私はブラック気質じゃありません!!
朝の工房で、私は鼻歌を歌っていた。
──作業台の上には、リーナさんの杖。
その先に取りつけたマナ結晶の中で、小さな光がゆらゆらと揺れている。
ガルドさんの盾に組み込んだ魔法を保存する術式。
あれを杖にも使えば、前もって仕込んでおいた魔法を詠唱なしで撃ち出せるのでは?
そんな思いつきのもと、ついでに何種類も保存できたら楽しそう、とか、どうせなら合体魔法なんて楽しそう──なんて勢いで悪ノリしていた結果、とてつもない規模の魔法陣を作ることになってしまったのだ。
作業台の端には、お茶が冷めないカップと勝手に転がり続けるボール。
どちらもセレスティアの素材で作ったものだ。
他にも冒険者たちから預かったいくつかの武器まで──どの冒険者たちも、気が向いたらでいいなんて言いつつ、とても面白そうな"夢"を語ってくれるものだから、うっかり乗せられて張り切りすぎてしまっているのが実情。
(ふふふ。作りたいものが、次から次に浮かんでくるわね……!)
おかげで作業台は、ここ数日で試作品だらけになっていた。
私の手元を、リーナさんがさっきからじっと見ている。
一緒に楽しそうに悪ノリしていたのも今や昔。
魔改造されまくった杖を前に、リーナは若干呆れ気味だ。
「エリシア。もう、それで完成?」
「もうちょっとだけ! そうだ、続けて撃つときに連射できるように──」
「またヤバい機能足そうとしてる!?」
「だってリーナさん、これほど立派な素材を活かしきらないのは犯罪ですよ?」
「世の中の魔道具士が、全員犯罪者になっちゃう!」
せっかく手に入った最高級の素材たちだ。
まだ試せることがあるのに、ここで終わりにするなんてもったいない。
私は、新しい紙を引き寄せた。
その紙の上に、リーナさんの手がぺたりと置かれる。
「……その前に。エリシア、昨日はちゃんと寝たの?」
「寝ましたよ。……そこの椅子で」
「一昨日は?」
「……夜って短いですね?」
リーナさんが、天を仰いだ。
そして、こてりと首を傾げると。
「……エリシアって、ブラック気質?」
──ブラック気質?
ブラック気質?
ブラック気質──。
(なわけあるかい!!)
ぶんぶんと首を横に振った。
私は自由気ままなスローライフを送るのだ。
誰かに働けと言われたわけでもない。締め切りだってないし、やめようと思えば、いつでも──。
……いつでも?
(全ッ然、いつでも、辞められてない!!)
なんと恐ろしきや、魔道具の誘惑。
私は愕然としながら、工房の中を見渡している。
──コロンと転がったエナジードリンク(雑貨屋で売っていた)が視界に入る。
二度と手を出すまいと誓ったあれを、当たり前のように飲み干していた!
(こ、これ……うっかり過労死した前世と、同じような生活だ!?)
「三食昼寝オリハルコン付き! リーナさん、今日は久しぶりに羽を伸ばしましょう!!」
「ん。それがいい」
「ということで、いざ素材探しの旅へ! もっかいセレスティアに出発です!」
「……休む、とは?」
リーナさんが、首を傾げたまま固まった。
「休暇ですよ? 景色のいいところを散歩して、好きなものを拾って帰ってくるんです」
「ひえっ、エリシア本気だ……」
「……楽しいは正義!!」
(前世でも同じこと言いながら徹夜でゲームしてる人は、山のようにいたしね!)
もういっそ、開き直ることにした。
リーナさんは、何か言いたそうに私を見ていたが。
「ガルドたちには、私から話しておく。出発は明日にしよう」
「分かりました。なら、おやつを用意しておきます!」
「休んで!?」
***
リーナさんが去った工房にて。
私はピクニックに持っていく、おやつを考えていた。
(蜂蜜パンも捨てがたいけど、バターたっぷりのクッキーも。でも、果物のタルトも───)
一番の制約は、やっぱり保存が効く必要があるということだろうか。
でもゲームでは、収納ボックスに入れて、なんでも持ち歩いてたしなあ。
あの世界でも、特に美味しそうだったのは──
(港町リモーネ特産のシャーベット!! セレスティアの絶景を見ながらアイスクリームが食べたい!!)
私は紙を引き寄せ、持ち手のついた小さな箱を描いた。
内側には金属の板をはめて、蓋はぴったり閉まるように。
そして、冷やすための魔法陣は──。
(そうだ! あの保冷箱、ちょっと改造すれば使えるのでは?)
私は、ふと実家で設計していた術式を思い出すのだった。




