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休暇だぁ!

「殿下!! 聞いていませんよ! どうしてこんな事をしないといけないんですか?」


シャナーは顔を引きつらせながら隣で笑顔でいるラファイルに向かって抗議した。


「どうしてかって? 僕が欲しいからだよ。何も難しいことをしろとは言ってないだろ? お前がいう笑顔で過ごしているじゃないか?」

「はあ?意味合いが違いますよ。どうしてこんな事を自分もしないといけないのかとお聞きしているんです」


そう言って顔をラファイルに向けようとしたその瞬間鋭い声が飛んできた。


「動かないで!」

「はっはい!」


シャナーは顔を引きつらせながら作り笑顔をその声の主に向かって向けた。

シャナーが作り笑顔を向けた先には画家らしき人物が白い紙に似顔絵を描いている最中だった。

じっとしていろと言われれば言われるほど、ムズムズとしてくしゃみがでそうになるのを必死に我慢していた。


「くしゅん!」

「動かないでくださいって言ってるでしょ」


「すみません…」

(まったくどうしてこんなことしなきゃいけないんだろ)

シャナーは心の中でブツブツ思いながら聞き返した。


「殿下、どうして自分が殿下と並んで絵の中に納まらないといけないんですか? しかもこんな格好で!」

「だから、僕が欲しいからだ」


シャナーの質問に対して返ってくる答えはシャナーの納得のいくものではなかった。

シャナーがいうこんな格好とはドレス姿の事を言っていた。

本来のシャナーとしてなら何も問題はないのだが、今は男のカミールが女装して殿下と並んで絵の中に納まろうとしているのだ。


(カミールに知られたら、私一生カミールに合わす顔がないかもしれない…)


顔を引きつらせながらシャナーはこの苦行を耐えることにした。

抗議なら十分したのだ。でも聞き入れる殿下ではない。

しかもラース様やベン騎士団長までもがグルのようなのだ。

何か裏がありそうなのだが、簡単に口をわってくれる相手ではないのを十分承知していた。


しばらく考えて怒りを納めることにした。


(まあいいかあ…これが終われば休みがもらえるらしいし、そう言えば宮廷画家みたいな人がいるって聞いたことあったしな。殿下のことだから、急に思いついて強引に描かせているんだろうな…まっ最悪辞める時に顔の部分を黒く塗りつぶせばいいかな。どうせ殿下の館に飾る用だろうし。ここは早く終わるのが一番かな)


シャナーはいったん腹をくくると本来楽観的な性格の為、起こってしまっていることや先の事を考えて思い悩む性格ではないシャナーなので、シャナーはとりあえず早く終わることを最優先に動かないように笑顔を作って耐えた。


頭の中では既に休日をどう過ごすのかを考えてワクワクしていた。



それからまたいつもの日常が戻ってきていた。

殿下やラース様からはまる一日の休日がいつくれるのかまだなんの返答もないまま日々が慌ただしく過ぎていった。


そんなある日の夕方、その日は二日後定期的に王宮殿で開催される陛下主催のパーティーの準備の為に、ラファイル館の使用人たちも陛下の住む王宮殿に招集されていたのだが、なぜかラース様から館の留守番を任されてしまったのだ。

だが、出かける時は鍵をしていくようにと中央玄関の鍵を渡されたのでたずねてみた。


「あのラース様、これって明日はお出かけをしてもいいってことなんですか?」


「お前の自由意思に任せる。我々は今夜から王宮殿に行くことになるから、殿下の夕食が終わったらお前は明日と明後日の二日間は自由だ、食事とかは冷暗所に残っているものは自由に使っていいぞ」


ラースから耳に入った言葉を理解するのに時間がかかったが、ようやくその真意が休暇だとわかって顔が急に笑顔になった。


「ありがとうございます。あのこれは休日ということでいいんですよね。でも自分だけ王宮殿に行かなくても大丈夫なんでしょうか?」


「ああ大丈夫だ。お前が来ても王宮殿ではすることがないからな」

「あの殿下のお世話は大丈夫なのでしょうか?」


「心配するな、王宮殿にも殿下専用の世話係がつくことになっているからお前が行くと彼らの仕事がなくなるからな」

「そうですか、わかりました。鍵はお預かりしてでかける時は鍵をかければいいんですね」


「ああ、それからまだ誰にするかは決まっていないようだが、お前の他にもう一人留守番が決まったら報告してやるからその者と相談して、もしその者が出かけないようなら鍵をあずけてでかけるようにな」

「わかりました」


その日の夜シャナーは館の使用人たちがそろって館をでるのを見送ると全ての館の鍵を確認しかけてまわった。


この館で寝ている騎士たちも出て行ったために誰が残ったのかわからずじまいだった。

ただラース様が料理人の誰かに決まったようだということだけは聞いた。


(まあいいか、厨房に行けばいるかな)


早朝、シャナーは早速以前から計画していた森へ出かける為にお弁当を作ろうとに厨房におりて行った。

すると料理長のカシスが頭を抱え普段使用人や騎士たちが食事をする食堂の椅子に座っていた。


「あれ? 留守番当番ってカシスさんに決まったんですか?」

「ああ、カミールか…はあ…そうなんだ。ついてないよ」


調理場に顔を出したのがカミールだとわかってもいつもの笑顔ではなく、再び大きなため息をついてまた丸い小さな椅子に腰を下ろして、ため息をついて下を向いてしまった。


「あの顔色が悪いですよ」


「心配いらんよ、王宮殿に調理に行くことを楽しみにしていたもんでな。まさかわしが留守番とは…はあ…あっお前さんは出かけていいぞ、わしが留守番しているから。わしと違ってお前さんはやりたいことがあるんだろう? わしの事は気にしないでいいから」


シャナーは明らかに落胆しているカシスを心配そうにみながらなんて声をかけていいのか戸惑ってしまった。

しばらく隣に腰をおろし考えあぐねていた。

そして思い切って言ってみた。


「ものは考えようですよ。休暇がとれたと思えばいいじゃないですか? 二日間も何もしないで過ごすなんて時間がもったいないですよ。誰かに会いに行ってもいいじゃないですか?」


「もったいないか…しかしなあ、わしは一人もんだからな。どこかへ行けと言われても訪ねていく場所がないしな、趣味は料理だし、その料理をするなと言われたら、何をすればいいかわからなくてな」


再びため息をついて落ち込んでいるカシスをみて気の毒になってきた。


「あの…じゃあ、他の人に変わってもらえばよかったんじゃないんですか? 休みたい人はたくさんいたのではないのですか?それに料理長がいなくても大丈夫なんですか?」


「王宮殿ではわしの地位なんて下っ端もいい方だ、だが腕の見せ所だったんだよな。はあ…まあわし以外のみんなはうらやましがられたけどな。毎回留守番をしたいという希望者が多くてな、公平性を保つために、くじ引きで決めるんだが、他人に譲ることは禁止されているんだ。今回はお前さんは休暇なしでずっと働いているから優先的に一人先に決まっていたんだけどな。まさかもう一人に俺が当たっちまうとはな、はあ…」

「そうだったんですね」


シャナーは相変わらずため息ばかりついて落ち込んでいるカシスを気の毒になってきた。そこである事をひらめいた。


「じゃあ、自分と一緒にお弁当を作って森に行きませんか? 休暇を貰えたら森を存分に散策したいと思っていたんです。森の草の採取は陛下に許可を頂いていますから心配ありませんし、実は探したい草があるのでカシスさんも手伝ってくださるとたすかるんですけど…なんて…駄目ですよね。疲れるだけですもんね。ははは冗談ですよ」


シャナーは言った言葉を笑ってごまかそうとした。


「弁当か…いいかもしれんな、お前さんが探したいっていうのは前々から言っていたグルグの花だろ? そういえば昔師匠に確か、大岩の下にたくさんあるって聞いたのを思い出したんだが、ここにいても暇だし探すの手伝おうか?」


「えっ?いいんですか?」


「ああ、今でこそここで料理長をしているが若い頃は世界中をリュック一つで旅をしていたんだ。野宿は慣れている。そうと決まれば早速わしは弁当を作るか」


「あのお弁当なら自分が作りますから、カシルさんは座っていてください」

「な~に大丈夫だよ。俄然元気が湧いてきたよ」

カシスは立ち上がると笑顔をシャナーに見せた。


「わかりました。じゃあ自分はドリマーに餌をあげてきます。一緒に連れて行ってもいいですか?」

「ああ、大丈夫だ。そういやあ…わしの師匠も森に行くときは必ず犬を連れていってたっけな。どうしてだか知らないけど」


「たぶんですけど、迷わない為じゃないですか、それに犬って鼻が利きますもんね。グルグは昔一度見つけたことがあってそれを乾燥させてお守り用に少し持っているんです。グルグは乾燥させてもすごくいい香りが持続するんです。その匂いをドリマーに嗅がせたら見つけてくれるかもしれないですしね」


「そいつはすごいな、グルグの花はめったにお目にかかれない貴重な野草だからな、この国でも高級品だ。お前さんはどこで採取したんだい?」


「ロケリア国です。でもロケリア国でもグルグの花は貴重な品ですから、なかなか見つけることができないんです。私も見つけたのは一度きりです。それも森の中を10日間もさまよった時だったですけどね。だから、この森にあるかもしれないと師匠に聞いて機会を見つけて是非とも探したいと思っていたんです。でも中々時間がなくて」


「ロケリアかあ、あそこのグルグの花は最高だからな、料理に入れてもいいし、確か薬剤にもなるんだろ? 調合の仕方によって」


「はい、私の師匠は今その研究をしているんです。だから、もしここで手に入るんだったら、この館で栽培できないかと思っているんです。ちょうどグルグは今時種を地面に放出する時期なんです。運よく見つけることができたら種を採取できるかもしれないんです。以前に見つけた時は種を放出した後だったので、種の収穫はできなかったんです」


「種か…地面に落ちてないのかい?」


「グルグの種はとても軽いので、小さな種袋が開くと、風に乗ってあちこちに飛んでいくんです。でも、たくさん放出した種もきちんと育つのは数少ないと聞いているんです。栽培するのはとても管理が難しいんです。いつもジメジメした場所でかつ光も適度に必要になってくるんです。それにグルグの実はおいしいので、動物たちの大好物なんです。ですから中々種の放出までいかないんです」


「やけにくわしいんだな。結論から言うと探しがいがあるってことだな。よし、今夜は野宿覚悟で行こうじゃないか。そうとなれば夜用の弁当もいるな。確か師匠が種の放出は夜って言っていた気がするからな、毛布持参だな。この王宮内に盗賊は現れないだろうから、野宿しても心配ないだろう。まっ動物や虫はよってくるかもしれないがな。わっはっは!」


そういいながらカシスは豪快に笑い出した。


「じゃあ、虫よけの薬草液を体につけておかないといけませんね。楽しみですね。準備してきます。お弁当お願いします。あっドリマーの分もお願いしてもいいですか?」


「ああ、グルグ探しには一番頼りになる奴だからな。気合をいれておいしい弁当を作っておくよ」


カシスは既に調理器具を取り出すと、冷暗所から残っている食材を運んできながら笑顔で返事をした。


シャナーはカシスに頭をさげると勢いよく厨房を飛び出して行った。

久々にワクワクしている自分がいた。

シャナーは急いで自分の部屋に戻るとドリマーに餌をあげながら頭を撫でて話しかけた。


「ねえドリマー、すごいのよ。今夜は森で野宿よ。お前もグルグ探し手伝ってね」

「ワン!」


ドリマーはシャナーの言葉が理解しているのかしっぽを振りながら一気に餌を食べ終わると、シャナーの頬をペロペロ舐めだした。


「お前の餌もカシスさんに頼んでおいたからね」


「ワン!ワン!」


ドリマーは嬉しそうにリュックに必要なものを詰め込んでいった。

そして夜に備えて温かいブランケットも小さく折りたたみ、リュックに詰め込んだ。

そして、帽子をかぶり、いつも植物採集に行く服に着替え、上着も羽織った。



その頃王宮殿では、ラファイルが早朝から続々と来城する周辺国の王族の招待客の相手をしていた。


「おい、カミールの様子はどうだ? 報告がきたか?」


イライラしながら隣に控えているラースに言い放った。


「ああ、さっき報告がきたよ。どうやら、カシス料理長と森へ行くようだな」


「何! カミール一人じゃないのか! お前がカシスのじーさんなら館からでないから、カミールも森に行こうなんか考えないだろうって言っていたじゃないか。だから僕はここにきたんだぞ」


「俺は、かもっていっただけだ。俺は預言者じゃないんでね。カミールがどんな行動にでるかなんかわかるわけないだろう」


「僕はそんなことを聞いてるんじゃないんだ。くそーこんな所から早くぬけ出して、僕も森に行こうかな」

「何を言ってるんですか? 王族が出迎えないでどうするんですか?」


「じゃあなにか? もし今ここで僕が倒れたらどうするんだ? 僕はここで寝ながら招待客を出迎えろっていうのか?」

「今、ピンピンしてるだろ?」


「もういい、お前の言葉を信じた僕がバカだった」


ラファイルは続々と来城してくる来客に笑顔で対応しながらラースに言った。

ラースも笑顔で対応しながらももう一度くぎを刺した。


「俺を信用するしないは勝手だが、勝手にぬけ出すことはやめてくれよ」

「・・・」


ラファイルはあえて無視をした。そんなラファイルの背中を見ながらラースは一物の不安を覚えるのだった。


(こいつは本当はカミールが女だと気付いているんじゃないのか? しかし、あいつが女だと分かっても、魅力は微塵も感じないんだが…コイツの好みがいまいちわからないんだよな。女嫌いも筋金入りだしな。はあ…とはいえ、今はまだあからさまにカミールが俺が最初に面接したあのカミールとは別人だということをバレさせるわけには行かないしな。今夜は徹夜になりそうだ)



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