アイスを作るだけのはずでした!
王家から注文を受けた薬を傷めずに運ぶための保冷箱。
あの温度を一定に保つ術式は、空飛ぶソファにも応用されていた。
その機能はそのままに、今度は保つ温度をぐっと下げてやればいい。
(よし! これで冷たいおやつを持ち運び放題!)
思い出したのは、港町リモーネのシャーベットだ。
ゲームでは回復アイテムとして売られていたが、気合いの入ったデザートのグラフィックは美味しそうだと一部で人気だった。
ご飯が美味しそうなゲームは名作なのだ。
(よし! せっかくなので、私も作っちゃいましょう……とびきり美味しいアイスを!)
さすがに、明日までにリモーネを訪問するのは不可能だ。
──アイスがないなら、アイスを作ればいいじゃない?
そんなテンションで、私はアイスクリーム作りに取りかかるのだった。
***
数時間後。
夕方の工房で、私は金属のボウルを見下ろしていた。
作業台の上には、店で買ってきたアイスの材料。
材料を脇に寄せ、ボウルの底には冷却の魔法陣を刻んでおく。
(──ゲームだと材料を集めるだけで完成したけど、実際はここからが本番なのよね!)
私は腕まくりをして、木べらを手に取った。
──まず注ぐのは牛乳だ。
次に、砂糖を入れてかき混ぜる。
砂糖が溶けたところに、クリームを入れて更にかき混ぜる。
それだけで、不思議といい匂いがしてきた。
スプーンの先で、少しだけ味見。
(ん~! もう美味しい!)
このまま飲んでしまいたいけれど、ぐっと我慢。
ここからが大切なのだ。
私は、ボウルに刻んだ魔法陣に魔力を流した。
一気に冷えすぎないように、少しずつ、少しずつ。
しばらく冷やしていると、縁に沿って白く固まり始めた。
「おお、いい感じ……!」
ゲームでは、いくつかアレンジレシピなんてものもあった。
けれども、最初から挑むのは無謀だろう。
私は、固まったところを崩しながら、ぐるぐるとかき混ぜる。
なめらかなアイスにするには、途中でこうして混ぜてやる必要があるのだ。
もう一度、冷やす。固まったところを、混ぜる。
また冷やして、また混ぜて──。
(……これ、私がずっと混ぜる必要、ある?)
ちょっとした思いつき。
私は、作業台の端で、ころころと動いているものに目を向ける。
勝手に転がり続けるボール──コハクの遊び道具として作った代物だ。
(あの術式も使えるのでは!?)
セレスティア産の素材の無駄遣い!
でも、その無駄遣いこそが、また楽しいのだ。
私は、鼻歌を歌いながら木べらに魔法陣を取り付けるのだった。
***
──それから少しして。
ボウルの中では、木べらがゆっくりと回っていた。
ボウルの縁に固まりかけたアイスをこそげ取り、ぐるぐると混ぜ合わせる。
冷やして、混ぜて、また冷やす。
(うん、これなら完成できそう!)
動きを見ながら調整するから、寝ている訳にもいかないんだけどね。
魔法陣を調整しながら、また動かしていく。
木べらが通ったあとに、白い筋が残るようになってきた。
ぽてりと折り重なるアイスを眺めているだけでも、楽しくなってくる。
(もうちょっと、かき混ぜるペースはゆっくりでもいいわね!)
(……温度調整と一緒に、ここもうまいこと自動的に調整できないかしら?)
試しに、小さなボウルに少し取り分け、刻んだ果物を入れてみる。
(果肉は潰したくないし……当たりそうになったら、木べらが避けるようにしちゃいましょう!)
魔法陣を書き足して、木べらをこちらのボウルに移す。
くるりと回った木べらが、果肉の手前でぴたりと止まった。
そのままスイッと横にずれて、また回り始める。
「下手すると、私より上手いんじゃない?」
ふと顔を上げると、窓の外はすっかり暗くなっていた。
私は明かりを灯し、残っている果物に手を伸ばす。
(あと一種類だけ。これでも上手く混ざるか、試しておきましょう!)
そんな悪ノリを繰り返しながら、無駄に豪華な魔法陣を搭載したハイテクな木べらが仕上がっていく。
アイスクリームを作るためには、明らかなオーバースペック──でも、それがいい!!
ところが、ひとつ試すと、また別の果物でも作ってみたくなる。
新しい材料で試しては、木べらの動きを調整する。
そうして何度も試作を繰り返し……。
「できた~!」
卓上には、真っ白なアイスクリーム。
いくつかの果物を入れたアレンジバージョンも出来上がっていた。
副産物として、材料を放り込むだけでアイスを作ってくれる製造機の姿まで。
(……あれえ? なんでアイスクリーム作るはずが、魔道具が1つ増えてるんだろう……?)
少しだけ冷や汗をかき……、
「そんなことよりも……味見ね!!」
──私は、待ちかねたとばかりにスプーンを差し込んだ。
白い表面が、くるんと丸まる。
たっぷりすくって、口に運ぶと。
「ん~~っ! 冷たいっ、そして甘~い!」
舌の上でなめらかに溶けて、濃いミルクの味がいっぱいに広がった。
美味しい……!
ちゃんとしたアイスクリームだ!
ファンタジー世界でも巡り会えた味に感謝。
(リモーネの本物も、いつか食べに行きたいわね……!)
食べ比べてみたい。
でも明日のピクニックには、このアイスを持っていこう。
そう私がウキウキしていると。
「エリシア、おはよう──……って、あれ!?」
眠そうな顔のリーナが工房の扉を開き、目をまんまるに見開いた。
(……おはよう?)
窓に目を向けると、いつの間にか朝の光が差し込んでいた。
「……えっ、もう朝!?」




