」


シャナーははっとして自分が言ってはいけないことを言ってしまったことに気が付いて頭を抱えながら落ち込んでしまった。すると、カシスがシャナーの肩に手をあてて言った。


「そう気を落としなさんな。殿下がお前さんに何を求めているのかわからんが、きっと殿下はお前さんにほめてもらいたかったんじゃないのか? きっとお寂しいんだと思うよ」


「寂しい? あんなに毎日好き勝手をしてわがまま三昧の毎日を送っている殿下がですか? 全てが自分の為に世界が動いてるって本気で思っていますよね殿下って。そんな殿下が寂しい? 何を寂しがる必要があるんですか? 全て手にしているのに贅沢です」


「そうかのう…。お金や地位では手に入らない物もあるんじゃないのかい。殿下はお前さんにそれを求めているじゃないのかい?」


「自分の自由になるおもちゃって意味ですか?」

「いや、愛だよ」

「愛…ですか?」


「そうだよ、頑張った自分をほめて欲しい。いたずらしたら叱ってほしい。人間なんて所詮寂しがり屋なんだよ。特に殿下はな、幼少の頃から愛情にうえていたんだろうな。陛下も王妃様もあまり殿下には感心を示されてこなかったご様子だしな。ようやくすぐに逃げ出さずにあれこれ世話をやいてくれるお前さんが現れたってわけだ」


「寂しいですって? 私だって愛情なんてお母さまから受けたことはなかったわよ。でも…私にはカミールがいつもいたっけ…最近まではおばあ様といつも一緒だったし」


シャナーは小さな声でつぶやいた。


「カミール、今日は僕は頑張ったんだぞ」


誇らしげに言ったラファイルの顔が頭からはなれない


「まるで子どもなんだから…」


そういうとシャナーは走りだしていた。シャナーの後を追ってドリマーも駆け出した。


「ねえドリマー、ラファイルの後を追いかけてちょうだい」


シャナーの言葉を理解したのか、ドリマーは真っ直ぐにラファイルが走り去った茂みの中に入って行った。


「さて、せっかく保存用にしようと思っていたが、みんなが戻った時用にたくさん作っておくかな。とっておきのだしも持ってきて正解だったな」


カシスは全員が戻ってきた時用に鼻歌を歌いながら塔の中から大鍋を探してくると、大きな石を集め簡単なかまどを作り、特製キノコ汁を大量に作り始めた。






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