↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
26/27

伝説の金槌がほしくなりまして・・・

「……えっ、もう朝!?」


 窓とリーナさんを交互に見る。

 朝の光が作業台を照らし、外からは馬車の音まで聞こえてきた。


「エリシア。昨日は、休もうって話したよね?」


 リーナさんのジト目が痛い。


「つ、つい……」


 私は、そっと目を逸らす。

 視界の端では、空気を読まずに作業台で木べらがぐるぐると回っている──もう少しで立派なアイスクリームが出来上がりそうだ。


「……で、それは?」

「よくぞ聞いてくれました! これ、材料を入れるだけでアイスが作れるんですよ。混ぜる速さも、滑らかさもバッチリ──」

「それはあとで聞く。今は寝て」


 リーナさんは、私の手からひょいとペンを取り上げた。


「あっ、待ってください。持っていくための箱だけ、作っておかないと!」

「なら、この魔道具ごと持っていけばいい。着いてから作れる」

「なるほど……!」


 言われてみれば当たり前だけど──試してみたいな、冷凍箱。


「エリシア?」

「はい! 寝ます!」

「ん、よろしい」


 さすがに、これ以上粘ったら本気で怒られそうだ。

 私はソファに腰を下ろし、背もたれに身体を預けた。


***


 ──次にはっきりと目を覚ましたとき、目の前を雲が流れていた。


「……!?!?」


 ガバっと起き上がる。


(あれぇ……?)


 ガルドさんたちが来たところで、一度起こしてもらったような気がする。

 夜のあいだに作ったアイスは、出発前に皆で平らげた。


 ソファを空に浮かべ、行き先を定めたところまでは覚えている。

 ……そのまま、こてんと寝落ちしたらしい。


(いざというときのために、やっぱりエナドリを作らないと……!)


 リーナさんが聞いたら三角眼になりそうなことを考えながら、私はゆっくりと身体を起こす。


「おう。起きたかエリシア」

「すみません、ぐっすり眠ってしまって──」

「まったくだ。健康第一だぞ?」

「ん。夢中になったエリシアは、私よりもひどい」


 ガルドさんの言葉に、リーナさんまで呆れたような顔でうなずいている。

 どうやらパーティーの面々が、周囲を警戒してくれているらしい。


 私はソファから身を乗り出し、周囲を見渡す。

 どうやらソファは、私の指示がなくても、順調にセレスティアに向かって飛んでいるらしい。


 川の水が、大陸の縁から雲の中まで流れ落ちている。

 ゲームで絶景ポイントとして有名だった、天空の滝だ。


(うん。あの滝を眺めながら、アイスを食べるのもいいわね!)


 私はソファの目的地を、滝のそばの岩場に設定し直した。


***


 やがてセレスティアに到着すると、私は滝を見渡せる岩場にソファを下ろした。

 皆さんとソファを降り、さっそくパンや果物を広げていく。


「それじゃあ、始めますね!」


 材料を入れ、魔法陣を動かす。

 木べらがひとりでに回り始めると、リーナさんたちが食べかけのパンを片手に身を寄せてきた。


「おお、本当に勝手に混ぜてるぞ」

「ふふふ。今朝のアイスを作ったのは、この子です!」


 私はボウルに、刻んだ果物を落とす。

 すると木べらは、果物を潰さないようにすいっと避けた。


「……器用なもんだな」

「こだわりましたから!」

「こだわる前にちゃんと寝て?」

「ごもっとも」


 リーナさんの突っ込みに、私は首をすくめる。

 ガルドさんは、そんなやり取りの間も、まじまじと木べらを見つめていた。


 しばらくの時間が経ち、ボウルの中のクリームが固まり始める。


「エリシア。もう食べられる?」

「もう少し冷やした方が、しっかり固まりますよ」

「私は柔らかいのでいい。先に私の分だけ、すくって」

「お、俺も──」


 ……どうやら待ちきれないらしい。


 気持ちは分かるけどね。

 差し出された器に、私は柔らかいアイスを盛ってやる。


「どうぞ。パンに付けても美味しいですよ?」

「なんと! エリシア……恐ろしい子!」


 ガルドさんとリーナさんが大袈裟に反応し、パンをちぎってアイスをたっぷり載せて頬張った。

 それからクワッと目を見開き、幸せそうな顔をする。


「エリシアさん。私ももらっていいの?」

「もちろんです! まだまだ材料はありますよ?」


 さらには回復役の女性──ミレーユさんまでもが、遠慮がちに器を差し出してくる。


 ほかの皆さんにも配り、コハクにも小皿に取り分けてやる。

 前足でお皿を押さえ、一生懸命に舐める姿に見入っていると横から声がした。


『……我の分は?』

「ありますよ。はい、ハクヨウ様は大盛りで!」


 少し大きなお皿に盛って差し出す。

 ハクヨウ様は悠々と口をつけ、あっという間に平らげた。


『うむ。美味であった』

「えっ、もう!?」

『器が小さい』


 空になったお皿が、鼻先でこちらに押されてきた。

 コハクも不満そうに、く~んと鳴いている。


「駄目です! 食べ過ぎたらお腹冷やしますから!」


 二匹が、じっとこちらを見つめてくる。


「大丈夫。そしたら私が治すから!」


 ミレーユさんはそう言いながら、自分の空の器も差し出してきた。

 私は思わず、ぷっと吹き出した。



 ──そうして楽しいピクニックを満喫しながら。


 私は周囲を見渡した。

 視界に入るのは、森の奥にある石造りの神殿。


(そういえば……あそこ、前は寄らなかったのよね)


 セレスティアという大陸は、レア素材の宝庫だ。

 それだけでなく、神殿には古代文明の技術が残されている。

 中でも奥にある古代工房は、珍しい生産道具を求めるプレイヤーに人気だった。


 せっかくなら、今度は中ものぞいてみたい。

 神殿の中にも、天井いっぱいに星が流れる「星海の回廊」と呼ばれるとっておきの絶景ポイントがあるし、なによりあの超レアアイテムがほしいのだ。


(……星精霊たちの金槌!)


 硬い素材を自在に打ち延ばし、精密な加工を可能にする。特に高レアリティの素材の加工に重宝する──というのが、ゲームでのアイテム説明だった。


 攻略Wikiには、セレスティア解放後にやるべきこととして「まず1に星精霊たちの金槌を取れ。2に星精霊たちの金槌を取れ。34がなくて5に星精霊たちの金槌を取れ」なんて書き込まれてたっけ。


 実際、上位の生産職にとっては作れるものがぐっと増える必須アイテムと言えた。

 私としても、ぜひとも手に入れておきたい道具だ。


(──この世界は、ゲームよりは攻略が遅れている? でも……ちょっとだけなら)


「せっかくなので、あの神殿、軽く攻略(アタック)してみませんか?」


 私は思い切って、口を開くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂きありがとうございます!!
ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。